【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マジック・ウィンドウズ (1981年)
Herbie Hancock / Magic Windows
これは1994年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。
熱狂と興奮の1970年代も終わり、1980年代の声を聞く頃から、アルバムでいうと『フィーツ』あたりからハービー・ハンコックは“迷走”の時期に入る。1978年の『サンライト』で、ヴォコーダーという“武器”を得てヴォーカルを使いこなせるようになってよりポップな方向に向かったハービーは、その後アルバムをリリースするたびにさらにポップ度を増し、それまでの彼のファンを戸惑わせていったのであった。ブラック・ファンクの名残のあった『フィーツ』(1979年)、サンタナも参加したロック色の強い『モンスター』(1980年、ここから“生”のシンガーも使うようになる)あたりまではなんとか付いてきたファンたちも、この1981年の『マジック・ウインドゥズ』あたりから“アレッ?”と思い出し、そして1982年の完全ディスコ・アルバム『ライト・ミー・アップ』で総ブーイングとなった(ただ当時アメリカのレコード業界は史上最悪の不況下にあり、ポップなヴォーカル・チューンがないとラジオでオンエアされなかった、という状況もあったのだが)。まあハービー自身もポップものばかりやっていてはいけないと感じたのか、それまでのインストゥルメンタルの未発表テイクに手を加えた『ミスター・ハンズ』(1980年、これが未発表ものとは思えないカッコよさ)をリリースしたり、V.S.O.P.(伝説の“雨の田園コロシアム”は1979年だ)やロン&トニーとのトリオ+ウィントン・マルサリスによる“アコースティック・ジャズ活動”なども並行して行なっていたが、その後に来る1983年の『フューチャー・ショック』があまりにも衝撃的だっただけに、どうもこの時期のハービーの活動は印象が薄い。この『マジック・ウインドゥズ』も今聴くとなかなかカッコいいアルバムなのだが、どうもそんな時代の中に埋められてしまった悲運のアルバムであるといえるのかも知れない。
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