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チーム安野のデザイナーが見た都知事選。選挙に必要な制作物まとめ【保存版】 #安野たかひろ

安野たかひろ事務所 デザインチームリーダーの山根です。

都知事選から10日間が経ちました。残念ながら当選には至りませんでしたが、地盤看板のない無所属新人である安野たかひろが、マスコミが決めた「主要候補4人」に次いで5位/15万票超という得票をいただけたことは、一つの大きな意味ある成果だったと思っています。ご支援をいただいた皆様、ボランティアの皆様、本当にありがとうございました。

この記事では、記憶が薄れないうちにデザインチームが見た景色を記録しておきたいと思います。チーム安野は大方針として、政治や選挙をもっとオープンに開いていくことを掲げており、我々が今回経験したことをできる限り形式知化して公開することで、新たに政治に挑戦する人のハードルを下げたいという思いがあるからです。

今回我々が制作したものがベストプラクティスだとは思いませんが、選挙の素人が手探りながら仮説を持ってデザインに落とし込んだプロセスを公開することには、一定意味があると考えています。私自身、今回の制作にあたってwebでノウハウやリファレンスを片っ端から探したのですが、一覧されたものがなくとても苦労しました。デザイナーの諸先輩方からのコメントはもちろんこと、デザイン観点に限らず改善や示唆があれば忌憚のなくフィードバックいただけるとありがたいです。
ちなみに、1.5万字近くあってめちゃめちゃ長いです。

下記には公選法上の規約やルールに関する記述も入れておりますが、いずれも2024年東京都知事選におけるものであり、また、正確性や完全性を保証するものではありません。情報の利用に際しては、ご自身の判断と責任において行ってください。如何なる損害や不利益についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。


はじめに

私自身、選挙活動に関わるのは全くの初めてでした。また、様々な事情から実制作に着手したのは6月に入ってからで、6/20が告示日だったことを考えると異常なスケジュールだったと振り返っています。本業もある中だったので、毎晩仕事がおわったあとひたすらにつくり続けました。もともと安野とは「選挙公報とポスター作ってちょ」「いいよ」という会話だけだったのですが、選挙戦が進むにつれて次から次へと必要な制作物があることがわかり、何度も部屋から日の出を見ました。(きれいだった)

背景として、私の見通しの甘さや手の遅さは多分にあるのですが、同じくらい、選挙を戦うにあたりどの制作物(ツール)が有用なのかを事前に一望・理解できておらず、追加的に制作を意思決定をしたものが多かったことがあります。
ここでは、選挙を戦う上で必要な制作物を、その特性とともにできる限り詳らかにしながら、チーム安野のデザインがどのように形になっていったかをご紹介します。これらのナレッジが、未来の無所属・新人が出馬する際の役にたつことを心から願っています

この記事のまとめ

  • マスメディアの露出に頼れない無所属新人が選挙を戦うにあたり、①選挙公報、②選挙ポスター、③web/SNS はまさに認知獲得三種の神器。欠かすことができない最も重要な選挙ツール。

  • 街頭演説をする余力があるなら、たすき、のぼり、名刺、選挙カー、証紙ビラは強力な武器。街頭でリアルに有権者の方と触れ合うことは得票に直結する活動であり、上記5つはその効果を大きくブーストしてくれる。

  • その上で、チーム安野において特徴的だったのは、マニフェスト(詳細版/まとめ版/1枚画像)、AIあんの、GitHub。これらのツールによって、政策を知ってもらい、都民のフィードバックを聞き、さらにアップデートするというサイクルを回すことができた。

チーム安野が制作したツール一覧

  • 認知獲得三種の神器

    • 選挙公報 1,400万部

    • 選挙ポスター 15,800部

    • 安野たかひろ公式web / SNS一式

      • SNS = X / YouTube / Instagram / TikTok

      • SNS画像 多数(サムネイル、ヘッダー画像、イベント告知画像、1政策1カードにまとめた政策カードなど)

  • 五つの街頭演説グッズ

    • たすき 2本(1本は予備)

    • のぼり 5本(公選法上、名前と顔写真を表示できるのは5本まで)

    • 名刺 1,000枚

    • 看板付きの選挙カー 1台

    • 選挙証紙ビラ 6,000枚

  • 安野チームが注力した

    • マニフェスト(まとめ版) 30ページ

    • マニフェスト(詳細版)130ページ

    • AIあんの(Youtube/電話) 一式

  • その他

    • 個人演説会用ポスター

    • 新聞広告2段 4紙(立候補者は無料で掲載できる)

