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【小説】朝井リョウの「正欲」を読んでみた感想

街を歩いたり、電車に乗ったり何気ない日常を送っていると、色々な情報が目に飛び込んでくる。今イチオシの商品や期間限定の割引セールのチラシ、電車の壁にずらりと並んだ英会話を学ぼう、ダイエットをして健康になろうといった広告などあらゆる種類の情報で溢れている。これらの情報は一見独立しているように見えて、小さな河川が合流を繰り返して大きな海を成すように大きなゴールへとつながっている。そのゴールとは「明日死なないこと」である。と、そんな引き込まれるような冒頭からはじまる、ずっしりと読み応えのある長編小説でした。

物語は、不登校児で友達とYoutuberとして活動を始めた息子の父親である寺井啓喜、容姿にコンプレックスがあり、ある出来事がきっかけで男性に強烈な嫌悪感を抱く神戸八重子、寝具売り場で働き特殊性癖を持つ桐生夏月の3人がとある事件を切り取った記事の背景に迫っていき、やがて相互に不穏な形で絡まりあっていく。。。そんな物語の構成になっています。

本作の全体を貫くテーマである「多様性」と言う言葉。最近ではLGBTQとして広く認知されるようになった性的少数者、学校へ行くことを拒否する小学生等に対して個性を尊重し、偏見や差別をなくそうとする風潮が強まっているが、本書で登場する人物の持つ特殊性癖は、水道などから"噴出する水"に性的な興奮を覚えるというマイノリティの中でもさらに少数であろうものとなっている。そしてこのような自分の理解が遠く及ばないような特殊性癖を持つ人がいる世界で、私たちはどれだけ視野を拡大して多様性について認識できていますか?と、そのような疑問を呈している作品になっている。

本作を通して、何気なく使われている「多様性」と言う言葉の意味するところを再度深く考えさせられることになりました。自分の視野の外側にある人のことを完全に理解することは難しいかもしれなけれど、存在することを知って配慮することの大切さを実感させられました。


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