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【雑感】2024/5/26 J1-第16節 浦和vs町田

「あいつら1年生のくせになんか調子乗っててムカつくよな」というJ1の先輩たちのヘイトを溜めている町田ですが、彼らの基本にあるのは「余計なことはしない」というか、各選手が技術的に不得手なことはさせず、フットボール的にリスクのあるボールの動かし方をせず、明確にチームとしての狙いどころを定めてあげる、それによって選手たちは迷わないのでプレースピードが上がる、そういう循環によって面を食らってきたチームが続出し、それがさらに町田の選手たちに自信を与えてプレースピードがさらに上がるという状態なのかなと思います。

いくつかの試合を観てきた印象として、町田の保持はダイレクト志向なので2トップにロングボールを当てて相手のプレッシングの勢いを削ぐことが多いですが、ビルドアップでCBやCHから繋ぐこともあります。ただ、下から繋ぐときには中央での相手のMFラインを越えるようなリスクのある縦パスを入れることは少なくて、下からの場合は基本的に手前の中から外、あるいは最初から外から進みながらFWやSHが相手SBの背中やハーフレーン奥へ飛び出していくアクションがほぼ自動化された状態で繰り出されます。

そこで相手がタッチラインにボールを逃がせばロングスローで完全に相手を押し込んだ状態を作るという循環を作ることが多いと思いますし、FKやCKも含めてセットプレーはセカンドボール回収要員のポジショニングが整備されている上でゴール前でも色々なパターンを繰り出してくるので一度このターンに入るとなかなか抜け出せないのでそうこうしているうちに点を取ってしまうというのが鉄板パターンでしょうか。

非保持は4-4-2のゾーンディフェンスをベースにプレッシングの局面ではSHが2トップと並ぶくらいに前に出て4-2-4のような並びになり、前の4枚が立ちはだかることでボールを外回りにさせて、SHの背中にSBやCHが素早くスライドしてきてボールを奪うという順序がハッキリしています。

特にCHは状況に応じてSHの背中に最初から行くか、SBが縦スライドして空いたCBとの間に斜めに下りるかの2択になりますが、「ここだ!」と決めた時には誰よりも鋭く広範囲に動ける柴戸がこのタスクにぴったりなわけです。

柴戸については、少しずつではあるものの、その時の指導者が求めるポジショニングやターンといったものを吸収しながら成長していく姿を温かい目で見てきて、いつか完全体になる日を心待ちにしていたわけですが、今の町田での「そういうの別にしなくていいから、とにかく君が得意な走る、闘う、潰すだけやってくれれば良いから」という要求の中で燦々と輝く柴戸を見るととても複雑な気持ちです。


町田は昨季も傭兵集団のような雰囲気がありましたが、今季に向けてはJ1レベルの傭兵を次々と補強しています。現在のレギュラーメンバーのうち今季からの加入選手が8人ですが、それでも開幕当初から個々のアクションに迷いが無いように見えるのは、先述した通り指導者側が出来るだけ限定した基準を選手に渡しているからではないかと思います。僕がずっと書いてきた言い方をすれば(選手に)「委ねる」よりも(指導者が)「決める」割合がかなり高いということなのでしょう。

そして、この試合では柴戸が契約上の理由で出場できないためCHに下田が入りましたが、それ以外は概ね順当なメンバーだったかなと思います。


浦和の方は怪我人が続出している左WGにソルバッケンが入りました。控えメンバーを見てもWGタイプはいないのでこのポジションで今使えるのは彼だけということと、ロングボールが多用されることを考えると大畑よりは渡邊をSBに置いておきたいということでの起用だったのではないかと思います。

また、トレーニングはフルで参加していたというグスタフソンはベンチスタートで岩尾がアンカーに入りました。町田と同じように4-4-2のゾーンディフェンスをベースにしていた長崎との試合では安居にしろ岩尾にしろ相手の2トップの背中でオープンにボールを持つことが出来ず前進には大いに苦戦していましたが、この試合では岩尾が出来るだけ2トップの背後に留まって4-1-2-3の並びを維持した状態になっていました。


ここ最近チームとして上手く共有出来ているのが、相手が矢印を出してきた時にその脇を通して、相手の背中でボールと合流しながら前を向くというアクションです。グスタフソンがとても上手に行うこのアクションを岩尾もやろうとしていましたし、それによって岩尾が藤尾、オセフンの背中で前向きにボールを持てる回数が何度もありました。

これはアンカーの動き方だけではなくCBのポジショニングも大切で、ショルツもホイブラーテンも出来るだけ相手2トップの正面から外れた位置でボールを受けることで、相手が出す矢印を斜め方向にさせていたことでボールを通せる角度を残せていたと思います。正面を外れているからこそ相手が寄せて来なければ自分が運んでいく可能性も残せます。

また、18分を過ぎたあたりからはCBから岩尾に直接ではなくIHを使って岩尾に届けるパターンも出てきました。IHが岩尾に渡して岩尾がオープンにボールを持てる場面があったのは良かったと思いますし、町田とすれば外回りにさせたいのに内側にボールを何度も入れられるというは今季あまり無かったのではないでしょうか。


