見出し画像

「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#1.大槻監督が目指すサッカーとは ~

まず初めに、このシリーズを「浦和レッズ三年計画を定点観測」と名付けました。明確な評価基準という定点を置いて、そこから観察、評価をしていこうと思います。
そして、定点観測の第一歩として、オフシーズンの間にできることを自分なりに見つけてやっていきたいと思います。

新強化体制記者会見の中で土田さんが大槻さんについて
「3年計画の1年⽬を戦う上で、⼤槻(毅)監督の続投を決めました。監督と議論を重ね、キーコンセプトとなる『浦和の責任』と、チームコンセプトを共有し、実⾏できることを合意し、監督に続投してもらうことを決めました。今シーズンについては、シーズン途中からの難しいタイミングでの就任となり、⽬の前の試合、⽬の前の勝ち点を取りにいくことを優先し、本来⼤槻監督が⽬指すサッカーに取り組むことができなかったのが事実だと思っています。しかし来シーズンはコンセプトを共有して、⼤槻監督の攻撃的な魅⼒あるサッカーを実現していけると確信しております。」
と発言しています。

気になるのは、果たして「本来大槻監督が目指すサッカー」「大槻監督の攻撃的な魅力あるサッカー」とは一体どういうサッカーなのかという点です。
2019シーズンを見る限り、決して攻撃的には見えなかったし、ボールを持った時に目指す場所や人を選手がその都度探している場面が散見されたことからも、チームにゲームモデル、コンセプトを落とし込めているようには見えませんでした。

堀さん解任に伴ってトップチームに関わるようになる前は2013年から浦和のユースチームの監督をしており、YouTubeに2015年のJリーグインターナショナルユースカップの3試合のフル映像があることを教えてもらったので、その試合から当時大槻監督が目指したサッカー、当時のユースチームのゲームモデルを推測してみました。

今回見たのは以下の3試合です。YouTubeのリンクを貼っておきます。

vs AZアルクマール ○2-0
前半 https://www.youtube.com/watch?v=10nsSbB5v1Y
後半 https://www.youtube.com/watch?v=eOSFcjmAWmI

vs 名古屋U18 ○3-1
前半 https://www.youtube.com/watch?v=TII2S7vIgeE&t=1s
後半 https://www.youtube.com/watch?v=LL2qxIO461g

vs 全南 ○7-2
前半 https://www.youtube.com/watch?v=7jd4K1joe9I
後半 https://www.youtube.com/watch?v=fZjvGzflwgU

それでは、この3試合から見えたチーム原則を書いていきます。

<基本陣形>
4-5-1

<攻撃>
1. 2CBにアンカーを加えた3人でボール保持するところからスタート

→アンカーはCBの間に降りたり、相手FWの間や背中に立ったり
→前に運べるなら相手FWの脇から運んで前進
→アンカーの選手が展開力のある左利きの選手なので、そこからボールが出せればベスト

2. 第1ラインを突破したら一気に相手SB裏をめがけてロングボール
→左右のSHはライン際に立って幅をとる
→ロングボールの回収に備えてSBは高い位置をとっておく

3. SHに届いたらSB、IHがサポートして突破を図る
→相手のDFとGKの間が空いていればアーリークロス
→SBが積極的にオーバーラップ
→ここからのプレー選択は選手にゆだねる

ポジションごとに与えられた役割/求めているもの
CB:運べるなら運んで、大きく展開する
SB:ビルドアップの時から積極的に前に出てSHをサポート、SHの位置に応じて内側外側から追い越してクロスを上げる
DH:前を向けたら大きく展開する、CBがボールを持っていて自らが1列降りないときは相手FWの間や背中に立って影響を与える
IH:ロングボールの跳ね返り対策で最初はあまり高い位置をとらない、
SH:ライン際に立って幅を確保、カットインよりも縦突破が優先、逆サイドからのクロスには外から絞ってくる
CF:フリー(空いているスペースに動いて受けたり、クロスのターゲットになったり)
共通:ポジションチェンジは少なめ

