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書評「世界を敵に回しても、命のために闘う」③

前回からの続きです。第3章のタイトルが「現場vs専門家」、いよいよ岩田健太郎氏の出番です。正論であっても優先順位が判らず、しかも言っている事が変な方向に利用されるのを理解出来ないと大変という事に尽きます。

DP号の山は2020年2月15日、入港から船長下船までのちょうど中間でした。最初のタイトルが「はしごを外す『中央の専門家』」。感染症対策の専門家会議(座長:脇田国立感染症研究所長)が国内発生の早期という認識が確認されている。これに対する阿南氏の思いは当時言いたい事を我慢しながら対応しています。

「感染者の追跡ができないケースがパラパラ出てきて、そこで専門家会議が使った表現が『発生初期の状態』でした。つまり、もう国内に入っちゃっているね、ということ。でもクルーズ船の中では、重症者の搬送を優先しているとはいえ、『水際作戦』もちゃんとやっている最中です。我々としては『おかしくねぇか』ということになるわけですよ。(後略)」

徒労にならないかと思うのももっとも。山を越えて窮地を脱したかに思えた時に現れたのが岩田健太郎氏。

本に書いていないので前回にさらっと書いた事を敢えて挙げます。テレビ朝日のTVタックルで岩田氏と久住英二氏が一緒に出演しています。久住氏は2月上旬に、DP号の検疫は人権侵害というコラムを出稿。論拠にしているのは海事代理士の意見ですが、海事代理士をいつでも開業できる私からいえば、そもそも検疫法に関する業務を海事代理士が出来ないのに何を言ってんだ、という内容。ところが、久住氏の中身の薄い意見は左翼の目に留まり、それまで黙っていた野党や左翼が騒ぎます。これを知らないと岩田氏の行動を理解しにくい。私はマスコミが潜入取材出来なかったから、テレビ朝日の幹部が岩田氏に潜入を勧めたと想定しています。しかも左翼の緻密な作戦付で。

p95~100は岩田氏が潜入した既に報道済でよく知られる内容。p101の後半は名前は出ていませんが、沖縄県で現在活躍中の高山医師の事が書かれています。更に読むと、現場で仕切っていたDMATの近藤氏のインタビューが出て来る。「DMATとして船内に入り、DMATとして発言するなら、私が責任を持たなければならないので、それは許可できない。あなたは感染症の専門家なんだから、それは好きにしろ。そう言いました」。後半が重要です。

岩田氏の著書はマスコミが多く取り上げているが、この本は注目されない橋本副大臣のブログも引用して検証しているのも良い。DMATの医師が活動するリスク判断について、近藤氏は「覚悟と言い訳」という独特の言葉を用いてこう述べていた。0か1思考の人が反発必至の言葉である。

「われわれが事故に遭ったとき、『安全対策はしっかりやっていましたが、不幸にも事故が起こりました』と言い切らなければならない。その時点で可能な限りの知見を集めて安全対策を講じ、訓練を精一杯やって臨んでも、一定確率で事故は起きる。腹を決めて、そう言い切れるかどうかなんです(後略)。」交通機関の事故が起きると必ず騒ぐ人には理解出来まい。自分も船の安全管理をやったので同感です。

岩田氏の件の前にあった出来事は専門家への不信感を高めた。2月11日、日本環境感染学会の感染対策チームが乗船し、自衛隊などが行う感染症対策に問題なしという判断をしている。ところが14日に彼らは撤退。学会及び派遣元病院の判断というけど、これは現場のテンションは下がる。専門家への不信感発生。そこに岩田氏が来た。

そりゃあ嫌われて当然。近藤氏の「好きにしろ」は不信感の証明だったのですが、岩田氏は意味を理解出来ず。この辺りはTwitter上で医師の多くが岩田氏への無理解を嘆いていました。更に岩田氏のせいで、派遣予定だった医療チームのキャンセルが発生します。

岩田氏の行動は国際的にも、野党や左翼に攻撃の材料を与えただけでなく、現場医療チームにも多大な影響を与えた事が判ります。当時岩田氏の行動を賞賛した方には保守系の人も多くいました。彼らは今どう思っているのでしょうか。

ここまでご覧下さり、ありがとうございました。



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