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「〇〇認知症」と「高次脳機能障害」。診断の違いは何?同じ症状でもここが違う!

「認知症」と「高次脳機能障害」。
どちらも認知機能障害でしょ?と思う方も多いですし、まさにその通りです!

しかし「アルツハイマー型認知症」などといった認知症と診断される方。
単に「高次脳機能障害」と診断される方。何が違うのでしょうか?

今回はこの2つの違いについてお話しします。

認知機能障害って何?

まず、両者の定義をみていきましょう。

認知症(ICD-10より)
通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群。

高次脳機能障害(厚生労働省より)
一般に、外傷性脳損傷、脳血管障害等により脳に損傷を受け、その後遺症として生じた記憶障害、注意障害、社会的行動障害などの認知障害等を指すもの。

認知症の定義にも「高次脳機能障害」とあるように、どちらも同じような症状を呈することがわかると思います。
そして高次脳機能障害の定義には「認知障害」とあるように、どちらの症状も認知機能障害ということになります。

認知機能障害とは「記憶」「注意」「思考」「言語」などの機能が障害された状態なのです。

では、どうして定義が分かれていているのでしょうか?
定義を確認しながら、その違いをみていきましょう!

違い1 「原因」

認知症の原因は「アルツハイマー病」「レビー小体病」などさまざまです。
これらは脳に異常タンパク質がたまることにより、脳が萎縮してしまう病気です。

一方で高次脳機能障害の原因は、定義をみると「外傷性脳損傷」「脳血管障害」となっています。これらは「頭部外傷」や「脳梗塞・脳出血」のことです。
強く頭を打って脳が損傷したり、脳の血管が詰まって脳の一部が死んでしまったりするものです。

違い2 「進行するかどうか」

認知症の定義に「慢性あるいは進行性」という言葉があります。
一方で、高次脳機能障害にはそのような記載はありません。

認知症では脳の萎縮が進行するにつれて、記憶障害や注意障害などが徐々に悪化していくのが特徴になります。
しかし高次脳機能障害では、脳梗塞などにより脳が損傷を受けただけなので、それ以上悪化することはほぼありません

違い3 「回復するかどうか」

先にお話したように、認知症は進行性の病気なので回復することはありません。
現在の医療では治すことはできない病気です。

周囲の適切な対応によっては、BPSD(暴言や妄想など)が少なくなり、一見すると改善したように見えることもあります。しかし、記憶障害などの機能障害が改善したわけではありません。

高次脳機能障害は、自身の回復力やリハビリによって改善が期待できます。
後遺症として言葉の障害が残ったとしても、さまざまな手段を用いて代償することも可能です。

違い4 「いつ発症したのか」

認知症は徐々に進行していく脳の病気です。そのため「症状が出現したのはいつなのか」がはっきりわからない場合が多いのです。
ご家族からは「大体このくらいだけど、いつの間にか物忘れが起きていた」と言われることも少なくありません。

高次脳機能障害は、脳血管障害によって生じる急性発症に伴う後遺症のため「いつ症状が出現したか」が明確にわかります。突然言葉が話せなくなった、体の半分が麻痺して動かなくなったなどの症状が突然現れます。
注意したいのは「高次脳機能障害のみが突然出現する場合」と「麻痺などの身体症状が先に出現する場合」があるということです。

違い5 「症状の内容」

認知症の定義に「症候群」と記載されているのに気がつきましたか?
症候群というのは、複数の症状が同時に出現している状態をいいます。
つまり、認知症では記憶・思考・見当識などの複数の症状が必ず同時に起きていることが特徴になります。

一方で高次脳機能障害では、症候群である必要はありません。「記憶障害だけ」「言語障害だけ」などの単体であっても高次脳機能障害といいます。
もちろん、脳梗塞などが原因となるのであれば、複数の症状を持っていても高次脳機能障害となります。

これは「脳全体が萎縮する」認知症と「脳の一部だけ損傷を受けた」高次脳機能障害の大きな違いになります。

まとめ

最後に「認知症」「高次脳機能障害」の違いをまとめてみます。

認知症
・原因:アルツハイマー病などの脳の病気
・進行:進行する
・回復:回復しない
・発症時期:はっきりとわからないことが多い
・症状:必ず複数の症状が同時に出現する

高次脳機能障害
・原因:外傷性脳損傷や脳血管障害
・進行:基本的に進行しない
・回復:回復力やリハビリにより回復が期待できる
・発症時期:明確にわかる
・症状:単体でも複数でもよい


今回は認知症と高次脳機能障害の違いについてお話しました。
定義は決まっているものの、
どちらも合併している方もいますし、はっきりと分けられないこともあります。

ですが、きちんと診断することで患者さまにあった薬を処方したり、適切なリハビリテーションを提供できたり、無駄な検査をしなくてよかったりするのです。

特に、私たち言語聴覚士が行う認知機能検査は、時間がかかるものもたくさんあります。しっかり診断することで、患者さまの負担を軽減する必要があります。

自分やご家族が認知症なのか不安な方は、認知症の専門医に相談してみてくださいね。


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