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【雑感】2024/6/30 J1-第21節 浦和vs磐田

前回対戦はほんの1か月半前ですが、そこから磐田はジャーメインが復帰し、浦和は逆に怪我人が増えて、選手も移籍して、とお互いに変化がありました。磐田は、特に保持で、ジャーメインの復帰がかなり大きかったのだろうというのが前節のヴェルディ戦を見ても窺えます。

磐田のビルドアップは4バック+2CHの6枚で安定してボールを持った上で、前の4枚は中央付近に近接して、そこへボールを入れて相手を中央に集結させてから外へ展開してクロスというのが鉄板パターンで、特にペイショットへボールを当ててジャーメインが拾うとか、そこを見せつつ中から外へ斜めに人が抜けて行って、後ろからCHが抜けて行った人の分を補うように出てくるとか、そういった形がベースにあると思います。そして、このこぼれ球を拾う、斜めに抜けるという要素を最も高いレベル、強度でプレーできるのはジャーメインだと思います。


浦和は2試合前の鹿島戦の後半から4-2-3-1をベースにした配置にしていますが、これはグスタフソンが不在というだけでなくJ1の各チームの傾向を見た上でそれに適応するための策であるとヘグモさんは定例会見で話しています。

「サミュエルがいてもいなくても1アンカーとダブルボランチのオプションは状況によって切り替えていきたいと思います」
「相手がロングボールを多用するチームであるならば、2センターバックと2ボランチで4枚のブロックを作ることによってセカンドボールを拾いやすくすることができます。ダブルボランチにするアドバンテージはそういったところにあると思います」

2024/6/28 定例会見 より抜粋

この試合ではほぼ浦和の保持で時間が推移したので非保持について見られる場面は多くなかったですが、2CHにしたこともあって、ペイショットを目掛けて飛んできたボールを佐藤がはじき返し、それを2CHやトップ下で拾うという形が再現性高く出来ていたと思います。春先にショルツがケガでいなかった時期も佐藤のハイボールへの強さが光りましたが、この試合でも彼のそういった良さは出ていたと思います。

ハイボールについては浦和側の優位性で対応できていたと思いますが、手前から繋ぐところについては浦和のプレッシングが曖昧だったものの磐田がそこを使いきれなかったという要素もあったのかなと思います。31'00~は植村から斜めにジャーメインへボールを刺して、そこから中央で近接している上原、ペイショットとのコンビネーションから逆サイドの松原までの展開を試みました。ただ、この場面は主審にボールが当たって阻まれてしまいました。

36'15~は川島を経由して左から右へボールを動かし、植村から武田ー渡邊のゲートを通してレオゴメスへボールが入りました。レオゴメスが中央付近でオープンになったものの、浦和の陣形がスライドしていく右サイドの狭い方向へボールを運んだことで選択肢が狭まり松本へのスルーパスは流れています。

時間を先に進めてしまいますが、後半のクロスボールの競り合いで西川のパンチングがペイショットに当たってしまう67'48~の流れは磐田がやりたかった展開の仕方だったのかなと思います。

植村が手前に引いてボールを引き受けているところに対してCHのレオゴメス、内に絞っているSHのブルーノジョゼ、ジャーメインと中央で近接した状態を作って細かく繋ぐ中で逆サイドへ展開しています。ブルーノジョゼからジャーメインへのパスが後ろ向きに入ってしまったのでスピードアップできていませんが、そこのパスの精度が良ければジャーメインが安居の脇を取って前に出ていけたのではないかと思います。

また、これを浦和目線で観た時には武田が植村を斜め前に置いているので縦も横も切れていないポジションからのプレーになっていますが、上原が運んでから植村へボールを渡す前に武田が下がりすぎていて植村との距離が空いてしまったのかなと思います。

上原がボールを持った時にいた地点から15m程度後ろに下がっていますが、上原に対する縦(ブルーノジョゼへのコース)は切れる位置にいたので、縦を切りながら外方向へ誘導して植村へボールが出た時に横方向から寄せて行けると植村の前進経路は縦にしかなくなるので、前にいる大畑やスライドしている安居も含めて外レーンで圧縮できたのかなと思います。

浦和の方は非保持では4-4-2の配置にはしているものの、昨季やっていたような中を締めて外誘導してから全体でスライドして圧縮するというような対応はやり切れていませんでした。ただ、4-5-1の配置からのプレッシングをしていた試合でも自分たちの使わせたくない場所、使わせても良い場所の設定とそこに対するアクションはあまり作れていなかったので、そこが急に解決するのは難しいかなとは思います。


