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【雑感】2024/3/10 J1-第3節 札幌vs浦和

ショルツと前田がどちらも右脚のハムストリングのあたりを痛めて負傷交代し、後半は手前1/3でのプレー時間がかなり多くなったことで試合を観ていた僕は手汗だけで脱水症状を起こすのではないかと思いましたが、なんとか今季初勝利を挙げられて本当に良かったですね。ホッとしました。

負傷交代した2人だけでなく、81分にIHの小泉と敦樹が交代する時には同時に足を攣って倒れ込んだり、そもそも両チームともゴール周辺でのプレーをする際にはボールの跳ね方が安定しないことでコントロールに苦しんでいたこともあって普段以上に疲労の溜まるピッチコンディションだったのだろうと思います。


浦和がここまでの2試合は「配置が静的かつポジション移動が少ないので相手にとって読みやすい」という言われ方をしましたが、札幌は、というよりはミシャのチームはその典型だと思うので、お互いに試合展開を事前に予想しやすい相手だったのではないかと思います。

浦和は札幌がマンツーマンで最後尾で数的同数が作れるのでそこで優位な状況を作りたいという考え方(広島戦のリベンジ)だったと思います。そして、試合のスタートから前田がいきなり右サイドからカットインして巻いたシュートを連発しチームが前に出て行けるようなテンションを作ったのではないかと思います。

ただ、浦和の方が良いテンションを作れたのは、ここまでの2試合と比べて非保持のタスクを整理できたことでボールを失っても取り返せる安心感を得られたことが大きいのかなと思いますし、それによって前半は試合を上手くコントロールできていたのではないかと思います。


非保持のベースが4-5-1なのは変わらないと思いますが、1トップは中央から出るだけ動かず、アンカー役を消すようなポジションを取っていました。また、1トップの両脇のケアの仕方をどちらでも良いからIHが出るということではなくて、左はIHの小泉が出る、右はWGの前田が絞って出てくるという左右非対称のタスクになっていました。

このタスク分けによって右はポジトラの時に前に残しておきたい前田が非保持で高い位置を取れているだけでなく、昨季までCHにいた敦樹が中盤ラインに残った状態でスタートできるので昨季までと同じような景色でプレーできたと思います。

前田は外切りのようなイメージでCB役の選手に寄せていて、興梠と前田のゲートや前田の背中にボールは敦樹が対応していました。前田を家長、敦樹を田中碧に置き換えて2020年ごろの川崎でイメージするとこのタスクが分かりやすいかもしれません。SBの酒井も含めてWGの後ろにいる選手の馬力を活かせる手法ですね。

また、左も前に出て行きながらボールの雲行きをコントロールできる小泉に合ったタスクを与えつつ、味方の背中のケアが出来る関根が昨年までと似たような振る舞いをしながら中盤ラインに残れることで中盤ラインの穴が空きづらくなりました。

さらに、IHのどちらが前に出るかが整理されていることで、アンカーのグスタフソンからしても自分の右にいる敦樹は基本的に隣にいるので前に出るとすれば小泉が出て行く左側だけになるといった具合に、判断のための負荷が軽減されたのではないかと思います。グスタフソンはボール保持と同様にボールの雲行きに対して適切に振舞うことは上手なので、強いアクションが必要ではないタスクにしてあげると非保持での短所を上手く隠せるのではないかと思いました。

このようなIHとWGのタスクを左右非対称にするのはヘッケンでもやっていたことなので、その整理が出来るなら開幕節からやってくれよという言葉はぐっと飲みこんで、ここまで2試合で良くなかったところを手当て出来たのは評価して良いポイントだと思います。


前半はこの規制によって浦和が中を塞いでボールを外回りにさせることが出来ており、札幌のアンカー役の選手がなかなかボールを触れずに下りることがあって、そうなるとCHが2枚とも最後尾にいるのでピッチの中央に誰もいないという状況もありました。3'20~や17'25~の札幌のビルドアップでは浦和が準備してきたことがきちんと表現できたうえでボールを回収できていたと思います。

ミシャのチームはビルドアップで3バックの両脇が外へ開き、残ったCBと2CHが2-1のような形になって4-1-5へ可変するのがお決まりの形です。なので、札幌がボールを失った時にピッチの中央はアンカー役になる選手しかおらず5-0-5になってど真ん中がぽっかり空いてしまうというのは僕らも8年前くらいには何度も見てきた光景です。


浦和は保持でもロングボールは札幌の選手の背後へ落とせていたので、札幌の選手を背走させるだけでなく、そこでボールを拾うことが出来れば一旦バックパスをしても札幌の選手たちの配置がズレているのでマーク担当がいるべき場所にいないことが発生していました。

15'20~の浦和のビルドアップからの流れではショルツが同サイドの奥へボールを飛ばして、そこから一旦ボールが返ってきた後には駒井が最初のボール対応で浦和から見て右サイドへ流れていたので小泉のマーク担当が不在になっておりそこから前進し、小泉から関根、関根からオーバーラップしてきた渡邊へと繋いでコーナーキックを獲得しています。

この場面もそうでしたし、先制点に繋がるコーナーキック獲得もショルツから相手の背後へのロングボールが起点でした。この試合ではショルツは運ぶよりも相手の裏を狙う選手へボールを落としてあげることが多かったです。運びながら大きいボールを蹴るのは難しいので、この試合は運ぶのは控えて良いから裏を狙ってくれというオーダーがあったのかもしれません。

手前から繋ぐよりも相手の背後を狙うということを前提にしてIHを出来るだけ下さないようにしていたのは広島戦の前半と似ていたと思います。ただ、札幌はあまりコンディションが良くなかったのか、前向きにボールを持とうとする浦和の選手を捕まえるスピードが遅く、ショルツもホイブラーテンも広島戦と比べればだいぶ余裕をもってボールを持てていたのではないかと思います。


