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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#25. 2020 J1 第29節 vsFC東京 レビュー&採点~

5連戦の中の4戦目。選手だけでなく監督、コーチ陣や試合を追いかけるすべての人にとって疲れの大きいタイミングでの試合でした。
スコアは0-1。これでこの5連戦は1勝3敗。しかもその3敗はすべてホームでの完封負けと、スタンドからネガティブな声がダイレクトに聞こえてきてしまっています。

そんな中で今節も試合後のアンケートに回答してくださった皆様、ありがとうございました。いろいろ考えた回答であっても、ストレスのはけ口としての回答であっても、それが浦和サポの正直な意見だと思いますので、ネガティブな試合の後にご協力いただけていることには感謝しかありません。

試合の流れ

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まずは両チームのスタメンですが、東京は前々節がセレッソ戦、前節が鳥栖戦ということから、おそらくはセレッソ戦と浦和戦に主力を起用し、鳥栖戦はそこから少し落とした選手を起用してきたと思います。
一つ懸念があるとすれば、ディエゴオリヴェイラがイエローカードの累積によって出場停止ということで、攻守ともに球際でハードワークする大事なピースが1つ欠けているというところでしょうか。

そして浦和は前節の後半に引き続き柏木がCHに鎮座。センターラインは西川、槙野、柏木、武藤、興梠が並びSBにも宇賀神が入り、沢山の時間を共にしてきた選手が多いということで、「阿吽の呼吸」というのが出しやすいメンバーとなりました。


◆浦和のビルドアップはFC東京の掌の中

試合を通して浦和のボール保持、東京のボール非保持という時間が長くなりました。元々のプランとして、東京はボール非保持を狭い陣形で構えて相手との距離を短くして、パスの出先に対して常に高い強度でプレッシングすることを狙っています。
そして、浦和は圧倒的なボール保持を武器に成果を出してきたミシャ期の成功体験を持つ選手が多いことから、これまでの試合よりもボールを保持して相手を崩したいという思いが強く、ボール保持の仕方も柏木や興梠を中心に狭いエリアでの細かいパス回しとコンビネーションを志しました。
そのため、狭く守りたい東京と狭くても構わない浦和という、お互いのやりたいことが噛み合う展開が続きました。


◆原則尊重派とアイディア尊重派の歪み

浦和の三年計画で掲げられた攻撃でのプレー原則は「運ぶ」「スピーディな展開」というものです。これらを表現するためには各選手の距離を保ちスペースを創出することが必要です。
出場している浦和の選手の中で、このプレー原則を表現しようとする選手と、元々得意としてきた狭い局面でのプレーをしたい選手でそれぞれの思惑の不一致があったことは言うまでもありませんし、それこそが浦和がリズムよくボールを回しているように見えながら決定的なチャンスを作るに至らなかった現象の正体。

その中からいくつかのシーンをピックアップしたいと思います。
また、この試合を観返した中で気になったシーンをつらつらとメモ書きしたものも出していますので、試合全体を時系列で観返したい方はこちらも見て頂けると試合の理解のお助けになるかと思います。

このメモの中からチームの原則を表現できなかった(しようとしなかった)ために生じた不具合を2つ紹介し、もしその場面で原則に沿ったプレーをするとすればという展開を考えてみたいと思います。


まずは34:39~のシーンです。
浦和陣内で柴戸がファウルを受けてからのリスタートしたところからです。

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柏木は守備時は右ボランチに入ることが多く、その流れから攻撃の開始(ビルドアップ)の時には柏木は右サイドからスタート。橋岡は広いスペースを求めて外側に大きく開くので、柏木はデンと橋岡の間をつなぐようなポジションに入ります。

しかし、柏木のポジションも東京のブロック幅に収まる場所で、東京は浦和のビルドアップに対して4-2-4のような体制で積極的にビルドアップを潰しにかかってきていたので、デンとすれば田川にすぐにプレッシングされそうな柏木よりは分かりやすく相手から離れている槙野へ渡して左へ展開していきます。
しかし、左サイドは広いスペースでのプレーが得意な汰木が外側に開いたことから、宇賀神がサイドプレーヤーは縦のレーンで被らないという今季の約束事を守り内側にポジションを取ります。
そのため浦和のビルドアップ隊はピッチの左側に偏った配置になりかなり窮屈な状態に。

さらに、この時に柏木がボールが展開された左側へフラフラと動いて行ったため、左サイドを東京に塞がれて逆サイドに展開するためにデンまでボールが戻ってきた時には自分と橋岡を繋ぐポジションにいたはずの柏木が不在。
田川がデンを狙う姿勢を見せたためデンは右サイドへの展開を断念し再びボールを左に返しますが、人の詰まった狭い局面でボールを動かし続けたため、東京の選手は自分がプレッシングに行くべき対象を徐々に見定め結局は西川へのバックパスを余儀なくされてボールを大きく蹴り出し、東京に回収されてしまいました。

チームの原則にのっとるのであれば、東京のプレッシングの矢印にかからない選手を作り、そこからボールを運ぶことが求められます。

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柏木がこの試合で好んで取っていたスタートポジションを尊重するのであれば、柏木が運び役になることが求められます。
ただ、これはあまり柏木の特性に合わないように思いますので、個々の適正に合わせると下図のような動き方だとスムーズかなと思います。

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もう1つは62:35~のシーンです。
浦和の右サイドが詰まってボールを西川まで下げて、デンと槙野がペナルティエリアの幅まで開いて狭く守りたい東京に対して広さを作ったところから。

