見出し画像

『ファン』(2019)

はじめに

ゆうめい発表会の第二弾『ファン』。
第一弾の『三伏』でできなかったことを今度は劇場から外に飛び出してやってみようと中延のインストールの途中だビルという6階建てのビルの屋上を会場に使って、そのロケーションを活かした“未成年の主張”のエピソードを軸に作っていきました。

ここ数年で同級生の友人たちがどんどんと結婚していき、ありがたいことに結婚式に呼んでもらう機会も増えました。結婚していく友人から幸せな気持ちをもらうと同時に、自分の今現在の生活のことを考えるようになりました。このままではまずい。焦るけどどうすればいいのかわからない。そんな時のどうしようもない気持ちのぶつけ先が上京して一番長い時間を一緒に過ごしていた菅さんでした。

『ファン』では菅さん本人に出演してもらい、僕と菅さんの関係を発表してみました。共通の友人以外に話したことのない閉鎖的な二人の関係性が果たして見る人に伝わるのだろうかという不安。そして恥ずかしさ。この関係性を題材にして菅さんにどう思われてるのかなとドキドキしながら本番を迎えます。

8月の炎天下の中の野外公演だったので、日よけのシートを張ったり保冷剤やうちわを配ったりと少しでも快適に観劇ができるようなグッズを配布してお客さんへアプローチしました。開場時間から作り手と観客の境をなくすことにもつながるかなと考えました。
詳しくはこちら(『ファン』公演詳細
これはSexyZoneのコンサートの他に、江本純子さんの行動作品『渇望』に参加した際に経験したことを実践してみようとした試みでした。
(江本純子の行動作品『渇望』)

小松ちゃん、菅さん、関さんとみんなで作り手として空間を作り、どうにか体調不良者が出ることなく初めての野外公演ができました。台本上の都合で菅さんをダメに描いてる部分がありますのでご了承ください。購入して読んでくださった方、どこかで感想をいただけたら嬉しいです。

※『ファン』を上演した際には登場人物を実名で出していました。お客さんも少人数だったので「ここだけの話」として実名のまま上演していました。許可取りは中途半端のままでした。ごめんなさい。今回は登場人物の名前を一部変更して発表しています。

田中祐希

『ファン』上演台本&写真

画像1

作・田中祐希

田中………………………………………田中祐希
菅・高田中………………………………菅俊貴
花苗・辻…………………………………関彩葉
横山・竹下・山村・伊井和・池田・警官・運転手…………小松大二郎

***第0場

2019年8月。中延、インストールの途中だビル屋上。
開場中は役者4人で受付や場内案内やドリンク販売をしている。うちわや保冷剤などの暑さ対策グッズ、雨対策のグッズをその日の天気や気温に応じて配る。必要なお客さんがいたら配る感じで強制ではない。

画像2

小松  こんにちは。本日はゆうめい発表会にお越しいただきましてありがとうございます。えーこの発表会はですね普段周りの友達には言いにくいようなことを、あえて発表してみようという秘密の会でございます。まあ、僕はやりたくないんですけどね。この書いてるのは田中っていうやつで、この話の主人公は田中なんですけど、知るかって話ですよね。そんなかっこよくもない、なんで演劇してんのかなってやつの話をしてきますんで、僕はなんか、イライラしてます。で、秘密の会と言いつつ、こんなオープンなところでやるのもどうかなとは僕は思うんですけど。まぁでも普段思ってるけど言えてないことって高い所とか景色のいい所から大声で叫ぶとすっきりするそうです。皆さんも公演終了後に良かったら日頃言えないこととか叫んでみてはどうでしょうか。(的なことを言う)(田中へ)お前何突っ立ってんだよ、お前が前説しろよお前がやりたいつったんだから。

なんかキレてる小松。
前説を田中にパス。

田中  はい。主役の田中です。あれは脇役の小松です。暑いので熱中症対策として保冷材や帽子やうちわ、雨対策にレインコートを準備してみました。数に限りはありますがどうぞお気軽にご利用ください。公演中もし具合が悪くなりそうでしたら、僕らが演技中でもお気軽に「おーい」と僕らやスタッフに申し出てください。この暑さですので、本当に無理せず屋根のある涼しい場所にすぐにご移動していただいて構いません。早め早めの行動が大事だと思うので。(その日の天気に合わせた注意事項を説明する)。上演時間は60分を予定しています。では始めに、メンバーの紹介をします。

田中が小松を紹介する。小松が反論。
田中が関を紹介する。関が反論。
田中が菅を紹介する。菅だけ長い。

田中  菅さんとは大学の演劇サークルで出会いました。菅さんの方が学年は上だったんですけど同い年で、共通のゲームとか音楽が好きだったり、お互いそれまで女の子と一度も付き合ったことがなかったこともあってすぐに仲良くなりました。二人で人生ゲームをしながら結婚するマス離婚するマスに止まっては一喜一憂したり、東京の街をぶらぶら散歩して住宅地を一軒一軒見て周っては建物探訪の渡辺篤史ばりに感想を言い合ったりしてました。菅さんのことで今でも印象に残ってることは、出会って間もないころ一緒に散歩してたら紫陽花が咲いてて、それを見た菅さんが「紫陽花って気持ちわりぃな。なんか人間の脳みたいじゃない?」って言って。自分はそれまで花を気持ち悪いって思う感覚になったことがなくて、花に対して気持ち悪いと言っていいんだということに初めて気づいたというか衝撃を受けたんですね。なんとなく菅さんの感性に惹かれた瞬間でした。あと、菅さんが当時一番好きな映画が『ゾンビディレクターズカット』っていうB級のゾンビ映画で、「これ観よう」って僕にレンタルさせて。自分は全然何が面白いのかわかんなかったんですけど、隣で菅さんが、飛び立とうとするヘリコプターに迫るゾンビたちが回転するプロペラでバラバラになるシーンで爆笑してて。僕はそれまで「映画はすごいプロの人が作った物なんだから完成されたものだ。面白さがわからない時は理解できない自分に問題があるんだ」くらいに思ってたんですが、隣で「バカだな~」と爆笑する菅さんを見てたら「なんかどう楽しんでもいいんだな」と思いこれまた衝撃を受けて。それからはよく二人で美術館に行っては、よくわかんないインスタレーションとか彫刻作品に対して二人でそのくだらなさを笑って楽しんでました。