選挙公報:都民の全戸にお届けできるパワフルメディア

東京の全戸(おそらく1400万世帯)に配布され、かつ投票先を選ぶ上で最も重視する人が多いというデータもある最重要メディアの一つ。新聞ライクな媒体のため、受け手は「文章を読む」マインドで向き合ってくれる

データは2016年と少々古いが、第37回政治山調査・読売IS合同調査より抜粋

規約上、過度に大きな文字、カラー、写真を入れることはできない

本文欄は縦111mm以内、横319mm以内。右側の名前欄は縦67mm以内、49mm以内とする。
印刷は、黒一色とする。
本文欄には写真を掲載できない。(イラストはok)
本文欄に使用する文字、シンボルマークは5cmを超えてはならない。

令和6年 東京都知事選挙 選挙公報掲載申請について

押さえておくべき重要な事実として、選挙公報が全戸に配布されるのは投票日の1週間ほど前。つまり選挙戦が始まってから10日間ほど経ったタイミングで手元にお届けされることになる。選挙戦後半だ。しかしその一方で、入稿物の提出締切は事前審査のため告示日の約2週間前と、あらゆる制作物の中で最も手前に設定されているため、掲載情報の判断が重要になる。(取り下げるかもしれない施策や政策は、選挙公報に掲載すると齟齬が生じることになる)

デザインについてはwebで辿りうる限りのあらゆる選挙公報を見て、傾向を考察した。あくまで私見だが、3つの大きな気づきがあった。

選挙ドットコム2020より引用。アーカイブがありがたすぎた 

Point 1|見出しの一言でアイキャッチする

当たり前だが、読者は紙面全体に目を滑らせながら眺めるため、目を止めてもらわなければ話にならない。特に今回は50人以上の候補者が並び、かつ多くは語らないがノイズ情報も多くなることが予想されたため、整然と、かつ洗練された印象にすることが重要だと考えた。アイキャッチの後、興味を持った人が読みたくなるような詳細政策を情報整理してレイアウトする。

Point 2|様々な有権者のフックになる情報を散りばめる

投票先検討時の重視点は人それぞれであり、プロフィールで決める人、政策で決める人、人柄やイメージで決める人、実績で決める人など様々であることが想定された。選挙公報は全有権者に配布されるメディアであるため、ワンイシューで候補者の言いたいことを言うのではなく、様々な人のフックになり得る情報を散りばめることが重要そうであった。

例えば、2020年都知事選時の小池さんは、様々なフック情報が散りばめられていた。プロフィール、政策情報はもちろん、人柄を感じさせる手書き文字、SNS、これまでの実績、コロナ対策などなど。個人的にレイアウトが美しいとは思わないが、うまく枠内に収められている。

2020年都知事選の小池さんの公報

Point 3|最後は名前と顔を覚えてもらうための工夫を

その場でコンバージョンできるwebと異なり、興味を持ってもらった人には顔と名前を印象付けなければならない。アイキャッチと政策が読まれたとしても、最後顔と名前を覚えてもらえなければ本末転倒だ。カラー情報で記憶に残すことはできないため、右側の名前と写真で記憶してもらうための工夫が必要だと考えた。

これらを踏まえてデザインしたのがこちら

10パターンくらいつくって検証して、チーム安野メンバーにアンケートをとりながら絞り込んでいった。

最終版のデザイン

工夫した点は、コピーを右向き矢印のオブジェクトに載せることで顔と名前に目線を誘導したことだ。顔と名前の近くにプロフィールを置くことで可読性を担保した。
コピーは「もしも」というSF的な表現を採用することで、AIエンジニアがこれまでとは違うアプローチで都政を変えようとしていることを伝えようとした。メインコピーの下にもしもAIエンジニアが都知事になったら「どうなるか」を整然とレイアウトし、さらにその下に選挙施策を配置し、QRコードでコンバージョンポイントをつくった。
これらが機能したかどうかは読者の判断にお任せするが、類似のデザインもなく、周りの声を聞く限り及第点だったのではないかと思う。お褒めの言葉もいただきありがたい。

ちなみに余談だが、#TOKYOAI というハッシュタグが爆誕したのはこのタイミングで、安野に「これは東京AIと東京愛をかけたコピーなんだ」と伝えたところ、安野は「自分の中に東京への愛があることに初めて気づいてハッとした」と言って笑っていた。愛に気づけてよかったね。

