見出し画像

知財部員からコンサルタントへの道

私は、事業会社知財部を経てコンサルティング会社に30歳を過ぎてから移りました。

そのため、知財関係者から「コンサルに興味あるんだけど、実際どうなの?」と聞かれることが時々ありました。

「どう?」と聞かれても一概に答えづらいのですが、何度かこういった問に答えてきた内容を一度まとめておこうと思います。

私自身、「知財✖︎コンサル」に関心を持って、コンサルティング業界に飛び込みましたが、ギャップに苦しんだこともありました。

私の経験や考えを共有することで、「知財✖︎コンサル」に関心を持つ方の参考になれば幸いです。

まず、事業会社とコンサルティング会社の違いが存在しますので、以下に簡単に整理します。


①「コンサル会社」と「事業会社」の違い


この点は、ググったら似た情報はたくさんでてくると思いますので簡単に。

① 年功序列ではない。

コンサルティング会社では、歳下の上司が普通に存在します。

コンサルティング会社に入社すると、コンサル経験がなければ基本は、コンサルタント/シニアコンサルタントクラスからスタートします。

前職でプロジェクトのマネジメントを豊富にしてきた経験を有している場合にマネージャーからスタートする場合もありますが稀です。

なので、新卒でコンサルティング業界に入った方なら20代後半でマネージャーになるケースもあります。

20代の上司の下に、事業会社から転職してきた30代、40代の部下がいるケースも普通です。

とは言え、コンサルティング会社ではそれぞれの経験や専門性が重視されますので、事業会社の上司部下というより、役割の違いという方が正しいです。

② 評価が個人ベース

コンサルティング会社では、「稼働率」と「売上」が非常に大切です。

「稼働率」とは、働いた時間のうち、顧客から報酬をもらっているプロジェクトに費やした時間の割合です。

1日10時間働いた場合、勤務時間として当然10時間を記録するわけですが、その10時間のうち、Aプロジェクトに4時間、Bプロジェクトに4時間、どのプロジェクトにも属していない時間が2時間、といった具合です。

稼働率が低いということは、売上に貢献していない勤務時間が多いことになります。

必然的に、稼働率が低いコンサルタントは良い評価がもらえず、ボーナスが減ります。職位が下がり年棒が減ることもあります。

年功序列が基本の公務員や事業会社からコンサルティング会社に移った場合、特に上記①、②が一番のギャップになるのではないかと思います。

③営業が求められる

事業会社でも営業活動は必要ですが、事業会社の知財部出身者は基本的に営業活動をしないでしょう。

しかし、コンサルティング会社では仕事は口を開けていても落ちてきません。自身のクラスにもよりますが、何らかの形で営業活動が求められる機会は多くなります。

②「コンサル会社の知財業務」と「事業会社の知財部業務」は違う?

次に、同じ知財の仕事である事業会社知財部の仕事と比較します。

以下に、それぞれの仕事の一例を書き出してみました。

■ 事業会社知財部の仕事例

  • 発明発掘業務

  • 先行技術調査

  • 出願・権利化業務

  • 係争・ライセンス関連業務

  • 特許等のポートフォリオマネジメント(出願戦略、棚卸戦略等)

  • 模倣品対策・侵害調査

■ 知財コンサルの仕事例

  • 保有技術シーズの新規用途探索

  • 知財分析を基にした連携候補探索

  • 競合や業界の業界分析(経営指標と知財情報のミックス分析)

  • 事業戦略に沿った知財戦略立案

  • 知財分析に基づく研究開発テーマ策定

  • 保有知財の価値算定

  • 保有知財のマネタイズ化

一応切り分けましたが、正直、事業会社知財部と知財コンサルの仕事は、重複する内容も存在します。

特に、この10年くらいで、知財部に戦略的機能を求める事業会社も随分増えました。

事業会社の求人に、知財コンサル募集と明記されているケースも最近は存在します。

では、なぜ事業会社がコンサルティング会社に依頼をするかというと、人員リソースや知見の不足を補うためです。

知財部員が何百人と存在する大企業もありますが、多くの企業は、十数人から数人で知財業務を回しているのが実情です。

通常の知財業務で手一杯であるにも関わらず、経営層等から、知財部に戦略機能を求められ、手が回らない際に、コンサルティング会社への依頼がなされることが考えられます。

そのため、事業会社からの知財コンサルに関する仕事の発注部門は多くの場合は知財部になるでしょう。

事業会社からどの程度の金額で仕事を依頼されるかは、案件に依りまちまちですが、例えば、事業会社の知財部課長クラスや部長クラスの予算や決裁権限を考えれば、凡その額が想像できるかと思います。

特許や商標出願などの代理業務は、特許事務所が行いますので、コンサルティング会社では取り扱わないのが一般的です。

その点は棲み分けが出来ているといってよいでしょう。

なお、コンサルティング会社にも弁理士資格を有する方はそれなりに存在します。代理人業務を行わないのになぜ弁理士登録するかというと、”箔をつけ、案件受注の確度を高めるため”です。

また、出願前の先行技術調査や、権利化された特許の無効調査なども、コンサルティング会社では取り扱わないのが一般的です。これらの仕事はある程度相場が存在し、コンサルティング会社で定められている時間単価での対応が困難なためです。

③知財コンサル ≒ 官公庁案件?

官公庁では、政策立案のための様々な調査企画を行い、予算を確保した上で、公募案件を出しています。

知財に絡んだ案件を出す官公庁としては、特許庁、経済産業省、文部科学省、農林水産省、これらの外局が挙げられます。

案件のイメージとしては、以下のようになります。

  • 技術動向調査(特許庁)

  • 大学の共同研究等成果の取扱の在り方に関する調査(文部科学省)

  • 特許を活用した知財ビジネスマッチング事業(経済産業省)

特許や論文を調査して報告書を作るものもあれば、イベントを企画遂行するような事業もあります。

公募されている案件に対して、官公庁の担当者が作成した仕様書を参照の上で、提案書を作成し、公募に応募します。

案件予算はまちまちですが、知財に絡んだ案件では、数百万円~1億円程度となります。

官公庁案件は、ある程度の額の受注を見込めることもあり、また公募制なので、どのコンサルティング会社にも提案の機会が与えられます。

上述したように、コンサルティング会社では、稼働率と売上が非常に重要なため、事業会社から知財関連の仕事を受注できるパイプがない/乏しい場合は、官公庁案件で食いつなぐことになります。

ただし、官公庁案件も、会社やコンサルタントの実績が重要視されるので、提案すれば受注できる楽なものでは決してありません。

そして、重要な点ですが、コンサルティング会社によっては、知財コンサルの売上のかなりの割合を官公庁案件が占めるケースが存在します。

そのため、事業会社のコンサルティングをイメージしてコンサルティング会社に入社したものの、実情は官公庁案件が大半を占め、イメージと違う仕事を延々とこなす日々が待っているかもしれません。

コンサルティング会社に入社する前に、その会社でどのような案件を行うことになるのか念入りな情報収集をされることをお勧めします。

以上、参考になれば幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?