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ふらりランチと立て看板

 午後1時手前。
 私は財布をカバンから取り出し、黒いジャケットを羽織って事務所を出た。

 柔らかい日差しだけど、ビル風は冷たい。
 首をすくめながら、飲食店が立ち並ぶ通りを目指した。
 いつもなら、同僚と連れ立って行くのだが、あいにく彼はお客様との打ち合わせで、さっき難しい顔をして事務所を出ていた。

 久しぶりに、一人で昼食を取ることになった。
 数十メートル先に、同じ会社の人のグループが歩いている。あまり付き合いもないので、混ぜてもらうのも気が引けた。少し距離をおいて歩いていると、曲がり角を曲がっていった。確かその先にこじんまりとした洋食屋さんがあったはずだ。私は曲がり角を曲がらずに、まっすぐ通りを進む。

 さて、今日はいつも行かないところにしようか。
同僚といっしょの時に新規開拓するのは、外れた時が申し訳ないので、ちょっと気が引ける。そんなわけで、入ったことがないお店は、一人ランチの時にしているだ。いつもの通りと違う方向にフラリと歩を進める。

 前から気になっていた店があったことを思い出したのだ。
 ある小綺麗なビルの入り口に、賑やかなレイアウトの立て看板が、ランチタイムの時にあるのが、ずっと気になっていたのだ。フラリとした歩みを早足に変えて向かう。

 しばらく歩くと、そのビルはあった。
 立て看板もあった。よく見るとビルの小綺麗さとはギャップのある、「ザ・居酒屋」という感じの文字が踊る、財布に優しい値段設定のランチメニューが並んでいた。美味しそうだし、値段も安い。早速食べようじゃないか、とビルの入り口に進むが、ハタと立ち止まった。

「あれ? この店、何階なんだ?」

 看板を見てもフロアが書いていない。
 防犯のためか、入り口付近にはフロア案内もない。おしゃれそうなバーのポスターが貼ってあったが、目指すお店とは明らかに違う雰囲気であった。
ポストにも書いていない。書くまでもなく2階にあるのかな、と入り口付近の階段を登ってもそんな賑やかそうな店はない。

 ウロウロ、キョロキョロとする私は挙動不審に見えてもおかしくない。
 時間が時間なら、職務質問でもされるのではないかと思うくらい入り口付近で店の案内を探したのだった。
 やはり店の階らしい表記がなかったので、いったいどこだと思って、ビルを見上げると、違和感のあるド派手な看板が掛かっていたのであった。
 ド派手でも見上げないとわからないところにあっては、看板の意味をなさないような気がしつつも、一安心でエレベーターに乗る。
 フロアのボタンに小さい文字で店の名前がテプラで貼られていた。苦笑しながらお目当てのフロアボタンを押す。

 ピンポンとチャイムがなって、エレベーターのドアが開く。
 そこにはイメージ通りのお店があった。

 私はさっそく、食べたかったランチをオーダーした。

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