ちなみに小池さんは、選挙公報が配布される前に、カラー版の選挙公報を公式Xにupされており、投票日にこれに気づいた山根は「賢いな〜〜〜〜〜」と唸ってしまった。いや、今考えれば当たり前のことなんですけどね。案外思いつかなかったです。次があるならやる。

選挙ポスター:選挙において最も広くリーチする屋外メディア

今回の都知事選のポスター掲示板

選挙運動において、選挙ポスターは有権者に最も広くリーチできる媒体というデータがある。確かに、選挙期間中にのみ出現する掲示板は、普段見慣れない異物であり、選挙活動が終わった今も自然と目が向いてしまう。都内で合計14,000箇所用意されるポスター掲示板は、候補者を横並びで比較できる数少ないメディアでもあり、選挙活動の主戦場と言ってもいいだろう。

令和4年 第49回 衆議院議員総選挙 全国意識調査 p56より画像抜粋。
「見聞きした」ではトップ、「役に立った」では選挙公報の方がはるかに高い。

また、掲示板には陣営自らポスターを貼って回る必要があるのだが、ポスターを貼る行為は選挙に本気で立候補していることを示す行為でもあり、ポスターが貼られていないと「あら、あの人は本気ではないのかしら」と思われてしまう。安野陣営も最初は自力でポスターを貼るしか選択肢がなかったため、泣く泣くエリアを絞ることを想定していた。が、蓋を開けてみれば想像をはるかに超えるボランティアの方にご協力をいただき、最終的には東京都にある全掲示板にポスターを貼ることができた。そのプロセスは誇張抜きに感動的で奇跡的で、未読の方はぜひ。

デザインについて。「読むメディア」であった選挙公報とは異なり、選挙ポスターは街中で通りすがりの人が「見るメディア」であるため、文字情報よりもビジュアル情報が重要だ。いかに他の候補者の並びの中で、自分のポスターに視線を向けてもらうかの勝負だ。

選挙は基本的には知名度によって投票が決まる構造があり、知名度を持たない候補者にとって厳しい戦いだ。少しでも目を向けてもらうために最大限創意工夫することが必要だが、難しいのは、「新しくないと目立たないが、奇抜なことをすると泡沫判断をされてしまう」というバランスだ。
具体例は挙げないが、一目見て「泡沫っぽいな〜」と感じてしまう感覚はわかっていただけるのではと思う。選挙ポスターらしい文法を踏襲しつつ、それでいて既存のトンマナから少しずらすのがデザインの最も苦労した点であった。

また、案外重要になるポスター掲示板の中での配置は、立候補届けを提出した際にランダムで決まる。今回の安野は13番で、小池さん清水さんドクター中松さんに挟まれることが多く、割と主要候補の近くに置かれる良い配置だったように思う。

デザイン:過去の選挙ポスターをもとに仮説構築

webで辿れる限りのポスターを見てまわった

最初、日本の選挙ポスターはなぜこんなにもカッコ悪んだろうと思っていた。ゴリゴリにアートディレクションされたアメリカのオバマのようなポスターがないのはなぜなのか不思議でしょうがなかった。

2008年米大統領選のバラク・オバマ候補のポスター

なので検証においては、選挙ポスターっぽいものから、オバマっぽいもの、アーティストライクなものまで、20パターンくらい色々なデザインを試して掲示板の写真に合成して検証してみた。
ここでは検討内容の掲載は差し控えるが、複数を見比べて検討する中で日本の選挙ポスターがこのようになるに至った必然性を強く実感した。選挙ポスターのデザイントーンから離れすぎると、この人に投票しようという気持ちにならないのだ。世の中にある選挙ポスターは、どれも決して一般的な意味で「かっこいいポスター」ではないが、日本人が「ちゃんとした政治家っぽい」と感じるための認知的叡智が詰まった表現物だと納得した。
(個人的には、日本の選挙ポスターのデザイントーンをアップデートするトライはいつか見てみたいと心から思っている)

Point 1 |情報の優先順位は、顔>名前>>>>>>>属性

2011東京都知事選の選挙ポスター

問題です。以下の2枚を見比べて、どちらのポスターに目がいき、印象に残るだろうか?

