被害妄想

アリエッタはある環境でひどい扱いを受けて心に深い深い傷をおった。

それは修復するにはかなりの労力と時間が必要になる傷だ。


アリエッタは昔から町の中でも背が高くひょろとした女の子だった。

彼女はそのことをひどく気にしていたし、丸い眼鏡に鼻の上のそばかす、そして少し出ている前歯など、とにかく容姿に自信がなく大人しい女の子だった。

それでも彼女は人に優しく、誰にでも分け隔てなく接することができる素敵な少女だった。

そんな少女にいつしか恋心を抱く少年もいた。

彼女への恋心を隠し、親しくなろうと彼女に毎日、一日に一回は話しかけようと目標を立てていた少年ーリベリオはかなりのロマンチストでアリエッタの住む小さな町では有名だった。

なのでかけてくる言葉は毎回、嘘みたいに詩的な言葉でアリエッタは最初こそからかわれているのかとむずがゆい気持ちになったが、彼が一生懸命なのを知って気を良くし、少し二人の距離が縮まり始めて少し経った日だった。

アリエッタは家族と一緒に別の町へ引っ越していってしまった。

別れの言葉も言えず、人伝いにそれを知ったリベリオは悲しみにくれたが、アリエッタのことが忘れられずにいた。

そして2年後。

少年少女の成長は著しく、アリエッタよりも小さかったリベリオは凛々しい青年へと成長していた。

昔はロマンチストなリベリオをからかっていた人々も、凛々しい姿と詩的な甘い言葉に惚れ惚れしてしまうほどだ。

そんなリベリオのいる町に、アリエッタは一人で帰ってきた。

おしとやかだが、はにかんだ笑顔や誰にでも挨拶をする姿から明るく親しみやすい印象を受けたアリエッタからは想像もつかないような暗い表情で、何かから身を守るかのように頭に暗い色の頭巾をかぶってうつむきながら歩いているとこをリベリオが声をかけたことでアリエッタが帰ってきたことが町に噂された。

リベリオは後ろ姿でアリエッタだと確信していたが、雰囲気が違うことに少し不安になった。

そして案の定、アリエッタは姿だけではなく、心までもが闇に支配されてしまっていた。

『やだー、からかわないで』

そういって照れ臭そうに笑うアリエッタの顔が見たくていつものように声をかけた。

しかし彼女は振り向かなかった。

「アリエッタ…?」

不安になって名前を呼んで彼女の肩に触れた瞬間。

彼女は物凄い勢いで悲鳴を上げるとともに、自分の肩に触れた手を振り払った。

まるで刃物に刺されたかのようなすごい形相で振り返った先にいたリベリオを見た。

「僕だよ。驚かせてしまってごめん。…覚えてる?」

驚きはしたものの久しぶりにアリエッタに会えた喜びで彼女の言葉を待たず話しかけるリベリオ。

しかし彼女はなんだかキョロキョロしはじめ、震えだし、小さな声で何かをいう。

言葉を聞き取りたくて近づこうと歩み出すと彼女は体を引いて後退り

「やめて!やめてっていってるでしょ…みんなが見てるわ。みんなが言ってるわ。気味の悪い愛想の悪い女が生意気にも爽やかな好青年に話しかけられているのに笑顔一つ見せないで…あんなのがなぜ生きているの?早く死んでしまえばいいのにって。みんなが囁いてるわ、あなたが近づかなければ、こんなこと言われずに済んだのに!」

そう言って彼女は頭巾を深々とかぶり直して町の外れの方に走っていってしまった。

リベリオには訳がわからなかった。

彼女が言うように周りを見渡し、耳をすませてみたが、彼女が言うような酷いことを口にしている人は見当たらなかった。


彼女は被害妄想という後遺症に悩まされている。

それも酷い環境にいたせいで洗脳のように彼女の頭を離れずに彼女の心を蝕んでいるため、本人に「被害妄想」である自覚がない状態だ。

彼女を救うには何ができるだろうか?

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