ただ、後半は一転して札幌の保持の時間がかなり長くなりました。その要因の1つはミシャのチームの悪癖であるヘソの位置から選手がいなくなることが減ったことが挙げられると思います。

後半開始早々のビルドアップでは荒野がヘソの位置に残っていたことで、馬場が小泉ー関根のゲートを通して鈴木武蔵→荒野とレイオフの形を作ってピッチ中央で前向きな選手を作って前進しています。

また、49'55~のビルドアップでは駒井と荒野が両方最後尾に落ちてしまっても代わりに岡村が1列前に出て2-1の形を保っており、小泉の周辺で荒野と2v1を作って前進しています。荒野がボールと合わせて前列へ進出することでサイドでは関根の背中を取った小林と外に開いた馬場と合わせて数的優位を作っています。

浦和の方は小泉の出て行ったスペースへグスタフソンがスライドしているだけでなく、逆サイドの敦樹や前田は連動してスライドするアクションはしていないので、サイドから横に差し込まれたボールを跳ね返せずに逆サイドまで展開されて札幌がコーナーキックを取りました。

残念ながらここで前田がベンチに交代してくれとジェスチャーをして座り込んでしまいました。前半にショルツの負傷で交代のタイミングを1回使ってしまったので、まだ50分ではありましたが2回目の交代タイミングを使うことになりました。早い時間で交代が出来るタイミングがあと1回だけになってしまったのはかなり痛かったと思います。

前田に代わって入った松尾は期待に違わぬスピードで馬場に走り勝っていて左サイドを制圧できそうな勢いだったと思います。前田がいなくなっても松尾がサイドからの突破口になれていました。

ただ、興梠とサンタナの交代は浦和の保持に与えた影響が大きかったと思います。興梠後ろ向きでも相手を背負ってファウルを取ってくれたり、味方にボールを落としていたので、それによって周りも安心して前向きにアクションを起こせていたのかなと思いますが、サンタナはヴェルディ戦に引き続き出来るだけゴールに近い所にいたままプレーをすることが多く、札幌のCBがなかなか動かせなくなっていった印象です。

ゴールに近い所での細かい駆け引きはもちろん大切なのですが、マンマーク志向の相手に対して定位していることは相手もそこにい続けることになるので、周りの選手がサンタナにボールを渡すのをためらってし待ったのかなと思いますし、相手がそこにい続けるので周りの選手のアクションも起こしにくくなっていったのかもしれません。また、非保持でもサンタナは自分の背中を使われがちで73'48~も荒野に背中を使われて前進を許しています。

本当は興梠の交代タイミングをもっと後ろに引っ張りたかったのではないかと思いますが、興梠の疲れが見えたタイミングがもし70分くらいに来てしまって、そこで3回目の交代をすると、そこが最後のテコ入れのタイミングになってしまって試合終盤に響いてしまうので、前田の負傷のタイミングでまとめての交代になってしまったのかなと思います。

ヴェルディ戦はほとんどボールに触れず、この試合では松尾からの決定的なクロスを外してしまったことでなかなかメンタル的に難しくなってしまっているかもしれません。20点取った実績があるストライカーが浦和に来てからなかなか点が取れずにどんどん落ち込んでしまった選手を見ている僕らからすると、早く流れの中で1点取って気持ちが楽になって欲しいですし、月額制の専用サイトを立ち上げないで済むように周りもサポートしてあげて欲しいですね。


後半はこうした要因で非保持で動かされることが増えた上に、保持で前に出て行ける自信や体力がなくなっていって、どんどんプレーエリアが浦和陣内の深い場所へなっていってしまったのかなという印象です。

敦樹と小泉の両IHが足を攣ってしまいましたが、ここでIHを岩尾と関根にするだけでなく、渡邊はSBのまま大畑が左WGにしたのは意外でしたが、中盤ラインの大畑、岩尾、松尾と途中交代で脚が残っている選手だけでなく関根も出来るだけ相手のボール保持者へ素早く寄せて行ったりプレスバックしたりする動きが出来たことで中央が決壊することは免れたのかなと思います。

ボール保持者を自由にしてしまうと完全にサンドバック状態になりかねないので、そこに対してパワーを出した采配は良かったと思いますし、それに応えるようにアディショナルタイムには約2分間靴が脱げても走り回った関根の姿は責任原理主義の僕にとっては感動ものでした。


負傷者が複数出てしまったことで、選手交代のマネジメントも難しくなったので後半のゲームコントロールは想定していたものではなくなってしまったと思いますが、それでも勝ち切れたのはチームの雰囲気を考えると本当に大きかったと思います。

満足のいく試合では無いですし、チームもこれで良かったとは思っていないと思いますが、それでも勝利という結果がもたらす心理的な安心感が絶大なのは昨年のACL決勝へ向かっていくチームの姿を見ていたも感じたことです。


保持は札幌がマンマーク志向だったからこそ狙えた部分、表現できた部分が多分にありました。それは相手が前に出てきたがってくれるので手前から繋ぐより背後にボールをどんどん落とした方が効果的なのでそれを使えたということなのですが、これは相手が変われば効果的なプレーも変わるので次も同じようにプレーできるか分からないです。

ただ、特に前半のゲームコントロール出来ていた時間帯では非保持もある程度整理できていたことと、それが対札幌に特化したものというよりはチームのバランスを考えた時に適切だと思えるものだったのは次に向けてポジティブな要素です。この2試合で一番深刻なのは非保持だと思っていたので少しホッとしていますし、次に向けてもっとチームのアクションを洗練させていくことが出来ると良いなと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。


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