即答で左側だろう。もちろんドクター・中松の知名度や赤ベタ白ベタの違いはあるが、最も大きな差分は顔の有無だ。

人間の印象に最も強く残り、かつ情報量が多いのは「顔」だ。1人の人間を選ぶための場である選挙において、顔以上に優先すべきエレメントはない。顔写真を小さくしたりカットしたりすると、1人の人間が立候補している印象が薄まってしまう。このことから基本構造は、顔と名前で8割、残り2割で詳細情報を伝えることに決めた。さらに、歯が見えた笑顔の方が印象に残るというデータ、笑顔の候補者の方が実際に得票につながりやすいという先行事例に基づき、笑顔の写真をセレクトして採用した。

Point 2|既存ポスターの色は、彩度の高い原色系ばかり

過去の中央区議会選挙のポスター掲示板

選挙ポスターのカラーは、赤や黄色など注意・警戒系の強い色が使われることが非常に多い。選挙ポスターとはアテンションの奪い合いであり、彩度の高い原色に近い色が好まれる。ただ個人的には、原色系の色ばかりのポスターを見ていると、逆に埋もれているようにも感じられた。また、全体的にギラギラビカビカした印象で、強い/疲れると感じたことはないだろうか?

また、過去10年分ほどを振り返って、キーカラーにほとんどグラデーションが使われていないことは意外だった。これには何か理由があるのだろうか。近年、特にデジタル系のデザインにおいてはグラデーションがほぼデフォルトになっている。また、グラデーションは安野のテクノロジー・AI・デジタル活用の方針とも相性がよい。それも彩度の高いギラギラした色よりも、パステル寄りの明るくあたたかいグラデーションがよいのではないか。このような考えから、他ポスターと差別化するためにパステルカラーのグラデーションを採用するという仮説がうまれた。

最終的に決めたカラーボード

ただし最後まで、中間色であるパステルカラーを採用するのは勇気が必要だった。遠目で見た時に、アテンションを得られないリスクと隣り合わせだからだ(現に選挙期間中、そのようなお叱りの声もいただいた)。
しかしそれでも最終的には、人間のアテンションを無理やり奪うのではなく、市民が自然と目を向けたくなるようなビジュアルにするという方向性で心を決めた。安野自身の敵をつくらず人にポジティブに向き合う人間性、赤か青か緑かという原色の選択ではなく、誰一人取り残さない未来のためにテクノロジーを用いるという思想を、この様々な色が含まれるパステルグラデーションの配色に込めた。カラーについては、今回の結果を踏まえてしっかり検証したい。

ちなみにテクノロジーといえば紺〜青系が多い。
理性の象徴という感じだが、冷たい印象もうけるため、逆にしようと考えた

Point 3|選挙ポスターのデザインエレメントは、円形と直角四角形ばかり

さらにエレメントに関する気づきとして、既存の選挙ポスターには円形や四角形が多用される一方で、角丸が使われることは少ないことに気がついた。おそらく大半の立候補者が、ポスター業者のテンプレから選んでいるためだと思われる。
角丸は、上記グラデーション同様、デジタル系のモダンなデザインで多用されるモチーフだ。アプリのアイコンがそうであるようにテクノロジーとAIのイメージにも近いため、キーエレメントとして角丸を採用することに決めた。

Point 4|顔・名前・文章以外のオブジェクトが入っていることは稀

①で、顔>名前>>>>>文章と書いたが、逆にいえば、ポスターの基本構成はほぼこの3つしかなかった。もちろん小さくQRコードが入っていることはあるが、それ以外のオブジェクトが入っているポスターは非常に少なかった。ここから、安野のアイデンティティに近しいオブジェクトを配置することで、アイデンティティを作れないだろうか?という仮説が生まれた。

今回選挙ポスターも、みんな顔と名前と文字ばかり。

デザインの方針を整理すると

  1. 顔と名前で8割、残り2割で詳細情報

  2. キーカラーにグラデーションを採用。前向きで爽やかな印象が出るパステルカラーに。

  3. 角丸をキーエレメントとして採用する

  4. サブ要素として選挙ポスターであまり見ないオブジェクトを入れることにチャレンジ

これらを踏まえてデザインしたのがこちら

解説をするのは野暮だが一応言語化しておくと

爽やかであたたかみのあるグラデーション
パソコンを見切れさせることでエンジニアっぽさを
角丸のエレメントを敷いた
歯を見せた笑顔の写真を採用、顔はできるだけ大きく
見る人の視線を、名前から始まり顔の周りを回るように誘導するレイアウト
・コンバージョンポイントであるQRコードは右下に。
・スマートフォンの中に入れることで、デジタルライクな印象を

実は、この1案に決まるまでには、20パターン→5パターン→2パターンと絞り込んできて、最後2方向で細部を詰めながら悩んでいた。スマホのエレメントをもっと立たせることでテクノロジー感を表現し、アイキャッチにする方向性もあるのでは考えたためだ。王道A案、冒険B案という選択だ。

