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Orchestra Lunaを偲んで


彼らの唯一作であるセルフタイトル・アルバム「Orchestra Luna」(1974)を手に入れたとき、自分は多分まだ学生だった。
本当はLPを探していたのだが、当時調べた限りCDですら在庫が見つからなかった(それより前にリイシューされていたはずなのに)。

それでも諦めず定期的にネット上を巡回していたある日、今は亡きレコファン渋谷店にCDが入荷しているのを発見。多摩の自宅を飛び出して買いに出かけたのを覚えている。

自分がどうやって彼らの音楽を発見するに至ったのか全く覚えていないし(多分何かのブログで知ったのだろう)、どのくらいの知名度のグループなのかもよく分かってないのだが、今のところ自分の周りで彼らの音楽を聴いているという人に会ったことはない。

彼らの音楽が末永く後世に語り継がれることを祈念しつつ、この記事を書いていきたいと思う。


Orchestra Luna(以下OL)は、コネチカット州ニューヘイヴンで結成されたアメリカ発の7人組グループである。

中心人物はリック・バーリンことリチャード・キンシェルフ (Vo/Key)。7人のうち3人は楽器を演奏しないコーラス担当というあまり見ない構成である(うち1人はリックの実の妹であるリサ)。

ギターのランディ・ロスはジャズバーの箱バン演奏者、ベースのスコット・チェンバースはバークリー出身。作品やライブ音源を聞くと、ファーストインプレッションで感じる奇天烈さの割に演奏はしっかりしている印象だ。

肝心のそのサウンドは、そこはかとなく不思議だ。

ジャズ、オペラ、ロック、演劇やミュージカル(ライブパフォーマンスとしても行われる)、ポエトリーリーディング等の要素が入れ替わり顔を覗かせ、曲中でせわしなく展開していく。

戦前のスウィング・ジャズ~モダンジャズや50年代アメリカのポピュラー音楽黄金期の確かな影響を感じさせながら、本質はどこか全く別の方向を向いていることに聞いている誰もが気がつくだろう。

楽曲の印象としてはむしろ同時代にヨーロッパで勃興していたレコメン系アヴァン・ポップのシーンに近いのだが、当時彼らの間で何らかの交流があったという記述は見つけることができなかった。

とはいえOLは、70年代ヨーロッパの諸グループに比べれば、M4「Heart」(ブロードキャストミュージカル「Damn Yankees」より)に顕著なように、ソングライティングの観点からはジャズやポップスというルーツにより近い距離感で実験を繰り返しているというのが率直な印象だ。

加えて、声(ボーカル)への顕著なフォーカス - オペラ的歌唱とポエトリーリーディングが彼らの楽曲をより印象深くしていることに疑いの余地はない。

その唯一無二の音楽性からか、OLは初めてのライブから結構な客数を集めていたという。The Carsの前座も務めるなど評判を高め、結成からわずか半年ほどでエピックと契約。プロデューサーにはスパークスなどを手掛けたルパート・ホルムズが起用され、件の1stアルバムが制作されたというわけだ。

フランク・ザッパの周年パーティーで「Doris Dreams」を演奏し、感動したザッパがギターのランディをハグしたという逸話もあるらしい。

デビュー後、OLの船出は順風満帆かと思われたが、エピックの幹部がスティーブ・ポポヴィッチに代わるとバンドは冷遇され、このアルバムのみでエピックを去った。


当時結構頑張ってフィジカルを探した思い出のあるこのアルバムも、今やサブスクに普通にあって驚き。便利な時代になりましたね。

余談ですが、レコファンでこのアルバムを買った後ファミマの前で煙草を吸っていたら「昔山下達郎のマネージャーをやっていた」という怪しいおじさんに話しかけられ、コーヒーとタバコ1箱を奢ってもらったことを唐突に思い出しました。

レコファンはもう無いけれど、あのおじさんは元気にやってるだろうか。





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