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【雑感】2024/4/12 J1-第8節 柏vs浦和

この試合に向けて柏を予習する中で思ったことだったのですが、正に柏にはハードワークのご褒美があった試合になったのかなと思います。

ネルシーニョ体制ではプレッシングでの噛み合わせ至上主義というか、相手の保持の形とプレッシング隊の噛み合わせを良くして対面の相手に向かっていく姿勢を前面に出していく反面、昨季の対戦でもそうだったようにポジションのローテーションをされたり、矢印を出す選手の根元を使われたりするとそこからズルズルと瓦解する傾向にあったと思います。

井原さんの体制になってからは、昨年のカップ戦決勝でも見せたように、相手を捕まえるよりも味方基準で4-4-2の隊列を維持しながらボールを入れさせたく無い場所をきちんと設定、共有するチームになっている印象をこの試合に向けて直近4試合を予習として観て感じていました。

チーム全体で誰もサボらず最後まで強度を保つのは予習で観ていた通りで彼らのスタンダードがそのまま表現された内容でした。そして、このチームで一番保持で違いを作れるサヴィオが非保持でも分かりやすく一番頑張る(この試合は不在でしたが細谷も同様)という構図がよりチームを引き締めているのかもしれません。中継映像で聞こえた限りではありますが、後半ATに彼が退く時の拍手の量はまだまだ足りません。柏サポはもっと彼を労うべきです。


さて、柏アゲはそのくらいにして試合の中身に触れたいと思います。

U23の代表活動のために両チームからは細谷、関根、大畑が選出されこの試合から不在になりました。柏はSBに川口が入ったのは順当だと思いますが、木下がベンチスタートだったのは意外でした。浦和の方はそれよりも岩尾がスタメンだけでなくベンチからも外れて小泉がスタメン復帰、堀内がベンチに入ったというのが大きなトピックになるでしょうか。

浦和は岩尾がIHでスタメンに出るようになってから、岩尾が保持でグスタフソンのアクションへの反応が良いこともあって選手間の繋がりやボール循環が良くなっていたのと、前節の鳥栖戦ではプレッシング局面で「まずは行く」というスタンスで、決して足が速いわけでは無いですが、行くべきところへ出る、それによって周りがボールの雲行きを読めるようになる、という流れを作れていて、それを継続出来るのかというのは気になるポイントだったと思います。


柏の保持は2CBが大きく開いて、その前の2CHのうち白井がヘソの位置にいて土屋はその少し右側にいるというバランスだったかなと思います。特に右CBの犬飼は大きく開いて浦和のプレッシングの矢印が届かない、あるいはその矢印の脇を取れる時には自分で運ぶ、縦にボールをつけるというのを繰り返していたと思います。怪我さえなければ一昨年の浦和でもこういうプレーがもっと観られたのだろうなと観ながら思っていました。

ただ柏は手前で引っ掛かるくらいなら奥へボールを飛ばしてリスク回避するという傾向が強い印象で、浦和が前から来なければ手前から繋ぐ素振りは見せるものの、ある程度寄せてくればそれを裏返すボールを出すことにためらいがなさそうでした。それはSBのポジショニングにも表れていて、右の川口も左のジエゴも手前のビルドアップに関わるよりも浦和の中盤ラインを越えた位置からスタートしてロングボールを入れた時に素早くサポートする、そのまま前に圧力をかけるということを狙っていたのかなと思います。

これらはこれまでの試合でも見られた傾向だったので、浦和の選手たちにもそういうことが事前情報としてあったとか、それが影響していたのかとかは分かりませんが、浦和の方は鳥栖戦で見られたような「まずは行く」というスタンスで試合に入ることはせずミドルゾーンで構えたところから試合に入っていったように見えます。

時間が経つごとに小泉が前に出てチアゴと横並びになったり、前田が古賀の方を覗いたりする場面が出てきましたが、27'45~のように柏のビルドアップでのリサイクルの際に、逆WGの松尾が前に出て行って押し返していきそうな場面で出て行かなかっただけでなく、川口にすんなり脇を取られてボールを越されたのは気になりました。


