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Spotifyが我が家に音楽をもってきた

「ねえ、藤井風って知ってる?」。マックの女子高生の会話ではない。母と私の会話である。

CDプレイヤーは壊れたまま、音楽番組もろくに見ない。そんな我が家に、音楽が流れるようになった。最近は嵐、King Gnu、神はサイコロを振らない、あたり。どれもSpotifyを知った母がかけているものだ(最近はもっぱら広告の少ないauのうたパスを愛用しているらしい)。

はじまりは、母に付き合ってフィギュアスケートを見ていたときだったと思う。試合の合間で、プログラムで使われている曲をApple Musicで調べるなどしていた。そんな私のその様子に「え、フィギュアの曲もあるの?」と驚く母。「音楽の定額聞き放題がある」くらいの認識はあっても、それが自分の趣味と繋がるとは思っていなかったようだ。

Apple Musicユーザーでない母でも無料で使えるものを……とSpotifyで調べると、すぐにフィギュアスケート関連のプレイリストが出てきた。プレイリストは母としても気に入ったようで、後日「一人で事務作業するときにかけてる」と夕飯を食べながら教えてくれた。

そうこうしているうちに、教えたプレイリスト以外にもいろいろと聞いては「今日は羽生くんのプレイリストを聞いてた」「ネイサンの使ってた曲がよくて」なんて話をしてくれるようになった。そのジャンルがフィギュア音楽の枠を越えていくのに時間はさほどかからなかった。

そしてある日言われるのである。「ねえ、藤井風って知ってる?」

音楽の流行りに疎かった母にそんなことを言われ、私はかなり驚いた。「え、藤井風ってあの藤井風? 歌歌う人?? なんで知ってんの?」と尋ねるくらいには動揺した。「最近サブスクで聞いてるの。あんたと同い年なんだってねー」と私も知らないことを教えてくれた。そうなのね、情報ありがとう。

サブスクは音楽へのアクセスを圧倒的に容易にする。それを目の当たりにした。「わざわざCDを買って読み込んでスマホに移すのは面倒」という母でも、日常的に音楽を聞くようになったのだから。モノ消費からコト消費へ……なんて話をよく聞くが、手軽にアクセスできるからこそ私と母は音楽体験を共有できた。

かくいう私も「サブスクでは聞く」「YouTubeでMVは見る」みたいなアーティストがたくさんいる。それが音楽業界やアーティストに与える影響を考えるとCDを買うべきなのだろうけど、残念ながら全アーティストにジャバジャバお金を使えるほどの富豪ではない。

と同時に、お金と手間をかけてでも手にしたいものがあるということもよく知っている。サブスクでは「自分はこの人に対してお金と時間をかけているんだ」という感覚はなかなか得られない。応援しているアーティストならお金と時間をかけたい。だからこそ私はCDも買う。

突然の推し語りで申し訳ないが、推しはよく「貴重な時間とお金を費やしていただいてありがとうございます」と言う。割と頻繁に言う。

別に積まないオタクに愛はないとか、そういう話ではない。ただ、この話を聞くたびに「今この瞬間、納得して時間とお金をかけられるほど推しが好きなんだな」と改めて噛み締める手元のCDやグッズは自分の「好き」の記録と言えるだろう。

……ま、そんな推しに出会わせてくれたのはSpotifyなのだから、世の中なかなか白黒つけられないものですね。好きだと言えるものに出会わせてくれて、ありがとうSpotify。あと今はApple Musicユーザーでごめん。

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