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「小さいおうち」★5.0~局地的TOKYO2021映画祭の3日目

「大豆田とわ子」の最終回って、スポーツ中継の影響で後半30分録画に失敗していたので、いまだに結末を知らないんですけど、「小さいおうち」を観たら、その消化不良な気持ちが成仏できたような気がしました。違う作品なのに。この2作はメタのレベルで通底してる。
オマージュ、とひとことでいってしまえばそうなのかもですけども。

こんにちは、ユキッ先生です。

オリンピックの期間中、「東京を舞台にした映画を観て感想を綴る」シリーズの3日目です。
おとといワクチン2回目接種したので、体調的にちょっとどうなるかなと思ってましたが、現状問題ないので3回目も開映できました。

昨日私がサブスクでいただいた映画は、こちら。

あらすじと概要をコピペる

先のAmazonページよりコピペします。

あの小さな家に閉じ込めた、私の秘密
山田洋次監督が、直木賞受賞・中島京子著のベストセラー小説を映画化!
■60年の歳月を超えて明かされる、小さなおうちに封印された二人の女性の“秘密"とは・・・切なくもミステリアスな物語。
■直木賞受賞作家・中島京子のベストセラー小説を、山田洋次監督が映画化。
■松たか子 黒木華 片岡孝太郎 吉岡秀隆 妻夫木聡 倍賞千恵子ら豪華キャストが集結!
■第64回ベルリン国際映画祭 銀熊賞受賞(最優秀女優賞)黒木華 ! !
ストーリー
昭和11年。田舎から出てきた純真な娘・タキは、東京郊外に建つ少しモダンな、赤い三角屋根の小さなお家で、女中として働きはじめた。
そこには、若く美しい奥様・時子と旦那様・雅樹、そして、可愛いお坊ちゃまが、穏やかに暮らしていた。
しかしある日、一人の青年・板倉が現れ、奥様の心があやしく傾いていく。タキは、複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続けるがー
それから60数年後の現代。晩年のタキが大学ノートに綴った自叙伝には、"小さいおうち"で過ごした日々の記憶が記されていた。
残されたノートを読んだ親類の健史は、秘められ続けてきた思いもよらない真実にたどり着く。

ですって。東京郊外、とありますが、現在の大田区あたりだそうです。

山田洋次監督の作品はよく地上波放映される機会もあるので、そういうときには何とはなしに観ていました。出演者もおなじみの面々ですね。

現代と昭和初期をシームレスに行き来する

と開映いちばんにつぶやいたのは、妻夫木君がお爺さんお婆さん世代の名優との共演が多い、すなわちお葬式のシーンが多い俳優さんだからです、たぶん。勝手なイメージですけど。
私自身がおばあちゃんっ子だったのと、高齢化社会の最先端を走る県で生まれ育ったので(?)、恋愛面で迷走気味だった20代のあるとき、タイプは「おばあちゃんに好かれそうな人」なんだと気づきました。スポーツがうまいとかクラスの人気者とかより、たとえば、登下校時に近所の爺さん婆さんにもニコニコ挨拶する人。妻夫木君なんてまさにそうですね。勝手なイメージですけど。

そういうわけで、「親類のおばあちゃんの自叙伝をベースに昭和初期を回想するシーン」と、「おばあちゃんの話を親類の青年が聞き出してあれこれ好きなことをいう現代のシーン」とがシームレスに行き来する構成になっているんですが、これが本当に過不足なく、効果的に切り替わります。

おばあちゃんの歩んできた人生とその時代に興味があり、フランクにその話に耳を傾ける若い青年という存在。それだけでまず高得点です、私のなかでは。100年生きる望みになる。そのためなら私は生きすぎてもいい。

前に観た2作にはかなりモヤってた

第1日目第2日目とも、描かれる家族とか男女の関係性について、どうしてもモヤモヤが拭いきれないというか、登場人物のうち、「家庭におけるおかあさんである人の、個人としての描写不足。”女神”か”お荷物”、どちらかの方面への極端なディフォルメ」にやや辟易していましたので、その点では胸がすくような爽快感はありました。

昭和初期という時代にあって、美しくて気立てがよくて、センスがよく(ここが重要そう)、周囲からの評判もよい、ヨイヨイ尽くしの家庭婦人。身内からの嫌味やいけすかない来客の対応にも百戦錬磨の家庭婦人。

あれ、これって大豆田とわ子のプロトタイプのような気がするぞ? …顔が同じだからか??

