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NFTアートの作成・販売の法的リスク

1. はじめに

最近のNFTアート界隈では、swmr氏(Twitter:@sawamuradacun)によるNFTアートのリスクを指摘するnoteや一連のツイートを投稿されており、大きな反響を呼んでいます。

*同氏の「NFTアートには手を出すな!」というnoteはこちらです。
https://note.com/sawamuradacun/n/n5e4d0f5f8783#2JCHg


NFTアートに関して「リスクがある」というのはそれ自体は間違ったものではありません。

しかしながら、「リスク」を語るとき・耳に入れるとき、それを誇張・過大評価してしまいがちであるというのが人の性でしょう。


そもそも人間が生きて社会活動を行うことそれ自体にありとあらゆる「リスク」がつきまとうものです。


道路を歩いていれば車に衝突されるリスクがあるし、電車にのれば人身事故に巻き込まれて命を失うリスクがある。食べ物だって腐っているかもしれないし変な病原菌が付着しているリスクがある。
異性と親密になれば美人局にあったり強姦の冤罪に仕立て上げられるかもしれない。
マンションを販売する営業は「そんなの聞いていない!」と訴えられたりすることもありうる。


社会のいたるところには常に「リスク」が潜んでおり、我々は「リスク」と隣合わせなのです。

でも
「車に轢かれたら怖いから外に出ない」

「腐っていたら怖いから何も食べない」

こんな馬鹿げたことを言う人はいませんよね?

「赤信号だったら渡らない」

「腐っていそうだったら食べない」

こういう風に、皆さんは知らず知らずのうちにリスクとうまい付き合い方をしているはずです。

*******


「リスク」を語る時には、何をするときにどんな種類・内容のリスクが存在して、そのリスクが顕在化して自分に降りかかってくる可能性はどの程度あるのか、といった「リスク」の正体を正しく認識・理解して正しく付き合っていかなければなりません。


NFTアートも同じです。NFTアートにももちろん「リスク」はあります。

しかし、正しく認識・理解して付き合っていけば全く怖いものではない、というのが私の見解です。

このnoteでは、上記のswmr氏の議論を受けて、法律的な面にフォーカスして、私の見解を述べさせていただきます。

なお、同氏の議論では、「NFTアートを購入するメリット」であるとか「環境破壊」だとか、法的側面以外についても語られておりますが、こちらについては割愛します。


この文章がNFTアーティストの皆様及びNFTアートに参入しようとしている皆様の一助になれば幸いです。


<免責事項>

・本noteは公開時点における日本の法規制・解釈を前提とした私個人の見解であり、所属する組織・団体とは一切関係ありません。

・本noteは私の個人的な見解を表明するものであり、法的な助言ではありません。本noteを読んでNFTアートを作成・販売する等して生じたあらゆる種類の損害につき、一切の責任を負いません。

・法的リスクは、その前提となる事実関係や当時の法解釈・法制度がどのようなものであるかにより大きく異なります。したがって本noteに記載されている法的見解は、事実関係・法解釈・法制度の変動によって異なる結論になる可能性があります。

・本noteは公開時点における私の見解を示すものであり、公開後に追記・修正・訂正等される可能性があります。また、あらゆる法的リスクをカバーすることを保証するものではありません。

・本noteの内容については、正確性を保証するものではありません。また、法律専門家を対象とするnoteではないため、わかりやすさの観点からあえて簡略的に記載している部分もございます。誤りと思われる箇所を見つけた場合には、Twitter上でDMやリプライで教えていただければ幸いです。

・以上の次第ですので、具体的な事例で判断に迷うことがあれば、専門家の方にご相談ください(私にDMいただいても結構です)。

なお、本noteは有料設定されていますが、無料ですべて読むことができる投げ銭noteになっております。


2. NFTアートに内在するリスク~そもそも法的リスクにはどのようなものがあるのか~

いわゆる「法的リスク」としては、以下の4種類のようなものがあります。(なお、以下4つはわかりやすさの観点からの私の造語です。)。

前提部分の議論なのに少し長くなりますが、皆さんに「法的なリスク」について考えてもらう上でとても重要な部分なので、ぜひ読んでいただければと思います。


① 民事リスク

簡単にいえば「カネ」「モノ」に関して争いが生じるリスクです。

「お前の絵を買って騙された!損害賠償だ!金を返せ!」などと言われるリスクですね。


NFTアートの文脈だと、民法や消費者契約法(「騙された/そんなこと知らなかったから金返せ!」等)といった法律のほか、NFTアートを巡る権利関係のトラブルが問題になることがあるかと思います。


