見出し画像

出会い、そして

 最近どうにもこうにも創作が捗らないので、私が小説を書こうと思ったきっかけについて話そうかと思います。興味ない人は、回れ右。あれ? 誰も残ってくれないんです? ちょっ、ちょっと待って。冗談です、聞いてってください。……とまあ、柄にもないことをやってみましたが、あとがきや児童向けの小説で、こんな風に読者と言葉のキャッチボールをよくしている、あさのあつこさんが私の創作の原点です。あさのさんの作品が好きだということは公言していますので、知っている方は知っているでしょう。

 そもそもどうしてあさのさんの小説に出会ったのか。まずはそこからお話ししましょう。遡ること十ン年。私は某教育テレビの土曜日夕方のアニメを観るのが好きでした。最近テレビを見ないのでわかりませんが、今もその時間帯で放映しているのでしょうか? そこで、『テレパシー少女蘭』というアニメをやっていた時期があったのです。元気で、ある日テレパシー能力に目覚めてしまう主人公蘭と、そのボーイフレンドで無口な留衣、おしとやかな美少女かと思いきや実は関西弁で気が強いテレパシー使いだけれど蘭たちの前以外では可憐に猫を被っている翠。三人のやりとりや性格がとても好きで、毎週欠かさず観ていました。それから、私は昔から本を読むことが好きな子どもでした。というより、活字があれば目で追ってしまうと言った方が正しいかも知れません。毎週母に連れられて図書館に行っては目一杯本を借りて読み耽る日々。テレパシー少女蘭が終わって数ヶ月経ったある日、児童文庫の置いてある棚におもしろそうなものはないかと眺めていたとき、青空文庫のカテゴリのところに、見たことのあるタイトルがありました。アニメ『テレパシー少女蘭』のサブタイトルが目に留まったのです。思わず声をあげそうになりながら急いで手に取ると、『テレパシー少女「蘭」事件ノート』と。それがあさのあつこさんとの出会いでした。

 あの頃の私は漫画のアニメ化があることは知っていましたが、小説もアニメになるのだということをまだ知らず、大好きだったアニメに小説があることを知ってとても興奮しました。置いてあるものをありったけ借りて、家に帰ってすぐに読み始めました。作品の世界にのめり込みました。蘭も、留衣も、翠も、登場してくる人たち全員が生き生きしていて、アニメと同じくらい鮮明に彼らの姿が浮かんだのです。こんなすごい小説を書く人がいるのか。この出会いは私にとって青天の霹靂でした。それから私は、あさのさんの小説を探し漁り、好んで読むようになったのです。彼女の紡ぎ出す言葉は、とても繊細で美しい、と私は感じています。少年少女を描くときには彼らの危うい葛藤やもどかしい思い、それでも前を向く直向きな心が、少し年齢の上がった人たちを描くときには彼らの抱えている苦悩や心情が、時に真っ直ぐに、時に艶っぽく、文字となって私のなかに入り込んでくるのです。とても愛おしい、と思います。あさのさんの生み出すキャラクターたちは、一分一秒毎の自分自身を、等身大で生きている。その瑞々しさをまぶしいとさえ思います。私もこの一瞬を切り取って、鮮明な言葉に乗せたい。彼女のように見たもの、感じたものを美しく、真っ直ぐに表現してみたい。そこへの希求が私の創作の始まりになっています。もちろん、彼女一人が要因になったわけではありません。けれど、他の作家の方や作品は養分であり、種を芽吹かせ、根を生やし、私のなかに青々と生い茂ったのはあさのあつこさんその人なのです。そうして、私は小説という手段で自己表現を始めることになります。今の私が形作られたのです。

 まだまだ、納得のいく言葉や文章を紡ぎ出すことは難しいですが、私の言葉が誰かの心に少しでも触れられたなら、喜ばしく思います。あさのさんのそれらが、私に心地よく突き刺さったように。

 ではまた。Пока!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?