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コロナ対策としてのGIGAスクール構想、危機感を持って弾力的な予算の運用を!

コロナ対策補正予算の文部科学省分で「GIGAスクール構想を推進せよ」という文部科学省の解説動画が公開されている。
学校がなかなかICT活用教育に乗り出さないことへのいら立ちすら感じさせる内容。

コロナ補正予算でのGIGAスクール構想説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=xm8SRsWr-u4%3Ft%3D6607
コロナ補正予算でのGIGAスクール構想説明 配布資料は
https://www.mext.go.jp/content/20200509-mxt_jogai01-000003278_602.pdf

しかし、コロナ補正で組まれたGIGAスクール構想補正予算2292億円の内訳を見ていくと、「なぜ学校が、地方自治体が、導入に二の足を踏んでいるのか、本当に理解しているのだろうか?」
と思えてしまう。

■学校・地方自治体が踏み出さない理由

「今は前代未聞の非常時・緊急時だが学校に危機感が無い」
「一律にやる必要はない」
「既存のルールにとらわれず臨機応変」
「現場の取り組みをつぶさないように」
「端末補助金は今回が最後」

動画では、GIGAスクール構想に手を挙げる自治体が少ないことを「危機感がない」「現場が消極的」と指摘している。
しかし、現場の先生方の声を聴くと、実際には以下のような点が「二の足を踏む」要因だと思われる。
・肝心のネットワーク整備費、人材費の予算が小さい上、公立校・私立校では補助率が1/2であること。
・通信環境の整わない家庭向けに補正予算で組まれたルーターは、機器代のみで通信費が含まれてないこと。
・消極的な教員や保護者の中には、デジタルデバイスが子どもたちの心身の健康や発達への悪影響に懸念を抱いている方も多いこと。

■過剰で無茶な端末900万台配備予算 1951億円+1022億円

2292億円の予算のうち85%が端末購入費で、国公立校は4万5千円までなら全額補助となっている。
令和2年3月に決定した令和元年度の補正予算でも、GIGAスクール用の端末購入費は1022億円全額補助で組まれている。
2つの補正予算で、全国国公立の全小学生・中学生に1台ずつ端末を配布することになっている。
GIGAスクールの自治体からの助成金申請締め切りは5月15日とのこと。「需要見込みを集約し、安定供給のため企業に共同発注する」と動画では訴えている。
すべての自治体が予算通り発注すると約900万台の端末になる。
2019年度の日本のパソコン総出荷台数約1570万台、タブレット740万台。
平時なら「特需」と端末提供企業は喜ぶかもしれないが、部品の供給に不安があり、企業でもリモートワーク推進のためパソコン等の需要が高まっているこの時期に、過剰で無茶な予算ではなかろうか。
下手をすると、今のマスク、アルコール消毒以上のひっ迫状況を生み、産業に大ダメージを与える危険性すらある。
動画では、「すでに端末を所有している家庭はそれを利用」とも言っている。7割の家庭が何らかの端末を所持しているのだから、現在学校にある端末と令和元年度補正予算で配置する端末があれば、ほとんどの学校で100%の家庭に端末を準備できるだろう。
学校・地方自治体がそのように考えれば、コロナ補正の端末配備費は大幅に予算が余ることになる。
しかし、100%助成なので申請は多いもしれない。
それは、今、必要性があるからではなく「100%助成だから、今、取っておかないと損」だからに過ぎない。

■全国一斉学校全体のネットワーク環境整備は学校も、自治体も、業者も負担が大きい

学校全体のネットワーク環境整備は小規模校では500万円程度、大規模校になると5000万円以上の大工事になる。これを全国3万校で行うことになる。
令和元年度補正では1296億円、コロナ補正では77億円組まれているが、いずれも1/2助成なので、地方自治体は同額負担しなければならない。
元年度補正にどのくらいの自治体から申請があっているか資料がないのでわからないが、冒頭の危機感からすると、予算がかなり余る程度の消化率ではないかと推測する。
本来、地方交付税を地方負担分に充てる予定だったようだが、コロナの影響で、地方財政はそれどころではないのではと推測する。

元年度補正でのネットワーク整備について全国教育長協議会から3月に緊急要望が出されている。
「予算申請に対して交付決定額が大幅削られてしまう」という訴えだ。

「GIGAスクール構想」の実現に係る緊急要望
http://www.kyoi-ren.gr.jp/_userdata/pdf/youbou/020318_GIGAkinkyuuyoubou.pdf

動画の中では「見積1874万が文科省からのアドバイスで699万に減った。内容を見直せば安くなる」と説明している。
緊急要望にある「交付決定額の減額」が「内容の見直し」のことであれば、地方自治体も業者も大変困る。業者は、その額でないとやれないと言っているのだから。
さらに、全国の学校で一斉にネットワーク工事が起きれば、部材も工賃も高騰する。当然、予算は膨らみ工期も長くなる。誰が負担するのか?