既に多くの専門家・有識者の方が言及しているように、NFTそれ自体には法的な所有権が発生するものではありませんし、著作権をはじめとする知的財産権についても難しい議論があり、権利関係を巡ってトラブルになる可能性はありえます。


② 刑事リスク

これはイメージしやすいかと思います。要は犯罪のことですね。
「NFTアートと詐欺罪」「著作物を盗用して製作したNFTアートを販売した場合」について活発に議論されているので、本文章ではこの点にフォーカスしてみようかと思います。


③ 行政関係法上のリスク

上記した民事法・刑事法以外にも、法律の世界にはいわゆる「行政法」という分野があります。行政法を厳密に定義づけるのは難しいのですが、「ビジネスに対して規制をかけていく法律」というイメージでよいかと思います。身近なところだと建築基準法だとか風営法だとかですね。

NFTアートとの関係では、「資金決済法」や「金融商品取引法」が主に問題になり得ます。


④ レピュテーションリスク

「その類のビジネスをすることで自分の評判にどう影響するか」というリスクのことです。これは厳密にいえば「法的」なリスクではありませんが、弁護士は「法的にはクリアかもしれないが、レピュテーションリスク的にやめておこう」という見解を述べることが多々あります。
「法律的にはクリアだが、怪しい人と一緒にNFTアートを販売したり、法的にグレーな売り方をすると、評判が下がる」といったものです。
リスクを考える上では重要な要素であるため挙げましたが、本noteの目的からは若干離れるので、詳細は割愛します。


では、次の項目からNFTアートの作成・販売の抱えるリスクを分析していこうと思います。



3.検討~NFTアートの作成・販売のリスク~

(1) 前提

「NFTアートの作成・販売」と一口にいってもmintの態様から販売方法に至るまで様々な種類があります。
今回のnoteでは、一番ユーザー数が多く、今後参入する人も多いであろう「自分で創り上げた作品をOpenSea / FoundationでNFTアートを売る場合」を想定しています。
それ以外の場面についてはまた後日、別のnoteを書こうかと思います。

また、OpenSeaやFoundationのプラットフォーム利用規約で禁止されている行為があったりしますが、ここでは割愛します。


(2) 民事リスク

民事リスクとしては、
A 「買ったNFTアートの値段が思うように上がらなかった(下がった)のだから、代金として支払ったETHを返せ」

というものと

B 著作権等の権利関係を巡るトラブル

が主に想定されますので、このnoteではこのケースで考えてみることにします。


【事例A】

「買ったNFTアートの値段が思うように上がらなかった(下がった)のだから、代金として支払ったETHを返せ」

このような主張は通るのでしょうか。

結論としては、通らない可能性が高いというのが私見です。

この主張を根拠付ける法律論として、民法上の「錯誤取消し」(民法95条)が考えられます。
簡単にいえば「自分は●●だと思っていたのに実際は××だったから、契約を取消して、お金を返して!」といった主張ですね。

検討してみましょう。

上記ケースでの買主の「買ったNFTアートの思うように上がらなかった(下がった)」というのは、「値段が上がると思った(下がるとは思わなかった)からNFTアートを買った」という、NFTアートの売買の動機です。

そうすると、上記ケースにおける主張は、講学上、錯誤の中でも「動機の錯誤」と呼ばれる類型で、民法95条1項、同条2項の要件を満たす必要があり、動機が当該契約の基礎となっていることが表示されていることが要求されます。

そうすると、残念ながら、OpenSea等でNFTを売買する場合、上記のような動機が買主に表示されていることは考えにくいですし、仮に表示したとしてもそのような動機を売主は容認せず、契約の基礎となることも考えにくいでしょう。

結局、錯誤の主張は認められない可能性が高いというのが私の見解です。

*****

また、NFTアートのリスクを主張する見解では、「NFTアートの売主は価値を維持する義務がある!」という論理が散見されます。
しかしながら、「私が価値を維持します」という合意を交わした場合だとか、「この絵は●ETHになります!」と誇張的な宣伝をしていたような場合は別として、売主が価値を維持する義務が生じることは基本的にありません。

感覚的なお話をするのであれば、フィジカルな絵を売った場合と対比してみましょう。

「買い取った絵に思ったような値段がつかなかった!金返せ!」といった主張がまかり通るでしょうか?

