とりあえずハデなあいつ
ここ数年、我が家の周囲はリフォームブームだ。どこかのお宅に外壁塗装用の覆いがかかってしばらくすると、それまで地味だった外壁が、家主さんのセンスが反映されたカラーリングに変わり、すこし誇らしげな佇まいに変わる。
多くの家が建売で購入しているので、購入当初は色の選択肢はないのだが、10数年経過すると流石にくすんだり褪せたりするもので、改めて塗装することとなる。中には「こんな家あったっけ」と思うくらい、塗装前後で変わった家もあって、眺めていて楽しい。
また、我が家の周囲は新築も増えてきた。
「少し荒れてるな」と感じた畑地が、数ヶ月すると更地になって、そして宅地となって真新しい家が建てられる。きっと後継者がいなくて手放したのだろう。
かくいう我が家も、もとは畑地だ。
新興住宅街の一角にある、日当たりの良い家を買った十数年前。できたばかりの住所のためか、配達の地図に描いてなかったらしく、住み始めてしばらくは、デリバリーを頼むと、毎回のように自宅に確認の電話がかかる。
「近くまで来ているようなのですが、お客様の住所が地図にないのです……」
と、いたずら電話を疑るような口調で、配達員の方から電話がかかってきたのだった。
そんなことが続くので、ちょっと興味が湧いた。ある日、グーグルアースに我が家の住所を入力して衛星写真を見た。
何かが建っている。
拡大して見るとビニールハウスがポツンと建っていたのだった。
ハウスはハウスでもこれは住めない。
三匹の子豚もビニールの家は作らなかった。住んだら速攻で狼に破壊されそうだ。藁の家のほうがもう少し耐久度があるように思う。
そんなのどかな土地柄であるが、割とすぐに買い手がつくようで「新築物件」という地味なノボリが、軒先でデンと置かれて数ヶ月もすると、引っ越し屋さんのトラックが停まり、新たしい家主とその家族がキラキラとした表情でタンスやべッドを運び込むのだ。
そんなおとなしい建売物件のノボリをみて「何か足りないな」と感じていたが、果たして何かわからなかった。
その疑問は、ある日突然解決した。
都内に用事があって、妻が運転する車の助手席で外を眺めていたら、住宅地に差し掛かり「それ」が目に入った。
万国旗である。
どうも足りなかったのは、万国旗であった。正直、そこまでアピールしなくても売れているので、ちょっとしたノボリで十分だったのだろう。近所の建売ではかかっているのを見たことがない。
せいぜい「新築物件 見学はこちら」と書かれたすこし目立つ立て看板があるくらいなのである。
ネットで調べると、たいていは目立つという理由で飾っているようだ。
不動産屋さんのブログでは万国旗を飾ると人の入りが違うということも書いてあったのがいくつかあった。なるほど、先日見かけた建売のお宅は、たしかにちょっと大通りから入ったところにあった。万国旗がなかったら売出し中かどうかもわからない。
逆にいえば「掘り出し物」としたければ、万国旗を掲げたりして目立たないようにすると良いということか。きっと、そういう物件のほうが買い手の満足度もあがると思うんだけど。「自分しか知らなかった、探しだした物件」と思って買ったが、実は不動産屋さんの作戦だったとか。
日常もそうかもしれない。仕事は派手な動きをした人に注目が集まり、地味な仕事はスルーされることが多い。本当は地味な仕事の方が会社やプロジェクトに貢献していたりするにも関わらず。
noteの記事だって、たくさんの人に見てもらった方が気分良いし、水墨画だって、撮った写真だって、たくさんの人に画像として使ってほしい。素直にそう思う。
でも、その一方で思うのだ。
ひっそりと、陽の目を見ることなど期待せずに書いた記事を、誰かがふとしたことで見つけて、ココロを揺り動かすことができれば、それは書いた人も、見つけた人も、何か異質な嬉しさ(私が発見した、みたいな)があるのではないだろうか。
あまり目立たたくていい。キラリと光る「モノ」があれば。思えば今までそんなコトやモノを好きになって来たと思う。似たようなことを身内から言われたこともある。これからも、きっとそうなのだろう。
僕自身、そんなスタンスで、誰かに「発掘した喜び」を味わってもらえる創作活動をしていきたい。
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