<ネガトラ>
1. FW、MFは即時奪回

→方向は問わず、近い人から寄せていく

2. DFは撤退準備
→陣形を整えて、カウンターに備える

<守備>
1. CF、SH、IHで自分のレーンにいる相手を捕まえる

→CFが右CBを捕まえる時は、右IHが列を超えて左CBを捕まえに行く
→大きく蹴りだされてもCBが空中戦に強いので対応可能

2. 寄せるときには中に出させないことを優先
→相手を外に追いやることがメイン

3. スペースよりも人を意識
→各ゾーン共通して自分のマークが決まった時点でひっくり返されるまで追いかける

<ポジトラ>
1. 自分が前を向けるならそのまま相手DFラインの背後を狙って蹴りだす

→CFは背後のスペースへ走り出しておく

2. 自分が前を向けないなら同じラインにいる前を向ける選手へ渡す
→前を向いて受けた選手は1と同様に相手DFライン背後を狙う

※バックパスなどでボール保持を安定させることよりもボールを前に出すことを優先

こうしてまとめることをあまりしたことがないので、局面によって切り取れた情報量に偏りがありますが、3試合通して見られたのはこのような感じでした。お気づきの方も多いでしょうが、2019年の浦和の試合と共通しているポイントがありますね。特に守備の局面で。
守備-1はまさにエヴェルトンが2019年に表現していたことで、沢山の人が「あの動きはなんとかしてくれないか」と思っていましたが、大槻さんはあの動きをむしろ奨励していた可能性があります。

大槻さんの守備の原則は
・とにかく人を捕まえること
・ひっくり返されるまで離さないこと
・ゾーンよりもマンツーマンの意識が強め。
なので、横浜FM、神戸、大分など適切なポジショニングで相手にアクションを起こさせてスペースを創り出すことを志向する相手には2020年も引き続き苦戦することが予想されます。

攻撃については2019年に見たものとはだいぶ違うなという印象です。勿論、当時のユースチームと2019年のトップチームでは選手が好むものが違うので、それに応じて優先順位を変えた可能性はあります。
ただ、会見で2019年は大槻さんがやりたいことは出来なかったと言っているので、その言葉を真に受ければ本来やりたいのはまずはボールを前に飛ばしてから局面を個の力で打開していくことなのだと思います。
そういう意味では例えば2019/9/28の鳥栖戦の武藤のゴールのように、ロングボールをサイドに開いている橋岡にあててからゴールへ向かう流れは大槻さんが志向しているものなのだと思います。

それでは、これらの大槻さんの原則に現有選手を配置してみようと思います。

画像1

まず、ポイントとして両SHはロングボールのターゲットになるか、縦に勝負できるかのどちらかが必要とされていると感じます。外に張って相手SBとの空中戦で近くにボールを落とせるか、アイソレーションの状態で受けて仕掛けるか。
なので、今年はCFで起用されることが多かった杉本をSHとして配置しています。ロングボールのターゲットになれること、逆サイドからのクロスに入ってきて仕留める力があること、大槻さんのSHに求めているものに合致していると思いました。
また、アンカーの位置はボールを展開できる力が求められていると感じたので青木、次点で柏木としています。中盤での守備強度はIHの2人に求めているように感じるので、しっかり走れる武藤、長澤、柴戸、エヴェルトンが合うと思います。


そして、最後に。一番大切なことを。
会見で提示されたコンセプトと3試合を見て抽出した大槻さんのコンセプトがどの程度一致しているのかを確認します。
改めて、会見で提示されたコンセプトは以下の通りです。

<保持>
・運ぶ、味方のスピードを生かす
・数的有利を作る
・短時間でフィニッシュまで
・ボールをできるだけスピーディに展開する
<非保持>
・最終ラインを高く、全体をコンパクトに
・ボールの位置、味方の距離を設定して奪う
<共通>
・個の能力を最大限に発揮する
・前向き、積極的なプレーをする
・攻守に切れ目ない、相手を休ませないプレーをする