安野の顔とQRコードをスマホの中に入れるというB案もこっそり公開

ポスターが与える第一印象は得票に直結するため、これには相当悩んだ。最後は私のデザインの師匠にも相談して、2方向とも微に入り細に入り詰めていった。手探りで進める中で、本当にありがたかった。
入稿ギリギリまで悩んだ挙句、チームからの投票を参考にしつつ、最終的に安野と相談してA案に意思決定した。やはり顔の大きさを担保すること、新人として挑戦する以上選挙ポスターの王道から外れすぎないことが重要なのではだという判断だ。もしB案を選んでいたらどうだったのか、パラレルワールドがあるなら見てみたい。

印刷上のTips

印刷についても簡単に付記しておく。

  • 紙はユポタック紙一択。屋外に17日間掲示されるため耐候性が必須であり、かつ、手作業で掲示板に貼りつけて回る必要があるため裏紙は粘着シートである必要があるためだ。

  • サイズは、ポスターのどこかに個人演説会の日付と場所を記載すれば、最大420mm x 400mmにすることができる。このサイズを1mmでも超えると公選法違反になるため、1mm小さく裁断してくれる業者を選ぶと安心

  • 個人演説会の日付と場所、掲示責任者、印刷会社の情報の記載を忘れてしまうと全量回収になってしまうため、入稿時には1000回見直した

  • 印刷はみんな大好きGraphic様

掲示責任者、印刷会社、個人演説会の情報は左下に掲載。これが抜けると死

蛇足だが一つ、最速でポスターを追加発注する方法についても付記しておく。選挙戦終盤のとある夕方、ポスター担当のあるメンバーから連絡をもらった。「ポスター枚数が足りなくなりそうで、明朝までに800枚追加で印刷できないかな」。痺れる。翌朝か。今17時だから猶予は15時間か。
あらゆる印刷業者に掛け合ったが、400mm x 420mmのユポタック紙にオフセットで印刷するとすると、最速でも印刷に1営業日、発送に1営業日かかる。どう頑張っても翌朝には届かない。仮に営業所まで取りに行ったとしても、印刷に24時間はかかる。
これは無理かと諦めかけたときに苦肉の策で思いついたのが、ポスターをA3にレイアウトし直し、ラミネート加工するというアイデアだ。A3サイズであれば、ACCEAやキンコーズのオンデマンド印刷で最速3〜9時間で印刷してくれる。24時間営業の店舗もあるため、深夜に入稿したら翌朝までに印刷をあげてくれるという神対応だ。これはいける。ただ注意しなければならないのは、ラミネートして420mm x 400mmを超えても死ぬということだ。地雷が多くて恐ろしい。
最終的にこれらの地雷を避けながら、なんとか翌朝までにA3 800枚を印刷できた。結果、安野陣営は選挙戦の前日までに、全掲示板にポスターを貼ることができた。綱渡りすぎる。最初から余裕部数を持って印刷しておくことの重要性を確認しておきたい。

webサイト&SNS:マス露出を持たざるものの必須メディア

すべての情報格納庫であり、バズ次第ではリーチにも効き、かつ有権者とインタラクティブにコミュニケーションもできるという、持たざるものが最大限活用すべき必須メディアだ。その活用方法には陣営ごとにカラーが現れやすく、YouTubeをメインメディアに置く陣営、Xを使いまくる陣営、公式webをおく陣営置かない陣営、webはほぼタッチしない陣営など様々だ。

チーム安野におけるweb制作、SNS運用に関しては、別メンバーが別で振り返り記事を執筆中のためここでは詳細は記載しない。
マニフェスト、プロフィールに加えて、AIあんの、ブロードリスニングマニフェストの改善などの施策、街頭演説の場所など、時事刻々とダイナミックに活動がアップデートしていたので、リアルタイムに情報を更新することを心がけた。

webサイトは、世界観を担保しながらリーダビリティとアクセシビリティをできる限り担保しながら実装した。スーパーエンジニア/デザイナの植田さんが入ってくれて、あらゆる情報にキャッチアップしながらゴリゴリと実装してくれた。ポスターマップを実装し、webをつくり、ビラをつくり、政策提言までしていた植田さんに私は頭が上がらない。

https://twitter.com/annotakahiro24

途中で、サムネイル画像が大量に必要だということがわかったので、SNSチームで独立運用できるように、デザイン制作はCanvaを採用した。正直サムネイル制作には全く手が回らず、ほとんどお任せさせてもらった(懺悔)