また、34'03~の柏のビルドアップで古賀→松本→犬飼とボールが動いていくところでも犬飼に対して小泉が出て行きますが、古賀から松本、松本から犬飼にパスが出るタイミングで小泉が前に強く出て行く気配がなく、出て行っても後ろがついてこない(スイッチになれていない)ので白井が小泉についていって、小泉の犬飼に対する切り方に後出しをしてボールを引き取っています。小泉から松本や犬飼の距離は遠かったものの、姿勢として前に出て行く気配があったかというとそうではなかったので、この辺りは東京戦の反省から鳥栖戦で改善された意識づけがまた元に戻ってしまったなという印象を受けました。

小泉の特徴というか、彼がプレッシングで得意なふるまいは全力でガッと寄せることでは無いのですが、今のチームで求められているのは前が一旦ガッと出て後ろについてこさせる振る舞いだろうと思います。そういうところは自分が得意かどうかは一旦脇に置いて実践できる岩尾と序列が変わってしまったことに表れているのかなとも思いました。


浦和の保持vs柏の非保持では柏が味方基準の4-4-2の配置で、2トップと2CHの間のスペースにボールを出来るだけ入れさせず外回り、あるいは対角の距離の遠い(=ボールの移動に時間がかかる)場所への誘導に成功していた印象です。

浦和の方は序盤はグスタフソンが定位置通りヘソの位置でプレーしていたものの、なかなかボールが入って来ず効果的な状況を作れなかったことからグスタフソンがホイブラーテンの脇に下りることが増えていきました。ただ、そうした時にグスタフソンのアクションに合わせた周りのリポジショニングが少なく、人が多くて詰まっただけになるような場面がありました。

これは誰か1人に原因があるということではなく、グスタフソンが動いてヘソの位置に誰もいないままになっていたり、20'45~のようにヘソの位置に小泉が動いたことに加えてグスタフソンに押し出されるように渡邊が前に出てきたのに松尾がそのままの位置にいたり、誰かがそのままの位置に留まり続けてしまいがちで、チーム全体としてのポジション調整が足りなかったという印象です。

20'45~のところをもう少し深堀するのであれば、グスタフソンが左に下りたことで戸嶋ーサヴィオのゲートを使って中央の経路を匂わせることが出来る位置に小泉が入ってきて、渡邊や松尾がグスタフソンに押し出されるように前へ向かって行ける体勢を作れると盤面の状況は変わったかもしれません。


後半はそれまでと比べて小泉が手前に引いてサポートしようとすることが増えて、グスタフソンが下りた時にヘソの位置に入ったり、渡邊がライン際でボールを受けた時に内側でサポートできるようなポジショニングをするようになりました。小泉が手前に引いて柏の2トップとも距離が近くなることで、ホイブラーテンや佐藤に対するプレッシングも少し弱まったように見えました。後列がオープンになったこともあって前線のアクションが出てきて後半の最初の方はロングボールを狙う、あるいは通るという回数が増えたかなと思います。

そこから60分に小泉→中島、前田→大久保の交代をして4-2-3-1の形にしましたが、これはあまり効果が無かったかなと思います。非保持で柏の2CBに対して寄せに行く人をはっきりさせて、ロングボールを入れられた時に2CHが残っている状態にして対応する選手を明確にするとか、保持でグスタフソンの近くに明確に人を置くといったことを狙ったのかなとは思います。

ここで4-2-3-1にするのではなく、小泉よりは敦樹と代えて安居を入れて目指している枠組みの中で別の選手を試すということをしても良かったのではないかと見ながら思っていました。ただ、そこはヘグモさんがチーム内の序列を大事にしているという部分から、IHで敦樹よりも序列の低い小泉を下げて、ベンチメンバーで最も序列の高く、今のチームで最もバグを生める可能性が高いは中島を入れたというのは理解は出来ます。

中島がトップ下に入ると、ビルドアップではグスタフソンの近くまで下りてきてプレーするなどボールを触りに来る傾向があって、この時に敦樹は1列前に出て行ってはいます。ただ、69'15~のようにグスタフソンが中島との関係性がまだつかめていないのか、この2人が近すぎて同サイドで強引に進もうとしてしまっていたかなと思いますし、敦樹が1列前に出ながらさらに奥へ進んでいったり、中島の代わりにトップ下として内側の3レーンを横断するように動いたりということはなかったので、全体として停滞感が強まってしまったように見えました。


