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個性にマッチした配置(2021/5/16 G大阪vs浦和)

試合の2日前にG大阪の監督解任があってブースト作用が危惧されましたが、確かにガンバのプレッシングの出足は悪くはなかったものの、適切な論理を構築されてきたわけではないので浦和は前半の決定機を逃さずに仕留めて試合を決めることに成功しました。

これまでのチャンスは作るけども得点にはならなかった展開とは違い、ユンカーというエリア内での質を見せつけることが出来る選手がピタッとハマったことはとても大きいですね。


ゴール前にボールを運ぶまでの展開もガンバの4-4-2の守備に対して、2-3-5あるいは3-2-5の配置を取って高い位置で幅を取れたことが1点目、2点目の大きな要因でした。そして、1点目はCHの柴戸、2点目はCFのユンカーというがセンターラインを担う選手が自分が受けたボールを逆サイドへ展開することでその幅を活かす展開を果たしており、出来るだけ幅をコンパクトにして守りたい4バックの陣形を困らせるプレーになりました。

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柴戸が今季大きく伸びているプレーの一つがボールを受けたらターンしてボールを捌くことが出来るようになっていることです。上図の先制点のシーンでは右サイドから侵入しガンバの守備も浦和から見て右サイドへ寄ろうとしていきます。西から内側にいる柴戸へパスが出ますが、まず柴戸のいる場所が矢島と一美のゲートの奥であったため、ボールの矢印を活かしてターンして左サイドを向きます。

浦和の最前線が5枚にって幅を取る明本にチアゴが引っ張られたことで井手口の脇にスペースが空いており、柴戸がターンしたときに阿部がバックステップでそこへ流れてボールを引き出しています。

狭く守りたい相手に対してボール保持者から離れながらボールを受けて、相手がいない逆側のスペースへボールを流すことで相手の目線を揺さぶることが出来ています。


さらに、阿部がボールを受けたら今度はハーフレーンの武藤がバックステップで阿部から離れる動き、外から明本がハーフレーンの裏へのランニングで奥野に対してハーフレーンの裏のスペースを匂わせて矢印を後ろ向きに出させると、武藤がその逆を突くように下がりながら受けて奥野を外してクロス。

ユンカーを狙ったボールは流れてしまいますが幅担当が逆サイドから絞って詰めるのは今季の約束事で、これまでの試合で関根も西も同様の形からシュートであったりクロスを折り返したりしてきました。そして、この約束事は2点目でも表現されました。


2点目の流れはそもそもスローインからユンカーが逆サイドまで一発で展開したことが素晴らしかったですね。

--2点目につながるサイドチェンジの場面は、いつ逆サイドが空いていることをどのように確認して判断したのか。
あの場面ではスローインの前に逆サイドをチェックしていました。ですので、アキ(明本 考浩)もしくは武藤(雄樹)がボールを受けられる状況が分かっていましたので、ボールが来ればサイドチェンジすることを考えていました。

確かに見返してみるとボールを受ける前に一瞬ちらっと逆サイドの方を見ているようにも見えますが、だからと言ってこぼれてきたボールをトラップせずに一発でピッチを完全に横切るボールを高精度で届けたのには驚きました。

そして、逆サイドで幅を取る明本、逆サイドからのクロスには逆から幅担当が詰めるというチームの約束事が見事に結実。ただ、明本がボールを受けた時のエリア内を見てみると、武藤が一旦ファーサイドに逃げてからニアに入っていくこと動きが結果的に三浦を引き連れることになり、逆サイドから入ってくる田中のためのスペースを作ることに繋がりました。前へ走りながらチラチラ田中達也の方を見ているので、ゴール前への入り方は計算済みだったのでしょうね。

スローインを受けてからスペースへ向かった走り出す田中達也の判断の速さと走力で昌子よりも前に入ったことも良かったですね。「開幕して最初のころはねん挫をキャンプでしてしまったところの痛みがなかなか取れていなかったところもありました」ということの影響があったのか、ここまでなかなか上手くフィットしきれない試合が多かったものの、この試合は1ゴール2アシストと文句なしの出来でした。

今の浦和では純粋な右のウィングプレーヤーというのは田中達也くらいだと思うので、彼のプレーに目途が立つことで内側でもプレーできる関根との使い分けであったり、それによって西をビルドアップ隊に残しやすくなったりとメリットが多いです。


この試合での浦和のビルドアップは西を後ろに残した仙台戦の後半の延長線上にあったと思いますが、これに柴戸という明確なアンカー役、阿部と槙野の柔軟な入れ替わりというエッセンスが追加されています。

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4月頭の鹿島戦以降、保持の配置は2-3-5や3-2-5をベースにしていましたが、仙台戦の前半はこの2-3の部分の配置を選手に委ねる割合が大きかったのか上手くハマらず、後半に西を後ろに残した左上がりの最終ラインと2CHを相手の2トップ-2CHのボックス付近に定位させる形にして武藤と小泉という狭いスペースで上手く振舞える選手に突破の命運を託したような形になりました。

ただ、そのような特定の選手の出来不出来に依存するのは今のチームが目指すところではなく、あれから1週間でリカルドは明確な解を提示してきました。もちろん、これは今チームの中で最もアンカー役を上手く表現できる柴戸が起用できたこともあったと思います。