これらに対して大槻さんのコンセプトは以下の通り。
<攻撃>
・2CBにアンカーを加えた3人でボール保持するところからスタート
・第1ラインを突破したら一気に相手SB裏をめがけてロングボール
・SHに届いたらSB、IHがサポートして突破を図る
<ネガトラ>
・FW、MFは即時奪回
・DFは撤退準備
<守備>
・CF、SH、IHで自分のレーンにいる相手を捕まえる
・寄せるときには中に出させないことを優先
・スペースよりも人を意識
<ポジトラ>
・自分が前を向けるならそのまま相手DFラインの背後を狙って蹴りだす
・自分が前を向けないなら同じラインにいる前を向ける選手へ渡す

それでは、提示されたコンセプトに当てはめていきます。

<保持>
・運ぶ、味方のスピードを生かす

・数的有利を作る
→(攻撃)2CBにアンカーを加えた3人でボール保持するところからスタート
→(攻撃)SHに届いたらSB、IHがサポートして突破を図る

・短時間でフィニッシュまで
・ボールをできるだけスピーディに展開する
→(攻撃)第1ラインを突破したら一気に相手SB裏をめがけてロングボール
→(ポジトラ)自分が前を向けるならそのまま相手DFラインの背後を狙って蹴りだす

<非保持>
・最終ラインを高く、全体をコンパクトに

・ボールの位置、味方の距離を設定して奪う
→(守備)寄せるときには中に出させないことを優先

<共通>
・個の能力を最大限に発揮する
→(攻撃)SHに届いたらSB、IHがサポートして突破を図る
→(守備)スペースよりも人を意識

・前向き、積極的なプレーをする
→(守備)CF、SH、IHで自分のレーンにいる相手を捕まえる

・攻守に切れ目ない、相手を休ませないプレーをする
→(ネガトラ)FW、MFは即時奪回
→(ポジトラ)自分が前を向けるならそのまま相手DFラインの背後を狙って蹴りだす
→(ポジトラ)自分が前を向けないなら同じラインにいる前を向ける選手へ渡す

該当なし
(ネガトラ)DFは撤退準備

ちょっと無理のある分け方もありましたが、提示されたものと大槻さんが志向するものは比較的近いと考えられます。勿論、近いからと言ってそれで勝てるのかというのは別です。それでも、クラブがこういうことをしたいんだということを発して、それに則った動きをしているのかを見ていくことを目的としているので、まず、クラブの目指すものに沿ったスタイルを志向している監督が指揮を執るということは一つ評価しています。

2020年が大槻さんが志向するものと、実際にプレーする選手がうまくかみ合うのかどうなのかは分かりません。2019年にしても、半年以上指揮をしてACL決勝もJ1最終節もあの内容なので、志向しているものを落とし込めるのかについては不安が大きいです。
さらに、とうとうJ1にもポジショナルプレーの潮流がやってきて、そういう相手に対してスペースを空けることを厭わないスタイルでやっていこうとしているので、失点ドバドバな展開は容易に想像できます。それでも「2点取られたら3点取るんだ!」といういてまえ打線的な方針で行くのであれば、とにかく点を取る方法を確立しなければなりません。2020年で得失点を+10以上という目標を掲げるなら尚更です。
大槻さんの攻撃スタイルはとにかく雑な言い方をしてしまうと、「ビルドアップなんてひっかかるリスクもあるし面倒くさいから、さっさとロングボールを入れて前線の選手の質でぶん殴ってしまえ、そこなら取られても奪い返せばゴールは近いぞ」というストーミング的な感じなので、そういう意味では個の質の部分では高い選手が多いですから、自分たちの長所で殴るべく適材適所に人を配置して頂きたいと思います。ただし、このやり方はかなりなエネルギーを伴うので、主力選手が高齢化しつつある浦和において、しっかりと人を入れ替えながら戦わないと終盤のガス欠は免れません。

不安は尽きませんが、今はそれを解消する材料も方法もないので落ち着いて開幕を待ちましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?