北枕ホテルで、何かしらと過ごした話
先日、九州に行く用事があった。
旅程は金曜日~日曜日までだったが、金曜日は仕事である。
土曜日の朝から、大分県宇佐市にある、聖地的な山に登るという。
そうなると、金曜日仕事を終えてそのまま大分まで車で行き、ホテルに泊まって朝合流すれば山には行けるな…。
そんな算段で、業務終了後、車を走らせた。
大分のビジネスホテルまでは大体330キロだった。
家から京都までとほぼ同じ長さである。
京都には毎月のように行っていたので、逆走する感覚で新鮮だ。
山口県の後半に差し掛かると、高速道路だが山の中なので道が蛇行している。大きな事故も起こっている場所だ。
走っていると、若干気持ち悪い。先入観もあるだろうが、
何か嫌な感じがしたので、スピードは控えめにして走った。
この嫌な感じがした付近、帰り道でちょっとした変なことがあったのだが、それはまた別に書くとしよう。
ともかく、行きは特にトラブルもなく、宇佐市にある、
予約したビジネスホテルに到着。
ナビが案内を終了したので、この真っ黒い建物がホテル…なのだろう。
このホテルは楽天トラベルで予約。
現地精算で現金払いしかできないが、何と一泊3,200円の格安ホテルなのだ。
あの注射を打ってるなら割引。みたいなアコギなプランが並ぶ中、このホテルにそんな規制はなかった。カプセルホテルを除けば、宇佐市で3,000円台はここだけだったと思う。
そんなわけなので、ホテル名のネオンすら切って異様な雰囲気を醸し出していようと、気にしてはいけない。
広大な駐車場には3台くらいしか止まっておらず、
街灯は道路沿いにしかないため、駐車場も総じて暗いが…。
いやいや!
もう日もまたがんばかりの時間だし、
暗かろうが人がいないんだから事故も起こりようがない。
何も問題はない。
ホテルの脇の駐車スペースに停め、ロビーへ急ぐ。
駐車場が暗くて気持ち悪いのもあるが、
そもそもこのホテルは営業しているのか?
という疑問も湧き始めていた。
ロビーはちゃんと明かるい。
ベルを3回くらい鳴らすと、ようやく従業員が出てきた。
「…1,600円です」
ん?
聞き間違えたか?
1,600円?
ただでさえ安いのに、半額じゃないか。
大分の宿泊税は50%なのか?
いろいろ考えが巡るが、チェックアウト時に半額払う方式なのかもしれない。郷に入れば郷に従えというし、素直に払っておこう。
半額でいいなら得だしな。
何の気なしに鍵を受け取り、401号室へ。
おお、角部屋だし、いいじゃんか。
ユニットバスは…汚ねぇな。
トイレは掃除されているようだが、バスタブに歴史ある模様が浮かび上がっている。
とりあえず手を洗い、うがいをする。
寒いので、古いエアコンのスイッチを入れると、
結構暖かくなってきた。
全館禁煙か…他意はない。
他意はないけど、窓を開けてみようじゃないか。
窓の外に理想の喫煙スペースなどなく、
真っ暗で広大な駐車場が広がっていた。
その先には、暗い海。
何とも…薄気味悪い。
煙草を吸う気が一気に失せ、窓を閉める。
が、閉まらない。
何だこの窓、後1㎝が閉まらない。
力任せに閉めようとしても、強烈な金属的抵抗を仕掛けてくる。
なめんなよ。
どうせレールがひわって(歪んで)るだけだろ?
窓を手前に引いたり押したりすると、急に閉まった。
よし!やればできるじゃねぇか。
もう開けてやらねぇからな。
鍵を掛ける。
今日は夜中にオンラインで瞑想会があるらしい。
早目に風呂に入っておこう。
浴槽は汚いが、見た目だけで、掃除くらいしてるだろう。
必ず浴槽には浸かるようにしているので、
多少のことは目を瞑ろう。
お湯を張るために湯を入れる。
ふと、洗面台に目をやると、髪の毛が落ちている。
…おや?
20㎝くらいあるので、俺の毛ではない。
まったくよー。
掃除くらいしろよな。ゴミ箱に捨てた。
…あれ?着いた時洗面台使ったけど、
髪の毛なんて無かったような??
まぁ気のせいかも知れない。
汚い浴槽だったが、さすがに洗ってはあるようで、
ぬるぬるしたりはしなかった。
オンライン瞑想をして、寝ることにしたが…。
何かこのベッド、違和感がある。
AppleWatchの方位磁針で枕の方角を確認。
「北 ~12°」
ほぼ、北枕である。
いやまぁ、北枕は実は健康に良いとか、良さを隠しているとか聞いたことあるけどさぁ。
ホテルのデフォルトで北枕は嫌じゃない?
