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事業承継できるかな ~初案件! その3(サイトT編)~

■いままでのあらすじ

 ・まずは動いてみよう、とネットの事業承継サイトに登録

 ・デザイン系業務に特化したソフトを販売している「パピルス」社にコンタクト。機密保持契約を締結して先方の樋口(仮名)社長とお会いすることとなった

 ・製品「コンパスちゃん」を紹介していただくも、製品以外の課題が山積していて、買収価格に見合わないと感じた

 ・別の買収候補者と会ってほしいと樋口社長の衝撃発言

■競合と会え???

「実は塚田さんの他に、お声がけしている方がいまして・・・その方とお会いしてもらえませんか?」

「え、樋口さん、どういうことですか???」

樋口社長が切り出した発言におどろく私。初案件にして、いきなり承継に関する本に書いてないようなケースが飛び出しました。

サイトTは不特定多数の方が閲覧しているサイトなので、当然、私の他に手をあげる人がいます。こうした事業承継案件やM&A案件では、複数の候補者から交渉相手を一人に絞って、お互いに「この人と交渉を進めます」という「基本合意書」を取り交わすものです。会社は一つですから、お互い「あなた以外に交渉しません」と合意の上でお話し進めないと、安心できませんよね。そこから考えると「他の候補者と会ってほしい」などということは本来の交渉の流れとは真逆です。私からすれば競合なんですから。

「いやあ、塚田さんのご経験と伺ったお話しからすると、別の方にもあっていただいたほうが、この製品をうまく売っていただけるのではないか、と」

「はあ・・・(困ったな)」

「別の候補者さんは企業さんなんですが、あまりソフト開発に強くないらしくて

「開発系に強くないけど、この案件に手を挙げたんですね。(なんでだろう)」

「はい。PCとかネットワーク関係のインフラ販売に力を入れている会社さんです。ソフトは販売するにはしているそうなんですが、代理店という立場で売っていて、自社製品になりうるものを探しているんですって

「で、私にどうしろと???」

「先方「インフラ商店」(仮名)さんと塚田さんが組んで販売すれば、お互いハッピーになるんじゃないか、と思っているのです」

製品説明と変わらず熱っぽく語る樋口社長。思わず唸ってしまいました。

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■組んで販売と言われても・・・

私のつたない見立てでも、ソフト開発と販売体制などを整備するのにコストと時間が相当かかります。

しかも前回書いたように、製品の基盤が他社ソフトなのです。仮にインフラ商店さんと組んで販売にこぎつけても、他社ソフトの部分を何とかしないと、著作権などでモメて販売できなくなる可能性があることは容易に想像できます。また、他社開発部分はブラックボックスになってるため「自社製品です」とは言えません。営業マンも自信のない製品を売るのは至難でしょう。

ただ、インフラ商店がどうしてこの製品に着目したんだろう? 代理店販売でも十分なんじゃないのか。後学のため、そこは聞いてみたい。

資本力ではインフラ商店には敵わないし、製品自体が抱える問題がちょっと個人でなんとかなるレベルではないから、私の聞きたいことを聞き、タイミングを見て案件から降りよう、と判断しました。

「わかりました。連絡取ってみます。連絡先を教えていただきたいのですが。あ、あとお願いが」
「はい、きっと良い結果になると思いますよ。で、お願いとは?」
「樋口社長の会社の財務諸表、コピーしてもらえますか?」

ホッとした樋口社長から、快くインフラ商店の連絡先と樋口社長の会社の財務諸表を渡して頂きました。財務諸表は今日の訪問で欲しかったものです。通常、財務諸表は相手側の業績見込みや保有資産、債務などの引き継いだ後の重要数値が記載されており、売却価格の値下げ交渉のネタや価格設定が正しいか見極める書類です。数年度分もらうと「商品開発に力を入れたので借金増えてる」「原価圧縮で利益が伸びてる」など、会社の傾向がわかります。ただし、私たちはM&Aのプロではないし、プロでも判断を間違うこともあるそうなので、書類だけでなくヒアリングをしっかりやっておかないと、落とし穴があると考えています。

さて、入手の目的は当初と違いますが、ここまで巻き込まれてしまった以上、少々深入りしても、財務諸表の数字がわかれば、将来的な見通しも立ちます。また、樋口社長がどうやって会社を維持してきたか、今後、良いご縁で別の会社を承継した時に向けたヒントが見つかるかもしれないのです。

「すみません、それでは失礼します」

少しお話したあと、樋口社長のマンションを出て、電車に乗りながら、今後の展開についてボンヤリ考えながら帰宅し、さっそくインフラ商店の担当者さんにコンタクトを取ることにしました。

「はじめまして、樋口社長からご紹介頂いた塚田と申します、個人M&Aで樋口社長とコンタクトを取っています、と …」

カタカタカタ・・・乗りかかった船だけど、どうやって降りよう???

続く

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