72分の柏の得点シーンは浦和が配置を非保持では4-4-2にしていてグスタフソンと敦樹が相手を外レーンに閉じ込めるために出張ったことで中央を埋める人がいなくなってしまった形でした。柏のビルドアップに対してボール保持者をクローズドにする動きが浦和の方が出来ておらず、中島、チアゴの背中で熊坂、白井にボールが渡り、松尾も自分の背中を取られた後のプレスバックが出来ませんでした。

また、サヴィオがクロスを上げるまでのボールの流れが、島村がグスタフソンの方へ運んで白井を空けて、ボールをもらった白井が渡邊に向かって運んで渡邊をロックしたところでサヴィオが渡邊の背中を取っています。これは浦和がキャンプから取り組んできた(昨年のトレーニング映像でもそれに近いものが見受けられましたが)運んで相手にロックさせて次の選手がその相手の背中を取るというプレーをそのままやられてしまったなと思います。

また、島村が白井にボールを渡してからグスタフソンの背中へへ走っていて、ホイブラーテンがそこへのケアでほんの少しですが後ろ向きにエネルギーを使っていたことで、クロスが上がる時には体が浦和ゴールの方を向いています。クロスに対して正対、あるいは前向きな体の角度を作れていればマイナスのクロスはここで弾けたのかもしれません。


失点後に松尾に代えて安居をトップ下に入れて中島を左SHに移したり、敦樹に代えて興梠を入れて安居がCHに下りて前を2トップにしたりしましたが、状況は改善しませんでした。

非保持でブロックを作って構える場合、アクションを起こすタイミングはボールの移動中、つまりパスが出てから次の選手に到達するまでの間です。テンポよくボールが動いた場合、非保持側はボールが動くタイミングでアクションを起こすことになるので、非保持側もまたテンポよくアクションを起こしやすくなります。

柏がこのアクションを怠らず最後まで走れるとなると、浦和の方は単純にパスだけで相手をいなしていくことは難しく、そこで大切なのはパス以外の選択をしてテンポを変えることだと思います。止まったり、ドリブルしたりするということです。4'45~のように石原がボールを受けて相手が寄せてきた時にその矢印を外すように中へ向かってドリブルしていたのが好例です。

この場面はドリブルする石原に敦樹が下りながら近づいてしまったので良い展開が作れませんでしたが、ボール保持者がドリブルで相手を外してオープンになったら周りがリポジショニングしてそのまま全体的に前向きに動いていくことが出来ればもっと違う展開を作っていけると思います。例えば下図のように敦樹が石原からボールを受けられるような体の向きを作りつつ、自分が前向きにターンできるための懐を作りながら前に動いていけると、自分にボールが入った時に一気に前進できますし、そこへ古賀、ジエゴが寄せてくればチアゴ、前田をフリーにしてあげることになるかもしれません。


また、今季浦和がビルドアップでSBを外レーンの手前からスタートさせるのはこうして矢印を出してくる相手と距離を取った状態でボールを受けやすくして、相手の矢印を見てそれを外しながらドリブルが出来るスペースも用意しておくということを狙っていると思っています。先日のLineNewsで配信された石原のインタビューで話していたことがまさにこれですよね。

「キャンプ中からモルテン(カルヴェネス)コーチとマリオ(エドゥアルド チャヴェス)コーチ(兼分析担当)がしっかり教えてくれて。『パスではなく、自分のドリブルで相手を剥がせ』って言われているので。そこは4バックでプレーするようになって身に付いた部分ですね」

試合序盤も途中でボールコントロールに失敗してしまって、挽回しようとしてところでカードをもらってしまったホイブラーテンのドリブルも、その前の局面でサヴィオが外側へ出張っていて小屋松とのゲートがかなり開いた状態だったのでホイブラーテンはそのゲートを使うように進んでいます。小泉にパスを出そうとした瞬間に戸嶋がさっとコースを閉じたところでつっかえてしまったようですが、この場面はもう少しだけ運んで自身が戸嶋にロックさせることが出来ればそこから別の場所が空いて使えたかもしれません。


きちんと守るチームが相手には上手く攻められなかったというのは今のチームのレベルからすると妥当な結果だったのかなと思います。それでも数少ないながらチャンスはあったのでそこで決めてしまったうえで課題と向き合うのが理想ではあるのですが。8試合終わって早くも3敗。憂鬱な週末を迎えてしまいました。ただ、足りないところを仕込もうとしているんだというのは感じるのでそうした部分と結果の折り合いをどうつけるのかは悩ましいところです。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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