【時子さんととわ子さんの共通点】 ※顔以外で

・なんといってもおうちが素敵
・ファッションも素敵で、とにかく文化的素養が高い
・謎の色気を持つ異性に惹かれる
・家屋の損傷したところは直してほしい
・それも含めて「その時代の最先端をいく東京の女性」イメージの具現

いがかでしたか。乱暴なまとめでしたか。
いや、でも、とわ子さん好きな人にこそ「小さいおうち」もぜひ観てほしいです。

手紙のくだりでとわ子との関連性もう一押し

大豆田とわ子の最終回、恋愛譚としてはその前の回で完結していたので、「この最終回、必要あるかな?」って思いながら視聴していて、結局30分で録画ブチ切れてたんですが、録画ブチ切れててもわかる、「このエピソードがあることでとわ子の決心の意味が補完されるから、やっぱり必要あったね」と感じさせるシーンでした。

とわ子が娘とともに、亡き母がかつての恋人に宛てた手紙をもとに、その恋人を訪ねるという話で、親類の青年が、おばあちゃんが大切に取っていた手紙をもとに、関係者を訪ねていくという「小さいおうち」の終盤エピソードとまるっと重なります。

とわ子の世界線では、自身が母となり、自分の母の人生の終幕と大切な人の死に向き合った後で、「心のなかに忘れられない恋人がいたにもかかわらず、別の人と結婚して夫と子供の世話に追われた母の人生は、果たして幸せだったのか?」というテーマが根っこにあるのですが。

「小さいおうち」も「大豆田とわ子と三人の元夫」もどちらも所詮架空の話だし、結末なんて観る人の解釈でどうとらえてもいいんですけども、先にとわ子の最終回を観ていたことにより、タキちゃんが生涯独身であった理由、板倉さんが生涯独身であった理由がより腑に落ちたんですよ。
あれを観ていなかったら、「えー、でも、タキちゃんが生涯独身っていう結末は、あの時代の田舎の女性にしたら、いくらなんでもいかにもフィクションって感じしない?」という印象が拭いきれなかったと思う。
風吹ジュンがいいこといって泣いちゃった大ラス30分は未見だけど。

誰が誰を好きでも、誰のために生きてもいいんじゃないかというメッセージを受け取りました。社会情勢とか、婚姻とか家族制度とか性別とか、外野は「常識」を好き勝手押し付けるかもしれないけれども。それが幸せか、幸せだったかどうかは他人が判断できるものではない。いや、究極的な自由ってそういうことだなと。人を大切に思う気持ちだけは、まぎれもなく自分のものだよ。
ほらいま、脳内BGMで「Pretender」が3億回再生されました。

そして、私にとってのとわ子の最終回30分を奪ったスポーツ中継への怒りがまたちょっとぶり返しました。

とりあえず孫世代にとんかつを揚げる人生をめざそう

あと、些細なところですが、昭和と平成とにつながるひとつの印象的なモチーフとして「とんかつ」が出てくるんです。何がきっかけかわからんのですが、過去の私がたまたまこんなことをつぶやいていました。

家で揚げものをしないのは、処理が面倒くさいのと、そもそも忙しいからです。特別それを好きだという家族も(幸い)いないし。極めて合理的な判断だと思います。

でももし私が、生涯なんらかの労働はするつもりだけれども、たとえばお子らが成長して、いまほどガツガツやる必要がなくなった頃に、孫ほどの世代でフランクに話せる身内や友人がいたら、彼or彼女のために揚げ物を振る舞いたくなるかもしれないなあ。

そういえば、「きのう何食べた?」でも、たまに実家に帰る息子のためにおかあさんが揚げ物を出すことに対して、「母親が、家を出る前の若い頃と変わらないイメージで揚げ物を出してくる」的なことをシロさんがいってましたね。あのエピソードもすごく好きです。
そういう「自分よりも未来がある人のために何かをしてあげたい気持ち」が尊くて、合理性を盾に面倒ごとを一掃している日々の隙間に、そのように感じられる年代になったことを噛みしめた次第です。

あと2点、好きなセリフと思い出した映画

終盤のシーンで、時子を咎める小中先生がつぶやくようにいうセリフに深く共鳴して、文字起こしするために、そこだけ繰り返して3回観ました。

物語の序盤で橋爪功演じる作家の小中先生は、平井家の奉公に上がる前のタキちゃんに、「芸者からの手紙を、妻に見つかる前に隠すのが、デキる女中」と諭してました。伏線です。芸者と不倫していた自分を、時子にも重ねて「僕のようないい加減な人間」というわけですよ。その冷静な観察眼。
景気のいい頃には誰も気にしないことも、余裕がなくなるとムラ社会が露呈する。いまの世の中にも刺さりますね。

もうひとつ。毎回映画の感想テキストのなかで別の作品紹介をインサートして恐縮ですが、「地方から奉公に来る少女のピュアな視線を通じて、当時の上位階層の暮らしの周辺を映像詩的に観せる」という点では、1993年のベトナム映画「青いパパイヤの香り」がおすすめです。
ジャケ写も素敵で、一人暮らしの頃に家にポスター貼ってたなあ。
田舎と都会のハイブリッドで生きていくのは、強みだと思える。

若い男子がばあちゃんの一生を追想する構成は、2006年公開の映画「嫌われ松子の一生」(とその原作)も思い出しました。こちらは堕ちて堕ちて堕ちる系の人生ですけども、映像がとても楽しいです。エンタメ傑作として制作されているけども、テーマが実はとても深いし。

で、評価なのですが、観る順番やタイミングにも間違いなく左右されてます。大豆田とわ子を観てなかったらまた全然印象が違う気もするし。

というわけで、星5つ[★★★★★]で。


カバー写真 / 1か月に1回東京出張していた時代がありまして、2012年おそらくクリスマス前の新宿駅周辺だと思われます




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