見出し画像

【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / モンスター (1980年)

Herbie Hancock / Monster

これは1991年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

この『モンスター』をはじめとした1980年代前半のハービー・ハンコックのアルバムというのは、ハービーのファンはもちろん、ジャズ/フュージョン・ファンの間でも評価が低いというか、みんな“見て見ぬふり”をしている作品が多い。1978年の『サンライト』でヴォコーダーを手に入れて歌うことの楽しさを知ったハービーは、1979年の「フィーツ』でバリバリのディスコ・サウンドに向かうことになる(ちなみにこのアルバムは某有名ジャズ誌のレコード評で、ハービーのアルバムとしては異例の“小さなワク”で紹介されていた)。まぁこのあたりまではハービー自身がヴォコーダーで歌っていることだし......なんていう感じでファンも笑って許していたのだが、次の『モンスター』ではヴォコーダーをやめて“本物”のヴォーカルを使い、ロックっぽいサウンドも導入してファンを戸惑わせた(ハービー自身は“『フィーツ』は僕なりのディスコ・アルバムだったが、『モンスター』は僕なりのロック・アルバムだ”と語っていた)。その後『Mr. ハンズ』でファンの溜飲を下げたが、1981年の『マジック・ウィンドゥズ』ではテクノまで取り入れ(今から思えばこのアルバムがあの『フューチャー・ショック』の原点だったのだが)、1982年にはついにあのポップ・ディスコ・サウンド全開の『ライト・ミー・アップ』を制作してしまう。ぼくの友人で、大のハービー・フリークを自認していたピアニストは『ライト・ミー・アップ』を初めて聴いたそのあと、“こんなの、ハービーのアルバムじゃないやい!”とジャケットを投げ捨ててしまった。というわけでその翌年、1983年にあの『フューチャー・ショック』と「ロックイット」で再びファンのド肝を抜くまで、ハービーはそれまでのファンの期待を裏切るというか、かわし続けていたのであった(新しいファン層を開拓したことは事実だが)。

ここから先は

3,041字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?