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鯨肉は美味いのか、不味いのか

「鯨肉は美味いのか、不味いのか」という議論があります。
 
五十路の私が小学生の頃には、給食に「クジラ肉の竜田揚げ」というメニューが頻出していました。「硬くて不味いなあ」と思いながら食べた記憶があります。「鯨肉は不味い」論者の大半は、この記憶に根差すものです。
 
一方、「本物は美味い、『不味い』と言い切る人は本物の味を知らない」という論調があります。「本物とは何だ」という話になります。クジラにニセモノが存在するのか?
 
結論から言うと、どちらも正解です。そのうえで、私は「メチャメチャ美味いです。」と太鼓判を押します。何を言っているんでしょうね?その背景には、それを大々的に説明できない事情があります。
 
さて、硬くて不味いクジラの竜田揚げ。あれはいわゆる「遠洋捕鯨」で捕獲されたクジラです。IWCによる規制対象となってからは「調査捕鯨」と呼ばれ、規模を縮小して捕獲が行われています。捕鯨船で捕獲されたクジラは冷凍されて日本で水揚げされます。これが「クジラの竜田揚げ」として小学校の給食に提供されました。
 
一方、食通の方が「美味い」と絶賛して好むのは、「生の鯨肉」で、冷凍保存がされていません。冷凍保存は肉質の一定の劣化が免れないのです。
 
生で鯨肉を提供するには、クジラを近海で捕獲する必要があります。これは和歌山等の伝統的な産地で行われていますが、規模が小さくとても高級品になります。刺身にして醤油やポン酢で頂くと「高級な馬刺し」みたいに柔らかく、とにかく驚きます。でも「正式には」なかなか手に入ることが無い代物です。でも実際にはその美味しさを知っている人がたくさんいます。それはなぜか。
 
その理由を示すキーワードは「定置網漁」です。遠浅の海に張り巡らされた網の中に魚を誘い込む北陸に多い漁業手法です。
 
定置網は「ワナ」のような構造になっていて、魚を誘い込み、一旦入ると出られなくなる構造になっています。この定置網に、一定確率でクジラが入ってきます。一旦定置網にクジラが入ると、その構造上、外に逃がす方法がありません。

定置網

唯一の逃がす方法は、網を切って放棄することになります。しかし、網を失うわ、中の漁獲を全て諦めるわで被害が甚大になってしまうため、そのような選択はしません。その結果、定置網に入り込んでしまったクジラは殺して引き揚げるしか方法がなくなります。これが、北陸等のスーパーで普通にパックに入って売られている「生鯨肉」です。
 
念のために申しておくと、決して違法なことをしているわけではなく、定置網に入り込んだクジラを捕獲する手続きは農林水産省の省令で定められています。農林水産大臣あての報告をして実施される行為なので、法的問題はありません。
 
ただ、世界全般で非難を浴びる傾向にある捕鯨ですから、表立って宣伝が出来ないわけです。「定置網に入っちゃうのでいつも流通しています!北陸の名産で美味しいですよ!」とは宣伝出来ないので、地元の人が普通に知っているけど日本中には知らされない隠された名産になってしまいます。
 
というわけで、「本当の鯨肉」の美味を確かめたい方は北陸にいらっしゃって、スーパーで普通に買って食べてください。私同様の中高年の方は、「鯨肉」に対する認識が変わると思います。

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