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わたしは月の王女さま 〜真夏の夜の夢〜

わたしは月の王女さま。
どんなところなのか知りたくなって、こっそり地球に遊びにきた、月の王女さま。


初めて地球で迎える夏至に、わたしは胸を高鳴らせていた。
夕方になっても明るい空。
故郷の月が水色の空の向こうに白く輝くのを、草の上に横たわってぼんやり眺めていた。

地球から眺めるふるさとは、まんまるだったり、ちょっぴり欠けていたり、色んな形を見せてくれる。
これはわたしが地球に来てから知ったこと。
いつも完璧な形で輝いているわけではないけれど、だからこそ月が愛おしく感じられるようになった気がする。


今のわたしはどんな月だろう。
夢と自由を追いかけて、ふるさとの月を飛び出して地球にやって来たわたし。

考えてみれば、わたしだって月と同じだ。
時には、新月のような儚い輝きを放つのが精一杯な日もある。
でもそれでも毎日を生きていくうちに、必ずまた輝きを取り戻す。
そんなことを地球で学んだ。


やがて空は暗くなっていく。
見上げた空には、綿のような雲に少し顔を隠した三日月が浮かんでいた。
夢見るような淡い光を放つ、穏やかな月だった。
その月の姿に、わたしは不思議と親しみを覚えた。


身分を隠して地球の人間と同じように歩き、生活するのは並大抵のことではない。
あの三日月のように、ちょっぴり柔らかな雲に寄りかかりたくなる日もある。
雲が全部わたしを覆ってくれればいいのに、と願う日もあった。

でも、わたしは明日も明後日も、心の自由を追いかけることをやめないだろう。
なぜかはわからない。
ただそう心が願うから。
それがわたしの人生だから。
さっきまで微睡の中にいるようにぼんやりとしていた夢の形が、すぐそばでくっきりと見えてきた瞬間だった。

草の上から起き上がってもう一度空を見上げると、流れゆく雲の間から三日月が顔を出し、瞬きするようにきらりと輝いた……

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