小松  菅だけ長
田中  それで私です。センターです。改めまして、こんにちは。田中祐希と申します。祐希の祐はしめす編に右、希は希望の希と書きます。普段はアルバイトをしながら、こういうアトリエスペースや劇場で演劇をする役者をしています。恥ずかしながら売れているとはまだまだ全然言えないんですが、ちょっとあの、とても恐縮なんですけど、あの、めちゃくちゃ売れたいです。夢は売れることです。でもオーディションも落ちまくって、全然上に昇れないので、せめて高いところで演劇をしようと思ったんで、屋上にきました。売れなかったら飛び降ります。嘘です。ごめんなさい。迷惑をかけずに有名になります。

田中は大きな封筒から恥ずかしそうに「俺を見て」のうちわを取り出す。写真や文字が貼られてあるうちわを使いながら語っていく。田中が楽しんでいる写真、アイドルの写真、田中の憧れだった物の写真等が貼られている。

田中  すごい私事なんですが、最近初めてSexy Zoneのコンサートに行ってきまして。でそのコンサートが本当に素晴らしかったので、まずそのことについて語らせてください。あの、まずこれが僕の家に速達で届いたんですね。福岡に住んでる看護師の友達から「Sexy Zoneの横浜アリーナのチケットが2枚当たったけど仕事で行けないから良かったら代わりに行って欲しい」と頼まれて。アイドルのコンサートなんて行ったことがなかったんで、いい機会だからと思って「行きたい」ってラインで返したら2日後にはこれが届きました。裏はこうなってます。(うちわを裏返すと大きく「菊池」と書かれている)Sexy Zoneに菊池風磨君というメンバーがいまして。ジャニーズは推しのことを「担当」って言うんですけど、僕は風磨くん担当、風磨坦ってことになります。チケットは2枚当たっていたので本当は菅さんと行きたかったんですが

   え、絶対やだよ
田中  何でですか?
   ジャニーズは態度がでけーんだよ。あいつらは本当にやばい
田中  と、断られました。菅さんは普段は撮影所でスタジオマンのアルバイトとして激務に追われているので、スタッフへの態度がちょっとでも悪いタレントやアイドルは嫌悪の対称になるみたいです。結局、周りの友人も誰一人誘えず、一人でコンサートに行くことになってめちゃくちゃ不安だったんですけど、結果最高に楽しめました。うちわ効果で、2回もファンサをもらいました。ファンサってのはファンサービスの略で、アイドルから手を振ってもらったり投げキッスしてもらったりすることです。1万7千人いる中で自分が2回もファンサをもらえたんですよ。しかも勘違いとかではなく、うちわを見て、僕の顔を確認して、パッ☆って。席もめちゃめちゃ近い席で、目の前で風磨君からファンサが来ると思った瞬間「このまま受け止めたら死んでしまう!!」と思って記憶がその場でボン!っと飛びました。…ごめんなさい、自分もちょっと前までジャニオタに対して偏見とか持ってたんですが今ではセクゾの話だけで60分行けちゃいそうなのでSexy Zoneの話はちょっと自粛します。

田中  結局、Sexy Zoneの公演を観て何が一番良かったのかと言うと、自分が「キラキラしたものが好きだ」ということを思い出せたことなんですね。小さい頃は夜寝る前に目をつむって、自分がヒーローになって色んな敵と戦ってました。小学校の時、家に帰ってきてお座敷の隅で一人で人形遊びをして。自分をドラゴンボールの孫悟空に見立てて、クッパとかミューツーとか持ってる敵キャラの人形と戦わせて。ビシッ!ビシビシ!ブシュー、キュウゥゥン、バーン!って。今思うと大乱闘スマッシュブラザーズの先駆けみたいなことをしてたんですよ。一番初めになりたかったものはヒーローだったし、その次は野球選手に憧れて、その次はお笑い芸人に憧れて。そして、段々と憧れているものになれない経験が増えていくうちに、いつの間にかアンダーグラウンドの物に惹かれるようになって今は演劇をしています。Sexy Zoneが1万7千人のお客さんたちを魅了する姿を見て、自分が本来、所謂王道のキラキラしたものに憧れていたんだってことを思い出したんですね。自分ももっとキラキラしたい。正直Sexy Zoneくらい売れたいです。売れます!今日はそんな僕の人生についての話をします。


***第1場

学ランを着た菅が高田中を演じる。

ここから先は

14,842字 / 4画像

¥ 400

サポートしていただいたお金は、今後の公演および活動のために役立てさせていただきます。 ♡スキ♡はnote会員でなくても押すことができます。 あなたのスキが励みになります。もしよろしかったらお願いします!