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【Lost Liner Notes】 ウェザー・リポート / ジス・イズ・ジス (1986年)

Weather Report / This Is This

これは1995年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

1971年に『ウェザー・リポート』で衝撃のデビューを飾って以降、ウェザー・リポート(以下WR)は、ジャズ・シーン、いや全音楽シーンのトップ・グループとして疾走し続けた。特に1976〜82年、ジャコ・パストリアスが在籍していた頃のWRはまさに“神がかり”的なグループだった。今でもあの頃の彼らのサウンドは、ぼくが今まで体験した中でも最高のサウンドのひとつだったと断言できる。だが1985年に『スポーティン・ライフ』をリリースしてWRは“グループ”としての使命を終える。1985年から1986年にかけてショーターは『アトランティス』、ザヴィヌルは『ダイアレクツ』というソロ・アルバムを続けてリリースし、2人のリーダーの音楽性が明らかに違う方向を向き始めたということが浮き彫りになっていった。そしてそんな状況の中、1986年にリリースされたWRのラスト・アルバムがこの『ジス・イズ・ジス』である。
実際のところ、このアルバムを“WRのアルバム”として認めたくない人もいることだろう(ぼくもその1人なのだが)。ここでは常に最高のグループ・サウンドを聴かせてくれていたWRの姿は希薄で、ほとんどジョー・ザヴィヌルというアーティストのソロ・アルバムのようなサウンドになっている。そしてなによりショーターが「ジャングル・スタッフ・パート1」と「マン・ウィズ・ザ・コパー・フィンガーズ」のたった2曲にしか参加していないのだ。WRはジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターの2人によるグループであり、2人の個性がぶつかりあってこそWRなのだから、これはもはやWRではないと言わねばならない。おそらくレコード会社との契約履行のために作成されたアルバムだったのだろう。「ジス・イズ・ジス」と「マン・ウィズ・ザ・コパー・フィンガーズ」の2曲にカルロス・サンタナがゲストとして参加しているという聴きどころもあるが、それはWRのサウンドとはまったく別のところでの話だ。

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