急に解決するのは難しいかなというのは保持の面でもあったと思います。まずは、先ほど抜粋した定例会見の保持についてのところも見てみます。

「たとえば4-2-3-1でビルドアップしていると、4枚の前に2枚いますが、4-3-3でビルドアップしてもたとえば敦樹が少し下りてきて4-2の形になることもあります」
「たとえば4-2-3-1の形でプレーしていても、敦樹が少し前に上がって海渡が残って、トップ下にいた凌磨が左に動けば4-3-3と同じような形になります」

2024/6/28 定例会見 より抜粋

これまでも今季の浦和のビルドアップで良くなっている点について特にSBが内側に運ぶことで相手を引き付けられる上に自然と一個飛ばしのパスになるということを書いてきました。それは4バックの前にいるのがアンカー1枚なので手前にドリブルをするスペースがあるということが前提でした。

4-1-2-3の配置であれば各自が所定の位置に立つことで手前にスペースが出来ますが、中盤の三角形をひっくり返して2CHになるとCHのどちらかが動かないとスペースが空きません。「最初の状態のままで良い」というのと「動いて良い状態を作る」というのでは前提が違います。後者については、動かないあるいは、動く方向が適切でない場合には良い状態が作れなくなるということが起こり得ます。

17'05~のビルドアップは自陣深くのスローインから初期配置である4-2の形でスタートしています。右から左へボールが動いてホイブラーテンがオープンな状態で運んでいきますが、この時に安居が左前(ホイブラーテンが運んでいく方向)に動いて局面を狭くしていたのは気になりました。安居が動いた分、敦樹がヘソの位置に入ることで経由地点になって佐藤へボールが渡り、そこからソルバッケンへボールが展開されますが、ビルドアップに2CH両方を使ったことで前線の人数が減ってしまい、展開に迫力が無くなっています。

もう少し具体的に言うと、IH化しているのが武田だけになっており、ソルバッケンへボールが入った時にはそれを補うためにSHの渡邊が内に絞ってIH化しています。そうすると、4-1-2-3の時に置けていた逆サイド、大外の高い位置で待ち構えられる選手がいないので、ソルバッケンは中方向へドリブルをしても逆サイドへ飛ばすという選択肢が持てなくなっています。

例えばこの場面で安居か敦樹の片方をヘソの位置に置いて、もう片方が前に出た状態でビルドアップが出来ていると、渡邊は中に絞らずに外で待てる状態になるのでソルバッケンから対角のボールが飛んで磐田の選手たちの体の向きを変えさせることが出来たかもしれません。

ソルバッケンへボールが入る経緯が違うのでフェアな比較ではありませんが、1点目の流れは安居が左下に下りていて大畑が前に出ている状態で、後ろが4枚、ヘソには敦樹1枚という配置のバランスだったことでソルバッケンは縦にも逆サイドにも選択肢を持った状態でドリブルをしています。ソルバッケンは恐らく右SHの松本を気にしていて、渡邊に弱いボールを当てることで松本を食いつかせて、ワンツーの返しをもらって奥でフリーになった大畑を使おうとしていたのではないかと想像します。

上の図に表したように手数をかけずに左奥を取ることが出来たかもしれませんが、前に人数をかけることでゴール前に圧力をかけることが出来て良かったですし、右から左へボールを動かして磐田の選手たちの体の向きを変えてからさらに逆サイドへクロスを入れてゴールが決まったというのは良かったと思います。


ハーフタイムで磐田が2人交代をした中で後半の始まってすぐに2点目が入ったのはとても大きかったですね。磐田が間接フリーキックをペイショットへ放り込んだのを石原が拾ったところからスタートした攻撃でしたが、ボールを持っている選手がオープンであれば周りの選手はどんどん前へ出て行くというのが良かったです。

その中でソルバッケンは敦樹も一緒に前へ走っていることと、松原が自分のことを意識しているというのを感じてなのか、石原の運ぶコースは邪魔しないように減速しながら外へ開いて松原を引き付けることに成功し、石原から敦樹へのスルーパスの花道が開きました。そこから敦樹がグイっと体をひねってマイナスのボールを出すのは鹿島戦の武田のゴールに近い形で、これはお馴染みの形になっていくのかもしれませんね。


後半は前半と比べて安居がアンカー、敦樹がIHとして振舞う状態が多かったように見えます。安居の立ち位置が前半はジャーメインの背中から外側になるのが多かったですが、後半は57'25~のようにジャーメインとペイショットのゲート付近に立つことが増えたと思います。敦樹がIH化するのが早くなったのか、安居のポジショニングに寄って敦樹がIHの位置に押し出せたのかは分かりませんが、この変化は良かったと思います。

