見出し画像

甥っ子2号と御眷属様

甥っ子2号の話。彼がまだ1歳くらいなので、もう13年くらい前のアメリカでの話。
姉の家にも、我が家同様に三峯神社の狼を借りて来ている。俗に言う御眷属様というものである。毎年、御眷属様を返せないので3年に一度くらいのペースで返却し、新しい御眷属様を迎え入れるスタイルだった。
それは、ある土曜日に起きたと言う。甥っ子1号いわくその日は愛猫のババが朝から落ち着かず、どこかソワソワしたような感じで上の部屋や下の部屋を行ったり来たりしていたと言う。ようやく落ち着いたかと思うとゲージの中でウルトラマンと仮面ライダーの人形を一心不乱に戦わせる2号が「あー!」とか「うー!」とか言っているなと思ったという。ともかく何か変な感じがしたのは1号だけでなく、姉も同じだったそうだ。そして事件?が起きた。突然、部屋の照明が点き二人が前を見ると、まだハイハイしか出来ないはずの2号が日本の足で立っていたという。まさに甥っ子2号、大地に立つである。二人は2号が立てた事にビックリしているとババが2号の足元へやって来て二人を威嚇し始めた。すると二人は耳を疑ったという。

「猫、やめなさい」

紛れもなく2号が喋ったのである。赤ちゃん言葉しか知らない筈の2号が明らかに日本語を喋ったのだと言う。そして二人を見据えて2号はこう言った。

「我こそは三峯神社の狼です。お塩をひとつまみ下さいな」

確かに御眷属様の好物は塩だ。だからと言ってなぜ赤ちゃんである2号がそれを知っているのか?真相は謎だらけだが確かに塩をくれと言ったという。
姉と甥っ子1号は、ぽかーんとしたが1号はダイニングへ走って大急ぎで塩の入った容器を持って来た。2号は両手を突き出したのでスプーンで、これくらい?と言いながら乗せてやると

「むー。もうちょっと」

そしてもう少しよそって置いてやると、それを一口ペロリと口に入れた。塩をダイレクトにである。その様子をババは見守り、姉と1号は心配で見つめていた。すると気が済んだのか?

「ありがとう。また三峯神社へ来るんだよ?」

そう言ってゲージのある部屋へと戻って行った。後を追うようにババがついて行った。姉と1号はそーっと後ろからついて行き、ゲージがある部屋を見ると2号が床で大の字を書いて寝ていた。その2号のおでこを尻尾で優しく撫でるババがいた。
結局、2号が日本語を喋れるわけもなく、ましてや歩けるわけもなく。それはもしかしたら夢だったのかは分からない。
ただ時々、ババが御眷属様と喋るような姿が今でも時折見えると言う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?