SNS投下用の政策カードは序盤につくるべし

政策や施策を1制作1カードにまとめて発信した。
制作リソースが全く足りず、選挙戦終盤に制作して公開したのだが、これは私の大きな反省点である。本来はマニフェストが公開された時点で、すぐにカード化して発信されるべきであった。もっと拡散するポテンシャルがあったのに伸ばせなかったのはひとえに私の優先順位付けの甘さだったと振り返っている。

また、カードの制作はfigmaで実施した。終盤にかけて、illustrator、canva、google slide、figmaとツールが複数走ってしまい、これは大いに混乱した。当初デザインチームが私一人だったため、イラレで作り始めてしまったのだが、最初からfigmaに一本化して複数人編集前提で進めるべきだった。web周りは反省点が多い。figmaの無料アカウントをつくり、チームは誰でも編集できるようにした。

figmaの編集画面

たすき・のぼり・名刺・選挙カー・証紙ビラで街頭演説をブーストする

ここからは、街頭演説のために必要な制作物を紹介する。

街頭演説は駅前、商店街アーケードなど人が集まるところに赴き、声を届ける活動だ。当然、ただ街頭に立つだけでは雑踏に紛れてしまう。立って話しているのが都知事選立候補者であることが伝わり、興味を持った人に主張や名前を覚えてもらわなければならない。ここではそのためのツールを5つ紹介する。

たすき:24時間身につけることが許されている基本装備

 

公職選挙法において、街頭演説には様々な縛りが課されている。たとえば演説ができるのは選挙期間中の20時まで。ビラを配れるのは、演説の前後、標旗を掲げている間のみ、かつ腕章をつけた人からしか配ってはならない。などなど、様々な決まりがある(破ると公選法違反で大変なことになる)。

そんな中でたすきは、選挙期間中であればなんの制約もなく、立候補者はいつでもどこでも身につけることが許されている数少ないメディアだ
たすきをかけているとどこにいても立候補者であることが伝わるし、街中でも目立つため、基本的に外に行く時は常に身につけておくと良い。安野はトイレに行く時も、移動する時も基本的にはずっと身につけていた。
失くしてしまうことも多く、予備用含めて2本発注しておいた方が無難。デザインはキーカラーのグラデーションを採用し、名前と肩書き、33歳無所属であることを記した。「都知事候補」と入れるのも忘れてはならない。

のぼり:遠目にも演説をやってることが伝わるアイキャッチ

街頭演説をするにあたり、のぼりの存在は想像以上に大きかった。のぼりが掲げてあるだけで遠目にも演説していることがわかるだけでなく街頭演説の場所取りにも役に立った。街頭演説には、しやすい場所としにくい場所があり、人気の場所は陣営間で取り合いになることが多い。よって人気の場所で演説をする際には、各陣営は花見の場所取りのように事前に場所取りをするのだが、その時にのぼりは大いに役立った。のぼりを持っていないと、他陣営のスタッフがふら〜っときて場所をとってしまうこともあるからだ。

注意しなければならないのは、立候補者の顔と名前が掲示されたのぼりには、公選法上の制限がかかることだ。今回都知事選の場合、選管から支給される表示物をつければ5本まで掲示することができたため、安野陣営も5本フルでのぼりを制作した。本数や利用可否は選挙によってルールが違うためくれぐれも確認いただきたい。

名前付きのぼりには制約がかかるということで、下記のように、公選法上の制約を受けない無地ののぼりを調達している陣営は多かった。イメージカラーに合わせれば、立候補者のものだと認識してくれる。他陣営を見ると、例えば練り歩きや場所取りをする際には無地のぼりを使っているようだった。顔と名前のついたのぼりは貴重資源というわけだ。今回我々は使用しなかったが、あってもよかったかなと振り返っている。

何も書かれていない無地ののぼり

また細かいが、のぼりを固定する足は、持ち歩くことも多いので折りたたみ可能なものがおすすめだ。業者の多くは水の重しをお勧めしてくるが、重くて持ち歩きに不便であるため、買う必要はない。

Amazonで「三脚ポール台」で検索すると出てくる

名刺:投票に直結するエンゲージメディア

有権者に名前を覚えてもらう上で、名刺は非常に効果がある。スタッフから配るビラはもちろん重要だが、それ以上にイベントなどでお会いした有権者と候補者本人が交換する名刺はパワフルだ。

