選択肢がある功罪(国鉄特急色の懐古)
国鉄特急色。鉄道ファン各位としては、今年の6月に惜しまれながら381系 国鉄特急色が引退したことは記憶に新しいことでしょう。
さて、10年ほど前は国鉄特急色が多数残っていたため、選択の余地がありました。その頃の写真を見返していると、選択の余地があることにも善し悪しあるなと思ったので、その思いを書きとめておくことにします。
選択の余地があるメリット
同じ「国鉄特急色」というテーマを表現しようとしたとき、かつては
・磐越西線 あいづライナー代走
・中央本線 ホリデー快速富士山/河口湖
・北陸本線 北越/くびき野
・JR九州波動用
など、少ないながらも選択肢がありました。
こうなると、同じ国鉄特急色というテーマに対して、コレクター的に複数の編成を記録することができます。
さらに、都会を走る姿なら○○線、田舎なら○○線、俯瞰なら○○線というようにイメージ先行で撮影を組み立てることができます。
選択の余地があるデメリット
一方、2024年になると国鉄特急色の選択肢は伯備線の381系かJR東日本のE653系くらいになりました。E653系は本来纏っていた塗装ではないので、国鉄型車両による国鉄特急色は伯備線の381系のみ。しかもダイヤも固定でした。
そうなると、「国鉄特急色」というテーマを表現しようと考えた時、ひとつの路線ひとつの時間帯の中で、場所や季節を変えながら撮影テーマを組み立てていくことになります。
かつてあった議論で「個性は縛りの中から生まれる」というものがありました。例えばある会社のキャビンアテンダントの服装規定は厳しいですが、スカーフの巻き方だけは個性を出すことができるそうです。「不快感がない範囲・常識の範囲」というのはありますが、その中なら自由であることで、様々な結び方が考案されました。
スーツの枠の中での個性、モノクロ写真という枠の中での個性、などなど何か縛りや規定を設けることによって生まれる個性というのは確かにあると思います。
さて、国鉄特急色にもどりますが、国鉄特急色やくもを撮った写真は、私としても個性的さを求めたことがありましたし、ほかの写真家達も個性を出しにいっていたように思います。私自身、編成写真の優先順位があまり高くないという性分なのもあるかもしれませんが、「やくも」のみしか選択肢が無くなったことで、明らかに個性的な作品を見る機会が増えたように思います。
選択肢が少ないと、限られた条件の中で構成を作り上げるようになるので、より個性的なものが生まれやすくなるように思います。同じ場所ばかりに行って視野狭窄になるのも考えものではありますが、同じ場所に何度も行くことで個性を考えやすくなるという効果は見逃せません。
こういった「修行」をすることで、お初の路線でも守りすぎない作品作りを考えられるようにもなるかなと思います。