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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マン・チャイルド (1975年)

Herbie Hancock / Man-Child

これは1998年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

『ヘッド・ハンターズ』をはじめとするハービー・ハンコックの1970年代前半の作品たちが、クラブDJらに頻繁にサンプリングされたり、フロアでプレイされたりするようになって、若い世代の音楽ファンにも再評価され、新しいファン層も広がってきている。この『マン・チャイルド』も、そんな1970年代前半のハンコックのエッセンスが詰まった名作であり、とてもハンコックらしいパワフルでクリエイティヴな作品だ。
ハービー・ハンコックは、1973年に日蓮上人から啓示を受け(た、らしい)、それまでのサウンドとはガラリと変わった、ファンクの要素を大胆に取り入れたアルバム『ヘッド・ハンターズ』をレコーディングする。メンバーは、ハンコック(key)、ベニー・モウピン(sax)、ポール・ジャクソン(b)、ハーヴィ・メイソン(ds)、ビル・サマーズ(perc)の5人。このアルバムはビルボード誌の総合アルバム・チャートで最高13位を記録してプラチナ・ディスクを獲得する大ヒットとなり、ハービー・ハンコックの名前はジャズ・ファンのみならず、ポップスやブラック・ミュージックのファンにまで浸透していくようになる。そこでハンコックは『ヘッド・ハンターズ』のサウンドをライヴでも展開するべく、レコーディング・メンバーからドラムをマイク・クラークに代えてレギュラー・グループとしての活動を開始する。彼らはハンコックのリーダー名義で『スラスト』(1974年)、そしてこの『マン・チャイルド』(1975年)といった素晴らしいアルバムを制作する一方、ライヴでも圧倒的な演奏を展開していった。彼らは1974年、1975年と2年連続して来日して壮絶な演奏を繰り広げ、特に1975年のステージの模様は『洪水』というそれはそれは強力なライヴ・アルバムとして残されている(個人的にはこのアルバムの「アクチュアル・プルーフ」は彼らのベスト・パフォーマンスだと思っている)。だが同1975年にグループのメンバーたちはハンコックの元から独立し、『洪水』『マン・チャイルド』にも参加していたギタリストのブラックバード・マックナイトを加えて“ザ・ヘッドハンターズ”という独立したグループとして活動を開始、アルバム『サバイバル・オブ・ザ・フィッテスト』をリリースする。彼らはその後1977年にはポール・ポティエン(key)、デリック・ユーマン(vo)をメンバーに加えてセカンド・アルバム『ストレイト・フロム・ザ・ゲイト』をリリースするが、自然消滅的にグループとしての活動を停止してしまった。そしてハンコックのグループも、ヘッドハンターズの独立後は、ベニー・モウピンとポール・ジャクソン以外のメンバーを入れ替え、ワウ・ワウ・ワトソンとレイ・パーカーJr.というふたりの強力なリズム・ギターをフィーチャーした布陣で1976年に『シークレッツ』をレコーディングし、そしてこのグループは同年の『V.S.O.P.』の第3部で壮絶で完璧な演奏を残すことになる。

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