考えてみればたしかにビラに比べて、名刺は圧倒的に捨てにくい。本人から直接手渡しされる名刺は、ビラよりも強く印象が残る。選挙期間中、名刺は積極的に活用したい。実際に、私も中野駅前で街頭演説の準備をしているとき、都議会議員補選の選挙期間中だった某候補者に挨拶をされ、名刺を渡された。「わざわざ挨拶をしてくださった」という気持ちになったのを覚えている。特に支持していたわけでもないのだが、現にここでそのエピソードを書く程度には印象に残っており、当然名前も覚えている。名刺パワー恐るべし。

デザインに関しては、安野の名刺なのでここでは明かさない。名前、経歴、キャッチコピー、QRコードなど必要な情報はできるだけ掲載した。本人から渡されるものなので、思った以上に隅々まで読んでくれる。

選挙カー:認知・演説・運搬・休憩、何でもできる万能ツール

俺たちの愛車・ハイゼット
サイドだけでなく前方にも看板が設置できる

今回の選挙活動において、選挙カーは大車輪の活躍をした走っているだけで人は目を向けてくれる。停めてのぼりを掲げたら街頭演説の告知になる。お立ち台に立てば、遠くからでも見てくれる。スピーカーもついてる。ポスター配布など、荷物を運ぶことも当然できる。当初は「一応借りておきますか」くらいの軽い気持ちで調達したが、終わる頃にはこいつなしには選挙は考えられない、完全な相棒になっていた。
安野の隣で運転し続けてくれたなのくろさんの振り返りはこちら。私も2回だけ運転して、選挙カーの運転実績を解除した。道交法の縛りを受けないこともある特別扱いで妙に気持ちよかった。

調達においては、看板サイズなど規格が決められているため、選挙カーレンタル専門業者の利用がおすすめだ。我々は鳥取の事業者を利用した。他陣営でも鳥取ナンバーの選挙カーを見かけた。御用達なんだろう。

デザインは、まあ見ての通りだ。他陣営にはあまりいなかったが、QRコードを掲載するのはおすすめだ。演説中言及すると、読み込んでくれる人もいた。
ちなみに、我々が借りた車は途中からエアコンの効きが悪くなり、暑い日はちょっと死にかけた。予算に余裕があればノアかハイエースサイズの、装備がちゃんとした車の方がよい。もし次があったらそうしようねと汗をかきながらメンバーの間で何度も話し合った。

証紙ビラ:気軽に見えて、取扱要注意のリアルメディア

有権者に手渡しされるビラ。右上に証紙を貼っている。

ビラは演説で興味を持った人に、候補者の詳細情報を伝えられる貴重なリアルメディアだ。言葉だけでは伝えられない情報を、一覧性高く伝えることができる。どれだけネットで話題になっていたとしても、リアルへのリーチは限定的だ。街に出よう。ビラを受け取って読んでもらうことで初めて、受動的な姿勢を能動的な関与に変えることができる。演説前後には全力でビラを配ろう。

ただし、立候補者の顔と名前を掲載するビラは、公選法上の制約事項が非常に多く、配る時には細心の注意が必要だ。
例えば、ビラには必ず選管から支給される証紙が貼り付けられていなければならない。配ることができるのは、演説の前後に標記が掲示されている間のみ、かつ、腕章をつけたスタッフからのみ。もし、証紙が付いていなかったり、配布した人が腕章をしていないと、立候補者は逮捕されるリスクがある(怖すぎ)。これは脅しでも何でもなく、選挙期間中警視庁の公選法違反取締本部は2000人体制で立候補者の選挙活動を監視し続けている。立候補者、スタッフも含めて、一挙手一投足がジト見されていると思った方が良い。他にもルールはあるため、扱いには細心の注意が必要だ。

演説を聞いてくれた人は裏までしっかり読んでくれていた

デザイン上の反省点としては、3つ折りにすると顔と名前が切れるレイアウトにしてしまったことだ。配布する際に、有権者の顔と名前が見えた方が、圧倒的に人は受け取ってくれる。何のビラかわからないと、受け取りたくない気持ちはよくわかる。受け渡し時の形を考慮したデザイン、折り方にした方がよい。

三つ折りで顔と名前が切れるレイアウトにしてしまったのは失敗。顔と名前が見えない。

ちなみに、安野陣営では採用しなかったのだが、候補者の顔と名前を掲載しない確認団体の政治活動ビラであれば、公選法の制約を受けずにいつでもどこでも誰からでも配布することができるようだ。現にいくつかの陣営は、賛否もありつつ、シルエットとキャッチコピー、アイコンロゴで「その人」であることは想起させつつ、顔と名前は掲載しないビラを制作し、あらゆる場所で配っていた。