答えはNOですよね。NFTアートでも同じです。

NFTアートに投資的・投機的側面があることから、その「価値の上下」に過敏に反応し、「価値の維持する義務がある」という主張が生まれるのだろう、というのが私見です。

しかしながら、「価値の上下」を過度に気にするのはアートを楽しむ人・創る人を侮辱する行為にほかならないのではないか、とさえ感じてしまいます。

*****

やや話が逸れましたが、結論としては、上記のとおり、
「自分が描いた作品をNFT化し、OpenSea / Foundation等のプラットフォームで売る」という至ってクリーンな活動をしている限り、民事リスクを負う可能性はかなり低いでしょう。

*****

なお、よくある疑問として
「売っているものの内容を説明していないのだから詐欺になるのでは?」
というものがあります。
民法上も「詐欺取消し」という制度があり(民法96条)、要件を満たせば契約を取消して代金の返還請求をすることができます。

民法上の詐欺については、検討すべき事項が刑事上の詐欺罪と類似するので、この点は刑事リスクの詐欺罪の項目で詳細に触れようと思います(結論としては詐欺にならない可能性が高いという見解です。)。

【事例B】

NFTアートを巡る権利関係のトラブルについては、難しい議論が多いのですが、プラットフォーム上で売買する限りはプラットフォームの利用規約により規律される可能性が高いので、利用規約に気をつけていればよいでしょう、というのが私の見解です。

なお、OpenSea とFoundationに関して言えば、利用規約について変な内容になっている、というのは今の所聞いたことはありません。


(3) 刑事リスク
(a) 刑法との関係~NFTアートの販売が詐欺罪になる?~


NFTのリスクを語る文脈で一番目にするのが
「売主は、NFTの性質であるとか、NFTの価値が暴落する可能性についてしっかり説明しなかったということを理由に、詐欺罪に問われる。」
というものです。

この点は誤りである可能性が高いというのが私の見解です。

以下、解説していきます。

~詐欺罪の成立要件~

詐欺罪は、刑法246条1項において「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」と定められています。
つまり、詐欺罪で問われるには、相手方に対する「欺」罔行為をしたことが必要となるのです。

ここで判例上、「欺」罔行為とは、財産の交付の判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいうとされており、積極的に虚偽の事実を告げる場合のみならず、ある事実を告げなかったという不作為についても、一定の場合には「欺」罔行為にあたるとされています。


~では、詐欺罪は成立するのか~

上記ケースでは、積極的に虚偽の事実を伝えたわけではなく、「NFTの性質や価値下落可能性を伝えなかった」という不作為があるにすぎません。
そのため、不作為による「欺」罔行為が認められなければ詐欺罪は成立しえません。

不作為による「欺」罔行為が認められるためには、「伝えなかった事実について、売主が当該事実を伝えるべき立場にあり、当該事実を伝える義務があったこと」が必要です。

具体的には、買主がNFTの性質や価値下落リスクについて勘違いするような原因を売主が作り出してしまった、というような事情が必要となります。

しかしながら、OpenSeaやFoundationでNFTアートを売買する場合にそのような事情があることは想定しにくいでしょう。

そうなると、結局、売主には、上記義務がなく、売主はそもそも「欺」罔行為をしているとはいえない可能性が高いと思われます。

以上の通り、やはり詐欺罪となる可能性は低いでしょう。


(b) 著作権法との関係~盗作NFTアートの販売~

既存の絵画等を勝手にNFTとして販売し、利益を得る行為は、基本的に著作権法に違反するものであり、日本法では刑事罰も課せられています。
NFTはその根幹にあるブロックチェーン技術の性質上、世界中の人々を相手に販売することが多いので、どの国の法律が適用されるのか、という問題はありますが、少なくとも盗作行為については日本法と同様又は類似の対応をしているものが多いと思われます。
著作権法違反について詳細を知りたい方は以下のウェブサイトが参考になります。
https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime8.html


