悪魔の証明

悪魔「悪魔の存在を信じますか」
女「信じません」
悪魔「では幽霊は」
女「信じます」
悪魔「なぜですか」
女「幽霊はみんなが見たと言います。悪魔の目撃証言はありません」
悪魔「悪魔の目撃証言があれば存在をみとめますか」
女「みとめません」
悪魔「なぜですが」
女「そもそも幽霊もみとめてはいません。わたしはみてません」
悪魔「でもさきほど幽霊の存在を信じると」
女「信じますが認めません私はひとからの証言をもとに存在を推理したまでです。推理はあくまで推論です事実ではありません」
悪魔「つまり、目撃証言を否定する証拠はないため存在を認めざるをえないが故に幽霊はいる。しかしながら物理的観念においては実体験に基づく証拠がないため認めない。と」
女「そんな感じです」
悪魔「でもそれは大変ですね貴方にどうにかして悪魔を証明しなくてはならない」
女「悪魔の証明をするのですか」
悪魔「そうです悪魔の証明です」
女「ではしましょう」
悪魔「はて」
女「議題はなんですか?私好きですよ、悪魔の証明」
悪魔「なんです突然」
女「人間は決して説明しようのないことを悪魔の証明というのです」
悪魔「それは知りませんでした」
女「だから人間に悪魔を証明することはむりなのです。悪魔とは証明できないものの代名詞なのですから」
悪魔「卵と鶏の順番がごちゃごちゃですね。では論理的にせめるのをやめます。感情的に、貴方は悪魔にいてほしいですか」
女「いやです」
悪魔「いやですか…」
女「いやです、魂を取られますでしょ」
悪魔「とりません」
女「寿命をとりますでしょ」
悪魔「とりません」
女「精力をとりますでしょ」
悪魔「とりません」
女「じゃあなにをとるんですか、相撲ですか」
悪魔「?!とりません!!おかしいでしょう。願いを叶える代わりに相撲をとっていただきますって」
女「もう帰ったらどうですか」
悪魔「なぜですか、いいですか?私は貴方の願いを3つかなえます」
女「結構です」
悪魔「願いを叶える代わりになにかを貰うことはありません」
女「間に合ってます」
悪魔「こんなにうまい話はありません。どうしてそのチャンスを返そうとするのですか」
女「お引き取り下さい」
悪魔「どうして帰そうとするのですか!!」
女「息を」
悪魔「こら!!!」
女「わ、こわい、まるで悪魔」
悪魔「悪魔だといっているでしょう」
女「ありえません」
悪魔「では何か特別に願いを叶えましょう。これは3つのうちにカウントしません。ありえない所業を見せつければ貴方も流石に信じるでしょう?そして願いも叶う。言うことなしだ」
女「ありえないこと?」
悪魔「えぇ」
女「じゃあ、例えば窓から見えるあの橋、なくせる?」
悪魔「それがのぞみですか?」
女「そうだよ。できないの」
悪魔「できますが…(指を鳴らす)これでいかがです」
女「暗くてよく見えないな。ほんとにきえた?」
悪魔「えぇ、では近くまで行きましょう」(指を鳴らす)
[橋の下へ]
女「さむっ!瞬間移動は願いに含まれるの?」
悪魔「含まれませんよ、さぁ確認して」
女「跡形もないね」
悪魔「跡形もなくしましたから、この橋がなんで嫌いなんですか」
女「嫌いじゃないよ、便利。でもこんなのなけりゃいいとおもうよ」
悪魔「なぜです」
女「そのままの意味です」
悪魔「なんだか貴方そのものが悪魔の証明みたいですね」(指を鳴らす)
[部屋の中へ]
女「おあっと、私が貴方のレゾンデートルですか?」
悪魔「違います、人間が使う方の意味です」
女「なるほど、しかしここで1つ新たな問題が」
悪魔「なんです」
女「私の夢である可能性です」
悪魔「そうですか、では頬をつねってみせましょうか?」
女「いやです。契約者を傷つけないのでは?」
悪魔「そんなことはいってません。対価を頂かないだけです」