いや、俺はいいよ。
怖くなんてないよ。何ならこのまま寝るよ。ああ、そうするさ。
エアコンの温度を1度だけ下げた。
それでも25℃だから、寒いってことはないだろう。
クローゼットに毛布もあったので、布団の上に掛ける。
枕元に水とお稲荷さんの入っている石を置いて、寝た。
20~30分経ったか、それともまだ数分か。
妙に寒い。
エアコンの温度を上げるべきか…。
目を開けると、当然真っ暗なのだが、ぼんやり見える額縁が、
ちょっとだけ斜めなのに気付いたりして、何とも薄気味が悪い。
いやいや、怖いんじゃないぞ。
一回起きると深い睡眠が邪魔されるっていうからな。
多少寒い方がよく眠れるって言うし…。
実際、布団に隙間でも出来ていたかな。
と思って、もぞもぞと外から空気が入らないようにする。
一応、お稲荷さんに、寝転がったまま祝詞を上げ、
『もしあれだったら守って頂けると幸いです』
みたいな、変な口調でお願いもしておいた。
これでOK!
その後、再び眠りに就いたが、やっぱり寒い。
猛烈に寒かったら起きてエアコンを馬鹿みたいに上げただろうが、
耐えられないほどの寒さではない。
でも、寒いし、やたら目が覚める。
…そんなことを繰り返しているうちに、目覚ましが鳴った。
あ~、何か快眠は出来なかったなぁ。
ベッドから起きると、ベッドに髪の毛があった。
またか。
しかもまた長い髪の毛…。
そしてこのベッド、動かした跡がある。
もともと、南枕だったのでは?
ベッドの南側、足を向けるほうだが、数センチの隙間があり、
そこのカーペットの素材が違うからだ。
少しぞっとしたが、ま、まぁ日も出ているし、
関係ねぇな。
そういえば清算はどうなるのだろう。
半額とか喜んでいたが、それもしょぼいので、間違いだったら支払ってしまおう。
フロントへ行き、鍵を渡す。
「ありがとうございました。」
『あの、精算もういいんですか?』
「はい。結構でございます」
…やっぱり追加の請求はない。
1,600円って安すぎじゃないか?
まぁいっか。眠れなかったし、安かったから良しとしよう。
その後、旅の仲間と合流し、神社を巡った後、ランチを取ることになった。
仲間を数名、車に乗せ、お店まで走らせていると、電話が鳴っている。
誰だろう。
AppleWatchは強制スピーカーモードではあるが、
電話に出られるので、運転中でも楽に話せる。
周りに丸聞こえなので、母ちゃんからだったら恥ずかしいが、
そうではなかった。
「あの~、ホテル〇〇ですが」
…ああ、やっぱり1,600円は間違いだった、とかかな。
「お客様の部屋にお忘れ物がありまして…」
はぁ。出る前に確認したが、抜けがあったか。
「プラスチックの、これ何て言うんだっけ…お~い…」
誰か別の従業員に聞いているようだ。
「カーラーです。髪を巻くやつ。ベッドの中にあったって…」
ベッドの中…?
『それは僕のではありません』
大体俺がどうやってカーラー使うんだよ。
そんな毛量ないし。
「そうですか…じゃあその前の女性のお客さんの忘れ物かな…」
電話は切れた。
スピーカーモードで丸聞こえなので、
車内の仲間たちは引いていた。
「カーラーって、ベッドにあったら気付くでしょ?」
「怖すぎる!何と寝てたんですか?」
…やめろ。
確かにカーラーなんてベッドにあったら気付いたはず。
結構布団ぴたぴたにして寝てたし…。
あの寒さは、まさか、そういうこと?
やたら髪の毛あったしなー。
いやいやいや。
単に掃除が行き届いてなかっただけさ。
それにしても…電話の切れ方も気になった。
もちろん「ありがとうございました」の挨拶はあったが、
「前の女の人の忘れ物」
であるなら何で謝罪の言葉がなかったのか。
一応断っておくが、謝罪してほしいのではない。
「掃除が行き届いておらず申し訳ございません。」とかさ。
こちらは物理現象として納得したいわけよ。
何もなしで納得したように切りやがって…。
こうなってくると、半額だったのがまた怖えじゃねぇか!
その日の夜、この話が話題になったとき、参加者の一人が言った。
「宇佐のホテル、写真で見て気持ち悪かったんで、
こりゃ無理だと思って別府にしたんですよ。
気持ち悪いですよねー」
…そうですね。気持ち悪かったです。
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