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小話② キャリアコンサルティングと文化人類学(1)

キャリアコンサルタントが学ぶべき理論のうち、カウンセリング理論は心理学の領域ですが、学際的な関心を持つことも大切と考えられます。

コーヒーカップモデルでおなじみの國分康孝先生は、「カウンセリングを支える主たる学問は、心理学、社会学、文化人類学である」としています。

心理学、社会学まではいいとして、「文化人類学??」と最初はぴんときませんでしたが、異文化圏の方を対象にしたカウンセリングについての説明があり、「なるほど」と理解しました。
偏見など持つことなく、文化の違いを認識したうえでカウンセリングすることが大切、ということですね。
アメリカでは、カウンセリングが発展していった社会的背景に大規模な移民の流入というのもありました。一方で、旧来のキャリア理論は、ホワイトカラーの白人男性を想定して構築されているという批判もあります。これら背景をきちんと理解しておくためにも、必須の観点と思われます。


話変わって先日、今度は文化人類学者の小田教授の「全体的個人」という考え方を知り、改めて文化人類学とキャリアコンサルティングについて、考えてしまいました。

この「全体的個人」とは、役割によって分割されることのない個人。
「その人のすべて」という意味合いでつくられた造語だそうです。

社会や組織というシステムの中で、部分的な役割をこなし、代替可能な存在として生きていると、自尊心がすり減り続けてしまう。
内的な複雑さと、自分の中の要素をすべて統合した「全体性」を大切にしよう。
これによって、代替不可能な存在として、より人間らしい自然な生き方ができるようになる。

「システムの中の代替可能な存在」とは、いわゆる「歯車」のことでしょう。

私がきちんと理解できているかという問題はありますが、ざっくりと言ってしまうと、こういった考え方のようです。

一人ひとりは異なるという前提で、その「人」に焦点をあてるキャリアコンサルタントにとって、さらに「環境との相互作用」という視点からも、非常に重要な概念だと思いました。

スーパーのライフ・キャリア・レインボーは、人はそれぞれ複数の役割を担っていること、そしてそれらは時間の経過とともに変化していくことを表していましたが、個々の役割を認識するだけでは、バラバラの状態です。

適正検査や特性の分析なども、自己理解には大切ですが、どうしてもその人の部分を取り出して確認していく作業になります。

役割といった側面や、能力・価値観といった特徴的な部分を個別に取り出すだけではなく、それらを「自分自身」に統合していく。交換可能な存在ではない、自律した「全体的個人」の統合を支援する。

これを丁寧な対話で作り上げていくことが、キャリアコンサルタントの一つの役割といえると思います。たとえばサビカスのキャリア構築理論はそれを目指しているのではないでしょうか。渡辺(2018)はサビカスのライフテーマについて「まさに自己の一貫性を維持させる原動力である」としています。

システム(環境)から完全に独立することはできませんので、環境との相互作用は維持しつつ、依存や浸食をされない「自律」した関係を作るということも、必要な観点かと思います。

対話によって「統合」あるいは「一貫性」をもたらすことが、自律的なキャリア形成につながるのではないか。抽象的ではありますが、大きなヒントを得たように思います。


参考文献

國分康孝(1991)「カウンセラーのための6章」誠信書房
渡辺三枝子(2018)「新版キャリアの心理学」ナカニシヤ出版

「全体的個人」については、以下の記事を参照しています。



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