柴戸をアンカーで固定、左右の幅担当を田中と明本で固定、CFをユンカーで固定することで相手の守備に対して中央と外の二択を突き付け、その狭間で揺れるSHやSBに対してビルドアップ段階では右から西、左から阿部or槙野、突破段階では右が小泉、左が武藤というハーフレーンの2段構えで、ボール保持の回数こそ多くなかったものの、その一発一発の手が効果的に放たれました。

阿部と槙野の2人に流動性があったのは福岡戦で敦樹が槙野の左側に必ず下すのが機能しきらず、仙台戦で槙野が2トップの左脇から前進しようとする意識がきちんと出せていたことが関係しているのかなと思いました。

前に出たりポジションに定位するよりは周りの選手が動いて空けたスペースを埋めたり、出て行きたい場所へ出て行かせてあげるためにその選手の矢印の根元側へ移動したりすることが多い阿部にはこの役割は適していたように思います。

仙台戦の前半はスタートポジションの流動性が高く、お互いがどこに入るかを見合っているうちに相手の早めのプレッシングを受けてしまうような形になりましたが、この試合ではスタートポジションが明確になったため、全体的にポジションを取るのが早くなって相手がプレッシングに出てきたらそれによって空いたスペースを活用することが出来ていたと思います。


前節の仙台もそうでしたが、これは一度はゾーンでブロックを作ろうとしてから人への意識が強いので近くにいる選手の動きに左右されやすいガンバに対してだからこそ、スタートポジションが固定されている選手が多くても機能したとも言えます。例えば福岡のように相手の立ち位置ではなく味方のポジションやアクションを基準に守備をする相手であれば、自分たちのポジションが固定されるほど自分たちが起こせるアクションも制限されるので、これがどの相手にでも通用する最適解かと言えば、そうとも言い切れないとは思います。

ただ、相手によって上手くやる方法を使い分けることは大切ですし、それこそがリカルドの真骨頂だと思います。そのための選手起用、配置の手札が増えたのが良いことであるのは間違いないです。



この試合でのもう1つのトピックとして、浦和が守備時に小泉が2トップの一員、武藤がSHの位置に入っていたことがありました。これについてリカルドは試合後会見で以下のようにコメントしています。

(今日は武藤雄樹選手と小泉佳穂選手の位置を入れ替えたような形だったが、この判断はアビスパ福岡戦とベガルタ仙台戦を見てのことか、それともガンバ大阪への対策という意味があってのことか?)
「これもあらゆる面があります。今回の試合では小泉佳穂のポジションを一つ前に上げてディフェンスすることが良いと思ってそういう判断をしました。武藤に関しても、左はやり慣れていないところはもちろんあるのですが、その中でもしっかりとやってくれましたし、右からのクロスに対して彼がシュートに入っていけるような立ち位置であったり、そういういろいろなところを考えながら起用をしました」

武藤の攻撃時の動きだけでなく、小泉の守備アクションの良さも判断理由と話しており、それがよく分かるシーンが33'25あたりの動きだったと思います。一応図にしましたが、多分DAZNで観返してもらった方が分かりやすいです。

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昌子がボールを持った時に中央でアンカー的に振舞おうとする矢島の方向には通せんぼをする小泉。昌子から井手口にパスが出たら今度は井手口から矢島の方向を通せんぼ。再び昌子、さらに井手口とショートパスが出るたびに矢島へのコースを通せんぼし続け、そうしているうちに柴戸や阿部もどんどん井手口の前から逆方向のコースを塞いでエリアを狭めていき、井手口が外側を向くと小泉がスッと井手口の背中へ近づいてターンが出来ないようにして、そのまま外へ出て行ってもらいました。

素早いスプリントやガツンと相手を潰しに行くアクションではありませんが、このシーンのようにボールが自分たちから見て右寄りにあるならば、逆側には出て行かないように通せんぼします。相手とすれば強いプレッシャーがあるわけではないので進める方向へ進んでいくのですが、その先には守備の網が待っているといういわば追い込み漁のような手法が小泉は非常に上手いです。

ガンバがボールを持つことは出来るものの、なかなか浦和の守備組織の内側へボールを刺し込むことが出来なかったのは浦和のブロックのコンパクトさに加えて、この小泉の追い方の影響があったのだろうと思います。


前半で3点リードしたこともあって後半はガンバの方もなんとかしないとということで前のめりな気持ちだったとは思いますし、浦和の方もちょっと落ち着いてしまったのかなと。出来れば後半も60分くらいになるまでに追加点を取って相手のメンタルをへし折るくらいのことが出来ると良いなと思いますが、ユンカーと小泉を早い時間で下げたように、絶対に勝利が求められる水曜日のルヴァン杯横浜FC戦へ向けての疲労のコントロールというのもリカルドがコメントしていましたし、今はこれだけ余裕を持つ展開に出来たという満足感が勝ってしまったのかもしれません。


さて、中2日で迎える横浜FC戦はリカルド体制で初めて必ず結果が求められる試合になりました。ここまで横浜FCとは2戦2勝なので良いイメージではありますが、とにかく結果というプレッシャーがどのように作用するのかというのは気になるところです。

ザイオンがリーグ戦で2戦続けて起用されていますが、となるとルヴァン杯要員が西川になるのでしょうか。デンや工藤の出場機会も気になりますし、練習レポートでは別メニュー調整の選手がいないとのことなので、徳島戦で負傷した武田なんかもこのあたりで試合に絡めてくるのだろうかと色々想像されます。このあたりは楽しみにして水曜日を待ちたいと思います。若手の出場機会を確保するためにもしっかり勝ち上がってもらいましょう。

今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

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