ただ、23'40のように岩尾が相手の2トップの背中でオープンにボールを持った時にすぐにボールを放してしまいましたし、29’25~のビルドアップではショルツがオセフンの脇を通して敦樹へ縦パスを通していて、岩尾がオセフンと藤尾の背中で浮いた状態でした。その前の流れで仙頭が安居の近くにいて、敦樹には下田が出てきているので町田の2CHの間は開いています。

この場面では岩尾は敦樹に寄らずに仙頭と下田の間を割り入って行けるようなポジションを取れると良かったのかなと思います。仙頭が素早く間を閉めに来たとしても安居が空くので。結局敦樹は外の石原へボールを渡して、石原からチアゴへ斜めのボールが入りましたが、いったん外を経由して時間がかかったことで町田が自陣でブロックを作れています。

こうして相手2トップの背中でオープンな選手が作れる状況になりながらも、そこからグッと前に出て2CHの間を割り入ってスピードアップするようなアクションが出せなかったのは試合を固くしてしまったのかなと思います。

後述しますが、グスタフソンは自分がオープンで相手のラインを越えられる状況であれば自らグッとドリブルで割り入ってラインを越えてしまって、次に出てきた相手に応じてその後のプレーを選べる上手さがあります。相手の2トップと2CHの間でオープンな選手を作るという点については再現性高く出来るようになっていましたが、その先どうするかというところまではまだ行けていないということなのでしょう。


町田の保持はこれまでの試合と同じようにロングボールをCFに当てたり、SHをSB裏に走らせたりしながらチャンスをうかがうことが多かったですが、そこに対しては浦和の4バックが丁寧に対応できていた印象です。特に両SBは手前に入ってきた時には素早く寄せて突破をさせませんでしたし、裏に走られたとしても先に体を入れてそのままゴールキックにすることで町田に高い位置でのスローインの機会を作らせませんでした。

浦和のプレッシングは、チアゴがアンカー役になる下田を押さえておいて、右は敦樹、左はソルバッケンが前に出ることが多かったかなと思います。敦樹が出るときは中方向へのボールを出させないような矢印の出し方をして初手から外回りを誘導させる、ソルバッケンが出るときはチアゴとの間をボールが通ることはありますが、その奥にいる安居や岩尾が内側から相手に寄せてボールを外へ追い出すという形が出来ていたと思います。

町田が前半で一番ゴールの可能性があったとすれば45'00~の昌子がチアゴー敦樹、安居ー岩尾の2つのゲートを一気に通したパスから、仙頭が藤尾へスルーパスを出したシーンでしょうか。町田は下田がアンカー役になって仙頭は自由にその周辺を動いていたように見えます。これは町田のコーチをやっている金明輝さんが鳥栖の監督時代に仙頭にやらせていたそれとも似たものを感じました。キックが上手い下田がCHに入っているからこそ仙頭がフリーで動きやすかった部分もあったかもしれません。


町田はハーフタイムで左SHの藤本に代えてナサンホを投入しました。非保持で石原に脇を取られていること、FWとの間を通されていること、これらを気にしてそれまでの試合で見られたような4枚で前に並んで圧をかけるというプレーが少なかったことに対するテコ入れだったのかなと想像します。45'55~や46'50~はナサンホが2トップと並ぶ高さで構えていて、前半よりも浦和の選手との距離を詰めた状態からスタートしていたように見えます。

その場所で抜かれたり脇を通されたりすることはあるかもしれませんが、決めた場所へ強く矢印を出すことで次の選手へボールの雲行きを示して動きやすくさせるというのも大切なので、ハーフタイムではそうしたことが改めて強調されたのかなと思います。


そして、50'20~の浦和のゴールキックではオセフンが前半よりもスピードを出して西川まで寄せてすぐにボールを出させて回収に成功しています。この後再び浦和陣内へボールが入って行く流れでプレッシングからボールを奪って平河のゴールまで行き切りました。浦和からすると前半に「割と行けるじゃん」という手ごたえがあったのに後半にガツンと来られてそのまま失点というパターンにまたしてもハマってしまったなという印象です。

ボールを奪われた前田のところがファウルなのかどうかという論点もあると思いますが、その手前の50'50に岩尾と安居が同じ場所(藤尾の矢印の脇)でボールを受けに行っており、岩尾がボールを持てた時に安居が近すぎたのでかなり窮屈になって前田にボールを渡すことになってしまったという経緯も気になります。安居が藤尾の矢印の脇を取るにはちょっと距離があったので、この場面は安居は中央に留まって岩尾から左への逃げ道になれた方が良かったのかなと思います。

ただ、その1分後にビルドアップで石原が内側にドリブルで割って入ったところから安居、岩尾、チアゴと繋がってすぐに同点に追いつけたのは良かったですね。左サイドのスローインを右の石原まで流したところからでしたが、岩尾は石原からのパスを前向きに受けられるように動いた流れで結果的に前半は出来なかったIHよりも前に入ってボールを受ける場面を作ることが出来ました。石原が当たり前のように内側へドリブルをしたからこそ岩尾を前に押し出すことが出来たとも言えそうです。