全校ネットワーク環境ではなく、コロナ対策で緊急に必要な回線工事に限定すれば、資材、作業費が小規模になり現実的なものになるだろう。

「緊急対策」なら、
・工事の内容を学校-自宅のオンラインに絞ることも可とする
・全額補助にする

といった弾力的な予算の運用ができるようにしないと、校内ネットワークの整備だけで何年もかかってしまう。

■遠隔学習環境整備 6億円 1/2助成

 公立 1/2補助
 この助成率では後回しになってしまう。

■サポーター人的補助 105億円 1/2助成

動画の解説では

・ICT支援員 これまで地方財政措置で4校に1人配置ずみ
・GIGAスクールサポーターを助成率1/2で4校に1人
これであわせて4校に2人配置になる
 標準補助額 4校に2人×230万円(年額)×半年×1/2補助
 標準補助額を超える場合も対応が可能
  ・予算総額に余剰があれば、余剰額を均等配分
  ・予算総額に余剰がない場合は、標準補助額を至急

小中学校4校だと教職員は100人以上、生徒1200人以上。
この規模で担当2人だと立ち上げは困難。教職員に大きく負担を掛けないと立ち上がらないと思われる。
 「GIGAスクールを立ち上げるのが目的なので標準額の範囲で弾力的に運用してよい。」とのことだが、1/2助成の上、予算枠が小さいので、弾力的に運用のしようがないだろう。
 約3000億円と過剰に配置されている端末予算を流用できれば、弾力的に運用できると思われる。

■地方財政の負担分には「コロナ対策地方創生臨時交付金1兆円を」というが…

 「この交付金は、文科省1/2補助の地方自治体負担分、ルーターの通信費などに幅広く活用できる」と説明されている。しかし、すでにあらゆる地方自治体が、休業補償給付金等の財源にと奪い合いの状態になっている。
1兆円はすぐに枯渇する。配布された自治体でも教育に回すケースは少ないだろう。
 さらに、今回のコロナ対策で、どの自治体も医療や企業の休業補償、倒産防止、景気対策に自治体予算を使い尽くしている。
 助成率1/2では、手を挙げる余力はないと思われる。

■前代未聞の非常時・緊急時なのに予算運用に危機感が無い

「従来のルールにとらわれることなく」ということであれば、
1951億円と過剰に配布してある端末予算を削り、ネットワーク整備、人材費、ルーター通信費の大幅増額、補助率100%にすれば、「やらなきゃ損」と地方自治体は一斉に取り組むだろう。
せっかく配備された予算が、端末配置に偏った現在の配置では、使われないまま終わってしまう。
非常時・緊急時・危機感があるのならば、現場のニーズにマッチした弾力的な予算の運用をすべき。

■子どもたちの心身の健康や発達に悪影響などのリスクに対策を

ICT導入に抵抗する教員や保護者は、ただ嫌だからというわけではない。
多くの教員・保護者は、デジタルデバイスの長時間利用が子どもの視力や体力など心身への弊害があることを少なからず実感しており、その懸念からブレーキをかけている。さらに子どもの発達への弊害や学習効果に対しても懸念がある。
そこを「非常時だから」「それしか方法がないから」で、押し切ってはいけない。
緊急対策ではなく、今後必須のものとして、ICTの利用教育が必要なのであれば、これらの懸念に正面から向き合って、調査・研究・対策を講じるべき。
「それしか方法がないから」という現在は、そのような問題を明らかにする実験期間でもある。心身の健康や発達という、最も基本的な子どもたちの利益を守る姿勢が必要だ。そのための予算配分が必要である。

■最後に

この予算を有効に生かすキーワードはシンプルだ。
「自治体の実態に合わせた弾力的な予算の運用を認める」
「助成率は100%に」

この2つを妨げているのはほかならぬ「行政のルール」だ。
「前代未聞の緊急事態。既存のルールにとらわれず臨機応変に。」を学校や地方自治体に求めるのであれば、最初にそれを実践すべきは文科省ではなかろうか?

動画を最後まで見て、こう思った。
「えっ、この非常時にさえ、需要の実情を見ず、バランスの悪い予算配分を固持するの?なぜ?」

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