女「でもいやです。むだですから」
悪魔「なぜです」
女「私は夢に感覚があるので痛かろうと痛くなかろうと夢でない可能性は証明できません」
悪魔「でも、夢ならいいではないですか。せっかくの夢だ、現実では叶えられないことをしましょう」
女「貴方は知らないでしょうけれど目覚めた時の虚しさったらないのですよ。…でもまぁ、仕方ないですね」
悪魔「やっと乗り気になっていただけた!」
女「しつこいから仕方なく」
悪魔「一言多いですね。さぁなにを願いますか?」
女「この子を生き返らせることは出来ますか?」
悪魔「貴方が座ってらっしゃるその箱の中の方ですか?」
女「そうです。できるだけ健康な状態で元に戻してください」
悪魔「大切な方なのですね…でもその願いはききかねます」
女「なぜです、できないのですか」
悪魔「いいえやろうと思えばできますよ、しかし意味がない」
女「意味がない。この子が生き返ってもすぐ死ぬと?それであれば2つ目の願いはこの子の延命です。これならどうです」
悪魔「そういうことではないのです。意味がないのは私にとってです。対価もなしに叶えるのであれば私本位でもよいでしょう」
女「でも願いはなんでも聞くといったでしょ」
悪魔「えぇ、でもそれはどんなに常識的、物理的に不可能なことでもという意味です。私の嫌なことも受け入れますという意味ではありません」
女「貴方もなかなかに悪魔の証明のようなひとですね。では理由をお聞かせ下さい。なぜ意味がないのですか」
悪魔「だって私がせっかく殺したんですもの」
女「は?」
悪魔「それをわざわざ戻すなんて馬鹿馬鹿しいじゃございませんか」
女「貴方がこの子を殺したのですか」
悪魔「そうです。いいですか?私はニンゲン様の願いを叶えます。その際に何も貰いません」
女「えぇ」
悪魔「これは金銭や現物支給を必要としないということです」
女「つまり」
悪魔「つまりそれ以外は勝手に貰っていくという話です。私がほしいのはね、ニンゲン様の苦しみです。私がいくらでも願いを聞きましょう。その代わり救いようのない苦しみと悲しみを体験してもらいます。富を望めば命を狙われる。恋人を望めば誰かに奪われる」
女「なぜ、そんなことを欲するのですか」
悪魔「貴方は蝶の羽を毟る子供に理由を尋ねて明確な答えが返ってくるとお思いですか」
女「人間の倫理なぞないと言いたいのですか」
悪魔「まぁ、そういうことになりますね」
女「本当にただの悪魔だったんですね」
悪魔「あぁ、それなんですけどね、私悪魔ではないんですよ」
女「は?」
悪魔「人間の世界では悪魔を非道でかつ人間に契約を持ちかけるものだと認識しているようなので利用しました。小芝居です。でも信じてもらえないなら意味なかったですね」
女「では貴方はなんなのですか」
悪魔「神です。ちなみに神である私にも悪魔の証明なんてできませんから。そんな生き物私の住む世界にはいませんし。汚らしい。見たことないですよ」
女「・・・」
悪魔「あなたの羽を毟るため、あなたに最愛の人を失う悲しみを与えたのに顔色ひとつかえやしない。そんなに悲しそうでないんですもの。追い打ちに来ました。でも最愛の人を殺した犯人を目の前にしても激昂のひとつもしない。あなたは本当につまらない」
女「…貴方は悪魔ではないです」
悪魔「そういってるでしょ」
女「貴方は悪夢です」
悪魔「は?」
女「そして私は」
悪魔「どうされました?」(顔を覗き込む)
女「……………バクッ」

女「もぐもぐもぐ、ごくんっ」

アナウンス「おめでとうございます。貴方が理屈をこねたおかげでここに悪魔が誕生しました」
[SE:パパーン]
女(決めポーズ)
[暗転]
アナウンス「これをもって悪魔の存在を証明します」

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