マニフェスト: 読む人はちゃんと読んでくれる

今回、安野陣営のアイデンティティになったのが政策マニフェストだ。
様々な形で選挙ハックのようなことがなされ、賛否巻き起こった今回都知事選だが、粛々と良い政策をつくり、改善をし続けることが重要だという安野陣営の信念は揺らがなかった

コンサルや官僚出身のプロたちが寝る間を惜しんでリサーチしながら、爆速でスライドを組み上げていく姿は圧巻だった。
デザイン観点でいうと、作業者が多くかつスケジュールも異常にタイトだったため、デザインは100点ではなく80点を越えることを目指した。全ページデザインすることはせず、Google Slideでマスタースライドを作り、フォーマットに従って共同編集してもらった。Google Slideは文字間調整やグラデーションの機能が弱いため、キーとなるページのみイラレでデザインして画像で貼り付けた。

できる限り多くの人に読んでいただくために、サマリー版を用意し、こちらは自己紹介とストーリーを重視して組み直した。

それらの政策とスライドをAIあんのに学習させて、Youtubeライブで配信した。マニフェストは1000万imp、AIあんのは6000件以上の質問に回答することができた。詳細は別記事へ。

最後に

以上が、安野たかひろ陣営がデザインした制作物の振り返りである。異常に長くなってしまったが、ここまで読んでいただけた方がいらっしゃったらありがたい。次選挙に無所属新人から挑戦する人にとって、意味があるナレッジが含まれていることを祈るばかりだ。

最後に、ここまで書いて考えたことを記しておく。

今回書いた内容には、もしかしたら専門の選挙コンサルに指南を受ければ当たり前のことも含まれていたかもしれない。選挙経験者からしたら、言うまでもないことも数多くあったと思う。選挙期間前、デザインや選挙運営を専門の業者に発注する選択肢があったのは事実だ。
しかし我々チーム安野は、少なくとも僕は、できる限り手弁当でこの選挙に向き合いたいと思った。なぜか。民主主義のアップデートを目指す以上、現状のルール、課題を自らの実体験を通じて把握し、その上で何をするのかを自分たちで考え、トライし、改善すること以上に大切なことはないと考えたからだ。

選挙はすでに既存のプレイヤーが数多くおり、すでに長年プレイされ続けてきているゲームだ。基本的には現職が強く、既存政治家が強い。ルール上も、強いものが強くあり続け、新規参入のハードルは様々なところで異常に高く設定されている。世襲議員が多いのはその結果だろう。
しかし民主主義という観点で考えると、この状況はどう考えても問題だ。もっと多くの人が、被選挙権を行使し、選挙に立候補できるようになった方が社会は間違いなく良くなる。立候補までいかなくとも、デジタル民主主義によって政治参加のチャネルが整えられれば、選挙との関わり方ももっとハードルが低い方向に変わっていくはず。政策、選挙活動、政治のあらゆる部分がオープンになり、批判され、もっともっとフィードバックサイクルが回っていくべきだ。このような課題意識があったために、選挙のデザイン制作における私たちのトライと改善のプロセスを、恥を忍んで公開した次第だ。今回掲載したデザインや街頭演説のノウハウは一例だが、ぜひこの上に、建設的なトライを乗せていってもらえると筆者冥利に尽きる

ちなみに、デザイナーとしての反省点は、最大限工夫しようとしたとはいえ、既存ルールのキャッチアップで精一杯だったことだ。UXや表現上のチャレンジは、もし次のチャンスがあれば考えていきたい(しアイデアがある方はぜひ囁いてほしい)。まだまだやれることはたくさんあると感じている。思うに、民主主義とはより良い市民社会のための実験の連続であり、私たちの社会は様々な人が多様に実験をしてきた歴史というプラクティスの上に成り立っている。だとすればこの時代、このタイミングにこそやるべき実験があるはずで、エンジニアやデザイナーはそこに貢献ができるのでは。強く言えば、貢献すべきなのでは。選挙を通じてそんなことも考えた。この辺りはまた別の記事で書いてみたい。

この記事が、もっと多くの人が政治に関わり、よりよい未来を皆で描いていくデジタル民主主義の実現に少しでも貢献できることを願っています。

今回選挙に関わってくださったすべての方に御礼申し上げます。

Photo by Hoshino Rina