(4) 行政関係法とのリスク
(a) 日本における暗号資産規制法の構造

日本法における暗号資産の主な規制法は資金決済法と金融商品取引法(以下「金商法」)です。
資金決済法上「暗号資産」の定義が置かれており、金商法が資金決済法を参照する形で暗号資産について種々の規制を施しています(金商法2条24項の3号の2)ので、当該NFTが資金決済法上の「暗号資産」に当たるかが一次的な検討ポイントといえるでしょう。


その他、金商法上はSTO(Security Token Offering)を念頭においた「電子記録移転有価証券表示権利等」という規制枠組みを設けていますが、現行のNFTアートがこれにあたることは基本的にないので、本noteでは割愛します。

(b) NFTは「暗号資産」にあたるのか?

NFTが資金決済法上の「暗号資産」にあたると、これを業として販売等するためには極めて手続の負担が重い暗号資産交換業の登録が必要となり、その違反には罰則が定められています)ことになってしまいます。また、金商法上の風説の流布の禁止や相場操縦行為の禁止といった規制に服することになります。

しかしながら、細かい議論は割愛するものの、少なくとも一点もののアートNFTが「暗号資産」に該当すると判断される可能性は現行法・現行解釈上は低いと思われます。
なお、NFTの「暗号資産」該当性に関する詳細な議論はこちらの私のツイートをご参照ください。
https://twitter.com/inagorevival/status/1433464521859878916?s=20


(c) 以上のとおり、NFTが暗号資産に当たる可能性は低い以上、行政関係法とのリスクは低いというのが私の見解です。


(5) 小括

以上、民事・刑事・行政関係法リスクについて述べましたが、「自分でNFTを作成し、OpenSea / Foundation等でまっとうに販売する限り」いずれのリスクも低いであろう、というのが私の見解です。

もちろん、NFTアートを売るときに、「絶対●ETHになるから!」といって信じさせて買わせたりだとか、他人の作品を盗用したりだとかした場合は別論です。

しかし、正当なアーティスト活動の結果生まれた絵をNFTとして売る限り、巷で騒がれているような重大なリスクはない可能性が高いのです。


4. よくある疑問
① NFTアートは「金融商品」なの?

「NFTアートは金融商品である(金融商品的性質を持つ)から●●である」という主張を見かけます。

では、NFTアートは「金融商品」なのでしょうか。

少なくとも金融商品取引法上の「金融商品」には当たらないのではないか、というのが私見です。

「金融商品」については、同法2条24項において定義されており、「有価証券」や「暗号資産」がこれに当たるとされています。

しかしながら、上述のとおりNFTアートが「暗号資産」に当たる可能性は低いです。

また、議論が長くなる上に本筋ではないため詳細は割愛しますが、「有価証券」に当たる可能性も低いです。

そうすると、NFTアートが「金融商品」にあたる可能性は低い、というのが私見です。

したがって、「NFTアートは「金融商品」であるから●●である」という立論は破綻していることになります。


② 「NFTアートは株式に近い性質だから●●である」という主張について

このような主張もよく見かけます。

仮に株式に近い性質だとしたとしても、日本法では株式は会社法所定の手続を経て発行されるものであるため、このような手続を経ずに発行されるNFTアートが株式に当たることはありません。

株式に当たらない以上、株式に課せられる規制に服することもないので、「NFTアートは株式に近い性質だから●●である」という主張は破綻していることになります。


③ 「法整備を待つべき」という主張について

「NFTは法整備が不十分だから整備されるのを待つべきだ」という主張もよく見かけます。
たしかに現状のマーケットをみると、法整備が十分とは言い難い側面は否めないでしょう。
しかし、上述のとおり、NFTアートの作成・販売のリスクは大きくはない可能性が高いことに鑑みると、法整備をあえて待つ必要がどの程度あるのか疑問である、というのが私の見解です。

5.おわりに

ここまでお読みいただきありがとうございました。

本文章はあくまで一弁護士の私見にすぎないものではありますが、NFTマーケットやNFTアーティストの皆様の助けになれば幸いです。

疑問点や相談などがあればDMで受け付けていますので、気軽にDMしていただければと思います。


東京弁護士会所属 弁護士 橋本祐弥
Twitter: https://twitter.com/inagorevival

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