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槙野が運んできたのでレアンドロは槙野に対するプレッシングを開始。これに柏木と宇賀神が反応します。
恐らくはレアンドロのプレッシングの回避先になるべくサポートとして近づいたのだと思いますがこれが逆効果。かえってシルバと三田も槙野に近づけてしまい、ボールを運んだ槙野はあえなく3人に囲まれてボールがタッチラインの外へ転がっていきました。

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味方に運ばせるのであれば、その選手の前にあるスペースに対して下りて埋めてしまうのはご法度です。
槙野がチームの原則通り運んできたのであれば、周りの選手はそのスペースを埋めない、相手にもそのスペースへプレッシングに行かせない動きが求められます。

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下りて行った柏木と宇賀神はシルバと三田に影響を与えるポジションを取りつつ、槙野がプレッシングを受けた時の逃げ道になるための角度を作る必要がありました。
また、もう1つ高度なことを求めるのであれば、運んだ槙野も相手に前を塞がれた時にはそのサイドから運ぶのをやめて、逆サイドからの前進に切り替えられると良かったかなと思います。


ピッチ上の選手は平面の視野で目の前に相手選手がいて、試合の間は走り回って心拍数も上がり疲労していることは重々承知していますし、その中で最善の判断をしようとしていることに対しては大きな敬意を持っています。

我々はピッチを俯瞰して観ることが出来る上に、心拍数も上がっていない状況で最適なプレー選択を想像することが出来ます。ピッチ上の選手にはない状況だからこそ、サポーターが的確なプレーを想像し、それが出来た時には盛大な拍手をすることで選手たちに「この選択は正しい(評価してもらえる)」と思ってもらうことが出来るのではないかと思っています。

なので、今回はピッチ上の不具合をチームとして目指すとしているプレーを実践するとしたらどういうものだったのかというのを考えてみました。
こういう指摘の仕方については好意的に思わない人もいると思いますが、私の想像する三年計画の完成形は監督や選手だけでなくスタンドも同じプレーを描けることだと思っています。

是非、皆さんも自分なりにプレー原則に照らし合わせた解決策を想像してみてください。それをもとに議論しましょう。


採点結果

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プレー原則の上でこの能力を発揮しようとした選手は少なからずいたことに対しては評価をしておきたいです。槙野は運ぶプレーを表現しようとしており、橋岡は広いスペースでボールを待って自信のスピードを活かそうとしていました。しかし、プレー原則に反する現象があまりにも多く、試合全体についてはポジティブな評価をすることは難しかったですね。

アンケートで頂いた意見の中にも
「今日の攻撃はどちらかというと、ボールをつないで、ゴール前でフリックやスルーを使っていて、うまくいかないミシャサッカーを見ているようだった。」
「クラブの掲げていたプレーコンセプトなんてありましたっけ」
とネガティブなものばかりでした。


前節の横浜FC戦のレビュー記事の最後に「果たして次戦以降で柏木が出場するときにはどのようなポジションで、どのような役割で、周りの選手はどのように振舞うのか、ここには大いに注目していきたいと思います。」と書きました。

早速その機会が訪れましたね。
このポイントについての回答は
・どのようなポジションで → ボランチ
・どのような役割で → 常にボールのある場所へ動いて短いパス交換をしながら前進を図る
・周りの選手はどのように振舞うのか → チーム原則ではなく柏木のポジションによってそれぞれの役割が左右されるが大半となった
となりました。
つまり、この試合で表現されたのは横浜FC戦の後半の延長線上にあるものであり、チームとしての積み上げよりも個人の裁量が重視された内容でした。

さらに、DAZN中継内でのフラッシュインタビューで大槻監督は「ゲームに向かって準備してきたことは表現できたが、最後のゴール前のしっかり点を取るところについてのチャレンジ、勇気、決断をもう一つ上げないといけない。」とコメントしました。試合直後で冷静に振り返っていない状況ということを差し引いても「準備してきたことは表現できた」という言葉に引っかかってしまいます。

5連戦の中で試合に出場した選手はリカバリーがメインとなり戦術的な練習をピッチ上で行うことは難しいです。また、「こうやってね」と事前に伝えていたとしても、実際の試合の中で咄嗟に出るプレーというのはこれまで自身が何度も繰り返してきたものになりやすいです。

そういう点を差し引いたとすれば、チーム原則がまだ徹底出来ていない状況でのこの連戦中は選手が出来ることをやらせてなんとか勝ち点を拾おうと考えることも想像できます。

大きな変革をするときには、それについて行く人間とそうでない人間の歪みは大小あれど生じるはずです。そして、現状はこの変革に後れを取っているのが柏木や興梠といった個人の能力に優れ、チームに大きな影響力を持つ選手たちです。能力があり成功体験があるからこそ、簡単にはそれまでのプレー選択から切り替えることは難しいでしょうし、その気があるのかも正直分かりません。

ただ、そうした選手がついてこない事よりも、出場機会をなくし不満分子になることの方が危険と判断し、一時的な揺り戻し(悪く言えば機嫌取り)として対戦相手の力量やキャラクターを鑑みてこのようは選択をしたのかもしれません。
この辺りは当事者にしか分かり得ない空気感だと思うので、我々は断片的な情報から推測することしかできません。
まだまだ手探りの状態は続きますが、出来るだけ良い変化も悪い変化も見逃さないように、注意深く見ていきたいと思います。


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