認知症の重症度を評価する半構造化面接検査「CDR」

認知症の患者さまには「神経心理学的検査(認知機能検査)」という記憶や言語・注意機能といった認知機能を評価する検査を行います。

どの機能障害が起きているのか知るのは重要なことですが、
それによって「日常生活にどのような支障が生じているのか」を評価しなければ
認知症の方(ご家族へも含め)への支援にはつながりません。

今回は認知症診療では必須である「CDR」についてお話します。

CDRは何を診る検査?

Clinical Dementia Rating(CDR)。日本語で「臨床的認知症尺度」といいます。これは、MMSEなどの神経心理学的検査とは異なる検査。

MMSEやHDS-Rなどは「認知機能障害」を評価する検査である一方、
CDRは「日常生活機能障害」「認知症の重症度」を評価する検査です。

実際に日常生活で起きている問題について、信頼できる情報提供者からお話を聞きます。

タイトルにもあるように、CDRは「半構造化面接」です。
情報提供者にお聞きする質問はある程度決まっていますが、それとは別に
評価者の判断で質問を追加することができます。

別の記事でお話したように、認知症には種類があり種類によって症状などが大きく異なります。そのため、認知症の種類に合わせた質問を選択する必要があります。
また、情報提供者のお話からどのような症状が疑われるのかを考え、認知機能検査の裏付けとなるような情報を聞き出してきます。

他の認知症についてはこちらの記事もご覧ください。

CDRで評価する項目

CDRは「信頼できる情報提供者から聴取する項目」と「患者さま本人に行う項目」の2つに分かれています。

信頼できる情報提供者とは、配偶者やお子様などのご家族がほとんどです。基本的には同居してるご家族であるほど、結果の正確性は高まります。
そのため一人暮らしや施設に入所している方では、信頼性が乏しくなるという欠点があります。

情報提供者には、現在の日常生活の状況(何ができて何ができなくなったのか)を詳しくお聞きし、患者さまには記憶や見当識といった「遂行検査」を行います。

では、CDRでの評価項目をみていきましょう。評価するのは次の「6項目」です。
  1.記憶
  2.見当識
  3.判断力と問題解決
  4.地域生活
  5.家庭生活と趣味
  6.介護状況

「数週間前の出来事をすっかり忘れてしまいますか?」
「何月何日かを把握できていますか?」
「緊急事態に対処できますか?」
「家庭外の活動を行なっていますか?」
「家事・趣味などできなくなったことは何ですか?」
「自分で服を着ることはできますか?」

これは質問内容のごく一部に過ぎませんが,このような質問から詳細な日常生活の状況を聴取していきます。

しかし情報提供者の方はどのように答えてよいか困る方も多くいらっしゃいます。
私たち評価者は「このようなことはありませんか?」などある程度症状を予測したり、疑ってみたりしながら情報収集をする必要があるのです。

CDRの採点方法

先ほどの6項目について、まずはそれぞれの項目を次の5段階で評価します。
(しかし「介護状況」については 0.5 の項目はないため4段階で評価します。)

・0:正常
・0.5:認知症疑い
・1:軽度認知症
・2:中等度認知症
・3:重度認知症

ここでは割愛しますが、採点用紙には細かい判断基準のようなものが書かれており、それと聴取内容を比較して点数をつけていきます。

しかし患者さまによって聴取内容は異なることも多いので、点数をつけるのも一苦労です。そのため「迷ったときは重い方にする」というルールがあります。
たとえば、記憶項目で「0.5」か「1」かを迷ったときは「1」に点数をつけようということです。

項目ごとの点数がつけられたら、それらの点数を包括的CDRの得点に変換します。これによりすべての項目を総合して、患者さまの現在の重症度を確認できます。
(これは点数の出し方が難しいのですが、ワシントン大学のCDRサイトにて簡単に包括的CDRを算出することができます。)

さらに6項目の点数は合計をすることができ、CDR Sum Of Box という点数を出すことができます。たとえば、包括的CDRが同じ0.5の患者さまでも、合計値によって重症度の解釈は変わってきます。
どの項目がどれくらい重症なのかを把握できるため、包括的CDRよりもこちらを重要視する傾向があるようです。

採点する際の注意事項

点数をつける際に注意する点をお話します。

① 認知機能障害のみで点数をつけること
 これは「身体症状により重症度を上げてはいけない」ということ。
 たとえば認知機能に大きな低下がなかったとしても、
 何か別の病気や認知症の症状で体がうまく動かない人、
 膝が痛くて歩きづらい人などは、買い物や家事などの日常生活に支障が出ます。
 「身体の動きに問題がなかったらどうなのか?」を考えて点数をつけます。

② 各項目を独立して点数をつけること
 
たとえば、見当識項目などは記憶機能の低下によっても成績が低下します。
 しかし、なるべく見当識項目のみで点数をつけることが大切になります。

CDRは認定を受けることができる

CDRはきちんと教育を受けた専門職(医師や言語聴覚士・公認心理士など)が行うことができる検査です。

ですが、CDRは「認定」を受けることができる検査というのを知っていますか?

ワシントン大学の専用サイトからCDRの認定試験を受けることができます。
実際に医師が行っているCDR場面の動画をみて、点数をつけていくだけ。
受験者は正解を確認することはできませんが、合格すると認定証をもらえます。

ありがたいことに、私は認知症の研究にも少し携わっているので
研究で評価者をするためにこの認定試験を受け、合格しました。

CDRの評価をされる専門職の方は、一度挑戦するのも良いと思います!

ご家族も治療者の一員

認知症以外でも、大切な人が病気になったとき、治療をするのは医療者だけだと思っていませんか?

病気になってしまった人の「ご家族」も治療者の一員なのです。

特に「CDR」はご家族の方からの情報がなければ結果を出すことができません。ご家族の方がいなければ、私たち医療者は患者さまの状況を確認できず、適切な支援を導き出すことができません。

認知症では、専門知識のある医療者と患者さまの変化に気が付くご家族が協力して大切な人への治療・支援にあたります。

そのためには、検査結果や細かな障害の内容・重症度,患者さまの状況などを治療者全員で共有する必要があります。
そのような体制がきちんとできているかは疑問ですが、時間が許す限り、医療者からの意見や知識をご提供したいと思っています。

ここでは認知症のみに触れますが、ガンや難病の方、たとえ少しの怪我だったとしてもご家族が治療者の一員という事実に変わりはありません。


今回は「CDR」についてお話しました。
患者さま・ご家族の支援をするためには、神経心理学的検査だけでは不十分です。もちろん医師の診察だけでも足りませんし、バイオマーカー(髄液などの病理所見)の情報だけでも不十分です。

CDRも含めた、これらすべての情報を集めることで、患者さまに最適な治療方法や支援方法を見つけることができます!

不安なことや疑問に思っていることがあれば、何でも医療者に相談してみてくださいね。



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