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ドラマシナリオ⑫ 蒔・あんず・実里②

■前回までのあらすじ■

作品テーマは「姉妹」。まき実里みのりは双子の姉妹。双子ながらタイプが正反対な二人は時々「入れ替わって」お互いを助けるような協力関係だ。ある日、剣道部の稽古帰りの蒔を実里が訪ね、バイトの代行を依頼するのだった……

■シナリオ本編■

清颯せいさ高校・駐輪場(夕方)

済まなそうに拝む蒔と手を後ろ手に組んで身体をゆらゆらとゆらす、ニコニコ顔の実里を見比べる牧村。

牧村「双子だから、そんなこと出来るんだろうけど……単に実里ちゃんがバイト休むって言えば良くない?」

実里「ちょっとバイトの試用期間でさぁ。休めないんだよね……でも、今日は鴨川先輩とデートだから、どっちも外せないの。で、蒔姉に頼みに来た」

呆れ顔で蒔を見る牧村。上目遣いの蒔。

実里「アンタ達のディズニーデートの日、蒔姉の補修はアタシが代わりに出たんだから、いいでしょ」

ハッとする牧村。首をすくめて縮こまる蒔。
スマホを取り出す実里。

実里「バイトは6時からだからね。地図送っとく。頼んだよ〜」

弾むように駆け出す実里。
顔を見合わせる蒔と牧村。苦笑する牧村。うなだれる蒔。

牧村「そういや、そうだったなぁ。あれを出されると何も言えない……それにしても、今度の彼氏は鴨川先輩か。イケメン好きだな」

「……」

蒔のスマホに着信音。取り出して画面を見る。
スマホを覗き込む牧村。

牧村「お、店の場所は四つ境か……あ」

蒔、牧村に振り返る。牧村、スマホを取り出し蒔にかざす。
牧村のスマホ画面に電車遅延の情報。『海横鉄道 遅延のお知らせ』『車両故障のため、上下線で大幅なダイヤ乱れ』というタイトルが表示されている。
目を見開いて、牧村のスマホを凝視する蒔。牧村を見返す。
頷いて、自転車に乗るように促す牧村。慌てて前かごにカバンを放り込み、立ち漕ぎで駐輪場を出る蒔。


◯四つ境駅前通り・入り口(夕方)

『四つ境か駅前商店街』とアーチがかかった商店街。通行人でごった返している。アーチにぶら下がっている時計は5時40分。
自転車で疾走する蒔が、アーチ前で急ブレーキで飛び降り、アーチの時計をチラリと見る。

「いけるかな、と思ってたけど、チャリだと結構かかるのね……」

自転車を押しながら小走りで商店街に入っていく蒔。
スマホ片手に通りを歩き、古びた本屋の角を曲がる。
赤ちょうちんやいかがわしい店が入っている雑居ビルが立ち並んでいる。

「え、アイツこんなとこでバイト始めたの? 学校にバレたら大変だよ」

蒔、慌てて制服のジャケットを脱いでカバンにしまい、ワイシャツ姿になる。首を振りながら再び自転車を押して歩き出す。


◯雑居ビル前(夕方)

古びた雑居ビル。キャバクラやホストクラブのギラギラした看板が立ち並ぶ。
蒔、立ち止まってビルを見上げ、頷いてからスマホを取り出す。
『メイドカフェ フルーツバスケット』の看板とスマホ見比べてギョッとする。

「かわいい制服のカフェと聞いていたけど……このお店なの?  ウソでしょ……」

蒔、実里に電話するが、5コールしても繋がらない。舌打ちして電話を切る。
スマホの画面に表示されている時刻は5時50分。

「この時間だと、どうしようもないなぁ……もうここまできちゃったし、メイドカフェだろうがなんだろうが、やってやろうじゃないの」

短く息吐いて気合を入れる蒔。雑居ビル横の『従業員通路』と書かれた看板に沿ってビルに入っていく。


◯メイド喫茶・フルーツバスケット・事務所(夕方)

『フルーツバスケット従業員入り口』とメイドのイラストが描かれたプレートが貼られているドアを開けて恐る恐る中に入る蒔。
メイド姿の若い女性たちが忙しく歩き回っている。事務所内をキョロキョロと見回す。
タイムカードラックに近づく蒔。指で氏名欄を指しながら、タイムカードを眺める。

「田畑実里……田畑実里……あ、あった」

『田畑実里 あんず』と氏名欄に手書きで書かれているカードを取り出し、打刻機に差し込んで取り出した後、タイムカードをしげしげと眺める。

「うわー、アイツ、この店で『あんず』って名前なのかぁ……なんか微妙な名前だな……」

ニヤケ顔の蒔に近づくスーツ姿の前島憲司(50)。少し後ずさりするように身体を引く蒔。

前島「田畑さん、試用期間中で説明すること多いから、ギリギリの時間は困るって前に言わなかったっけ。余裕のない出勤は、店長の私としてはあまり感心しないんだけど」

「え……あ、も、申し訳ございません。い、以後気をつけますっ!!!」

勢いよく頭を下げる蒔を訝しげに見る前島。

前島「あれ、田畑さん、そんな体育会系の子だったっけ……まあいいや」

上目遣いで前島を見る蒔。
後ろを振り向いて手招きする前島。メイド服姿のらいむ(23)が蒔と前島に近づいて会釈する。

前島「独り立ちはまだ先だから、今日はらいむちゃんと組んでもらう。こちらあんずちゃん。まだ3回目だからいろいろ教えてやって」

らいむ「今日は頑張ろうね、あんずちゃん」

「あんず……?」

キョトンとするらいむ。ハッとしてペコペコとお辞儀をする蒔。

「すみません、し、失礼いたしましたっ!!  まだ慣れてないもんで。先輩よろしくお願いいたしますっ!!!」

らいむ「ま、まあ、最初は慣れないよねぇ……先に制服取っておいてあげたよ。早く着替えてお店にでましょうね」

らいむから透明なビニール袋を手渡される蒔。じっくりと眺める。
オレンジを基調としたサテン生地の可愛らしい制服が畳まれて入っている。

らいむ「ね、可愛いでしょ? 似合うと思うよ〜♪」

ニコニコ顔のらいむ。目を白黒させて制服の袋を見る蒔。

(続く)

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