63分に浦和はソルバッケンと岩尾に代えて酒井とグスタフソンを投入します。おそらくソルバッケンは長くて60分という感じだったのでしょうし、グスタフソンも全体練習に合流したばかりなのでプレーさせるとしても30分程度という算段で、岩尾と酒井も復帰して間もないのでこの4人については予定されていた交代だったのかなと思います。この交代によってグスタフソンはそのままアンカーで、渡邊が1列前に上がる、石原が左SBへ移動、酒井が右SBに入るという並びになりました。

グスタフソンが入ったことで中央から割り入っていく回数は増えていきました。特に84'50~のグスタフソンのスラロームのようなドリブルで50m近く前進したプレーを見ると、自分がオープンであればそのまま行けるところまで進んでしまって、相手が出てきたところで空いた選手を使うプレーが出来るとこれだけスムーズになるのかということが実感できます。

ただ、これがチームの標準装備に出来るかというとそれは簡単ではないというか、出来るようになることが理想ではあるけど、出来るまでの間に発生するミスをどこまで許容できるのかという話になるのかなと思います。


一方で、酒井が右SBに入ったことで特に右からの攻撃は伸るか反るかの丁半博打のような雰囲気になっていきました。70'00~のビルドアップではショルツがオセフンに代わって入っていたミッチェルデュークの脇を通してグスタフソンにボールを渡して、グスタフソンは少し体制がきつくなりながらも下田に対して敦樹と2v1を作った上で敦樹にボールを渡しています。そこから前田にボールが入った時に酒井はまだ距離が遠かった上にジョグで上がって行ったので前田も酒井を待たずに強引な縦パスを入れてボールを失っています。

一方で78'40~は押し込んだ流れで谷のフィードをすぐに回収し、酒井が武田とワンツーで抜け出してクロスを入れています。最初から高い位置でプレーできていればボールと関わって前に出て行けるものの、手前から始まった時にはスタート位置が低い上に上がって行くときにスピードが出せていないのでボールに関われない、そうするとボールに関われるときは前に行き切ってしまっていて、リポジショニングがほとんどされないので周りとのバランスが悪くなって終盤は右サイドからカウンターを受けやすくなってしまいました。

また、入ってすぐの66'50~の非保持では林からナサンホにボールが渡った時に寄せ切れずに剥がされてしまい、その流れでショルツがファウルでイエローカードをもらってしまいました。ショルツがイエローカードをもらった後に町田はエリキを投入し、74分には30秒間で2回ショルツにアフターチャージを見舞っています。うがった見方をするなら1枚カードをもらってるCBにちょっかいをかけてもう1枚出させてしまえという思惑があったのでは?と思えてきますし、割を食ってカードをもらったショルツがカウンター対応でも奔走させられ、その結末として最後にPKを献上してしまった訳で、これは結果論だとは思いますが、とても受け入れがたい思いがあります。

保持で得意な場面をお膳立てされても決定的なプレーが出来ず、非保持の対応ではなかなか強く行けないということであればこの丁半博打は割に合わないなと思いますし、そもそも今のチームの枠組みからして、伸るか反るかしか出来ないのであればSBではなくWGに置いた方がまだ良かったのかなと思いました。ただ、そんな状態の選手をベンチに置かないといけない、WGの控えをベンチに置けないというチーム事情では仕方がなかったのかもしれませんが。そろそろチーム始動から半年が経つので選手たちは現体制でのコンディションの負荷のかけ方に順応してくるのでしょうか。


結果が良い/悪いと内容が良い/悪いの2×2に順番をつけるとした時に、「結果が良い×内容が良い」「結果が悪い×内容が悪い」は誰が順番を付けても最上位と最下位になりますが、「結果が良い×内容が悪い」と「結果が悪い×内容が良い」というのはその人の価値観やチームの状況によってどちらを上にするかは分かれることがあると思います。ただ、この試合については誰が順番を付けたとしても結果が優勢だったのではないかと思います。

昨季あと少しでACL2すら出場圏から外れてしまったのは神戸や広島といった直接その順位を争ったチームに勝ち点3を奪われ、こちらは勝ち点を得られないという試合があったことも大きな要因です。首位チームに、しかもホームで、勝ち点3を渡してしまったのはとても重い事実です。

しかも、試合の内容からすると、勿論100点満点にはまだまだ達していませんが、自分たちが目指してきたプレーがある程度前半から表現できた中で結果を出せなかったのでとても残念です。フットボールそのものを全方位的に上手く出来るように内容を高めていくアプローチをしている今の浦和のスタンスを好意的に見ている僕にとっては、出来ないことは諦めて目の前の結果にがっつりコミットしている相手に対して、内容もある程度ともなった上で負けるというのはショックが大きいです。

次の相手は神戸です。僕が信じている取り組みを続けてもらうには結果も必要なんです。同じようなスタンスの相手に続けて負けてもらっては困ります。次はちゃんと勝とう。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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