64'05~は流れの中でソルバッケンが左IHの位置にいますが、安居がアンカー、敦樹が右IH、武田が右WGの位置を取れており、大畑がジャーメインーブルーノジョゼのゲートからヘソの位置の安居へボールを入れて、そこからライン間にいる敦樹を経由して逆サイドの武田まで展開出来ています。

磐田の非保持は4-4-2がベースですが、基本的に個々の出す矢印の方向は縦向きで、相手をどちらかのサイドへ寄せて圧縮するというアクションは基本的には無かったので、この場面のようにSBが手前でオープンにボールを持てた時に内側への選択肢は持ちやすかったのではないかと思います。

磐田の非保持で矢印が縦向きが多いのを利用できたのが3点目の少し手前のシーンだったかなと思います。後半、特にブルーノジョゼが入ってきてからは手前でオープンにボールを持つ大畑へSHのブルーノジョゼが出て行くので、その背中に渡邊が入って行くとSBの植村がついてきて、大畑が渡邊とのワンツーで植村の背後へ抜け出していくという場面が何度かありました。

高い位置でボールを失うものの、配置のバランスが良いのでリンセンがすぐにボールを受けたレオゴメスへ寄せて下げさせると、大畑が前に上がったままなのでそのまま寄せることが出来ています。ネガトラからの即時奪回に成功してそのまま高い位置で攻撃を行い敦樹のゴールに繋がりました。

これも大畑から前進する前の段階からビルドアップで安居がアンカー、敦樹がIHという位置になっており、敦樹が後ろに下がらずにプレーし続けていたからこそ余裕をもってゴール前に入って来ることが出来たのかなと思います。配置のバランスが良い状態で保持を続けるからこそ、「良い攻撃から良い守備」という流れが出来たのかなと思います。



前半は2CHにしたことで少し停滞感というか、ビルドアップの場面で「そこで2枚使うのはもったいないな。そこは1枚で済ませて欲しいな」という場面がありましたが、後半は安居と敦樹の役割を固定できたことで試合終盤まで圧倒する流れを作れたと思います。試合を通して優勢な流れのまま3-0の快勝となりしたが、前半よりも後半の方が得点が入ったというのはビルドアップでの調整がされたことが大きかったのではないかと思います。

敦樹については、彼がこれまでプレーしてきた時間の長い景色が後ろの方なので、「最初から適切な位置にいる」よりも「動いて適切な位置に入って行く」方が気持ちのスイッチが入るのかもしれません。個人的には各選手が「最初から適切な位置にいる」状態からプレーがスタートする方が好きですが、今いる選手たちがどういう状態の時にプレーするのがやりやすいのかということも大切なので、ヘグモさんたちには起用される選手たちの関係性を上手く見極めて正三角形と逆三角形を上手く使い分けて欲しいなと思います。


非保持で4-4-2から保持では4-1-2-3のような並びになることは昨季までも見られたものでしたが、「球離れが悪い」「テンポが悪い」という形(とてもポジティブなこの言葉を意味で使っています)でビルドアップ出来るだけのスキルが特に後列の選手たちに身についてきたことはこれまでの大きな違いだと思います。

特にこの試合では大畑がボールを受けるときのポジショニングだけでなく、ボールを受けた後にすぐにボールを離さず、前や中の可能性を窺うようにドリブルでボールを動かしたり、静止したりして相手を引き付けており、それによって次の選手がボールを受けた時に余裕を持てる状況が生まれています。おそらくこの後発表されるパリ五輪のメンバーに入るでしょうし、そうすると彼がいなくなる期間が出来てしまうことには不安が少なからずあります。

試合後に挨拶をした酒井、ショルツ、さらに岩尾、そして、契約最終日ながら違いを見せ続けたソルバッケンもチームを離れてしまうことも、怪我人が多い状況の中では不安を募らせます。

それでも、こうして早い段階で試合を決めることが出来ると、最後の方には井上、堀内をお試し起用することが出来たり、宇賀神の帰還を祝うことが出来たり、ポジティブな選手のプレー時間のマネジメントが出来るようになっていくと思います。


試合前の入場の時に大画面に選手たちの姿が映りますが、酒井、ショルツ、岩尾がいなくなった中で、西川ではなく敦樹の腕にキャプテンマークが巻かれていることに気付いたときのゾワッとする感覚は凄かったです。ここまでのチームの成績も、このタイミングでの選手の出入りも、開幕前に想像していたり、望んでいたりするものでは無いですが、20代前半から中盤の選手たちが成長し、30代の選手たちを追い出す形になるというのはフットボールのチームとしては健全に代謝していると言えます。

その中で駒場の近くで育ち、大原に通い、クラブのアカデミーで成長した青年が、キャプテンマークを巻いて1G2Aという結果でチームの勝利に大きく貢献したこの試合はクラブの物語のハイライトになるようなものになったかなと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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