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私のデジタル遍歴2 ~PLC~

PLCとは、「産業用コンピューター」のようなもので、工場で稼働する産業機械の多くに組み込まれています。現在の産業機械の多くはコンピューター制御の複雑な動作をするようになっていて、PLCは外部装置(センサなど)から情報を取り込み、電気信号のスイッチをON/OFFコントロールすることで機械の動作を制御します。
 
さて、生産現場で故障修理対応に駆け回る実務を経験した私は、このPLCの使用方法を覚えました。消費財程度の軽工業の生産プラントでメンテナンス実務をするには1)機械要素、2)電気要素、3)空圧要素 を覚える必要があり、PLCのプログラミングはこの中では電気要素に属します。
 
工場での修理対応に追われる日々の中、週末の休みには私はゲームに没頭していました。子どもの頃にゲーム機を買ってもらえなかった私は、恨みを晴らすかのように、大人になってから毎日何時間もゲームをしている時期がありました。

「みんなのゴルフ」というゴルフゲームがあります。ショットを打つときにはゲージが左右に振れて、真ん中でピタッと止めないとベストショットが出ません。ずれるとダフッて、変なところにボールが飛んでいきます。それがストレスでした。

私は閃きました。
「PLCと組み合わせれば『ベストショット発生装置』が出来る!」
ぴったりのタイミングでAボタンをONすれば良いのです。PLCにとっては最も基本的な機能です。
私は早速ネット通販でPLCを購入して「ベストショット発生装置」の製作に取り掛かりました。
 
出来上がったものは見かけ、どう見てもテロリストの時限爆発物です。
大きめのタッパーにPLCが収まっており、導線が幾つも出ています。タッパーのフタにはゴルフクラブ種類に応じて長さ設定を変えるデジタル数字表示や、起動用のスイッチがあります。
 
カバンに入れて空港に行けば、絶対に拘束連行されるやつです。
「これは何だ!」と両脇を屈強な係官に取り押さえられて
「みんゴルのベストショット発生装置です、みんゴルのベストショット!!」と叫びながら連行されると思います。
 
或いはテロが起きたときのニュースで「容疑者の自宅から幾つもの試作物が押収されました」というやつ。
でも考えてみたら設定した時間通りにスイッチをONする装置なので、あと爆薬があれば完全に爆発物なのですけどね。
 
さて、試作したベストショット発生装置ですが、試してみると致命的な欠陥が見つかりました。
ショットのタイミングが安定せず、微妙に振れてしまうのです。
 
ここからはちょっと電気の専門的な話になりますが。
PLCの電気信号のアウトプットには「リレー方式」と「トランジスタ方式」というのがあります。
私の購入したPLCはリレー方式でした。
 
リレーというのはコイルの磁力を用いて機械的にスイッチをON/OFFする部品です。PLCが発明される前はリレーだけで制御回路が組まれていました。機械的にスイッチをON/OFFするので、動作時には「パチパチ」と音がします。
 
トランジスタというのは半導体なので、パチパチと物理的に接触する部分がありません。その原理で作られたリレーをソリッドステートリレー(SSR)と言い、機械式リレーと比べ物にならない応答速度で動作します。
 
機械式リレーではタイミングの精度が出ないのです。「ベストショット発生」には1/1000秒の精度でスイッチを制御する必要があり、トランジスタを用いないとそれが出来ないのです。
 
トランジスタ式PLCを買い直せば良いのですが、そこで私の情熱はついえてしまいました。「もうええわ!」
見掛けテロリストのガラクタを残して私のみんゴルベストショットプロジェクトは終了しました。
 
さて、そんなことに情熱を燃やしてから20年ほどが経った最近。「昔の杵柄」とは良く言ったものですね。みんゴルプロジェクトが仕事で役立つ事件が発生しました。
 
仕事柄、新規導入設備の運転立ち上げに関わることが良くあります。
設備メーカーの技術者に現地に来て頂いて。メシを一緒にしながら私はネタ話にと思い、昔のみんゴルプロジェクトの思い出を笑いながら話していました。
 
たまたま設備立ち上げ時に電気トラブルが発生してしまいました。PLCの設定でまずい部分があるようで、電気がうまく作動しません。
 
設備メーカーの技術者が海外にいらっしゃるときには機械担当の方が現地に来て、電気担当の方は日本に残って遠隔支援、というのが一般的なスタイルになります。そうなるとPLCの設定を変更できるのは私だけという状況になります。
 
修正できなければ今月の生産開始を諦めなければいけない、という状況になりました。私は出張でいらした技術者の方に、日本の電気担当に連絡して、設定がどこに格納されているのか教えてほしい、とお願いしました。
 
ところが電気担当は情報を出そうとしません。電気技術者のよくある習性なのですが、電気に詳しくない素人にいじられてメチャクチャになるのが嫌なので情報を出そうとしないのです。
 
出張で来た技術者の方はイライラして電話口でこう言いました。「みんゴルにPLCを繋げた人ですよ!」
情報はすぐ出てきました。設備はすぐに直って生産開始が出来ました。
 
みんゴルも役に立ったなあ、と。人生ムダなことってそうそう無いものです。

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