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【雑感】2024/6/1 J1-第17節 浦和vs神戸

前節の町田に続いて自分たちの得意としないことは深追いしないスタンスのチームとの対戦になりました。

神戸は保持は基本的にはダイレクト志向で、CBがボールを持ったら繋ぐよりも前線のどこかへロングボールを入れることが多いです。CFの大迫は手前に下りたりサイドに流れたりすることがありますが、WGは外、内どちらのレーンにいるかは状況次第なものの、自分の担当エリアを大きく外れることは少ないです。

中盤の3枚は6番(扇原)、8番(山口)、10番(宮代、井出)と三者三様の役割で構成されていますが、このうちの8番と10番も手前に下りずに前眼にポジションを取るので、SBはビルドアップに関わるよりもロングボールのこぼれ球が拾えるポジションでスタートしていることも含めて、そこでこぼれ球を拾えれば一気に前へスピードアップしたり、逆サイドの奥までボールをさらに飛ばして、クロスを上げてゴール前でのスクランブル状態を作るというのが彼らの鉄板パターンかなと思います。

基本的にはダイレクト志向で縦に速いこと、崩すならポケットをえぐりに行く程度で大半はクロスを入れてゴール前でのスクランブル状態を作ろうとすること、左サイドでは高い位置でスローインが取れた場合に初瀬のロングスローがあること、このあたりからして、町田と近いキャラクターだと言って良いと思います。ただ、SBは状況に応じて手前からスタートしてビルドアップに関わることもあって、この辺りは酒井や初瀬の個人スキルに委ねられているのかなとも思います。

また、非保持では保持で10番ポジションを担当する選手とCF(大迫)が2トップになる4-4-2の形がベースですが、WGがどちらも早めに前を覗こうとするので4-2-4のような状態になることが多いです。このスタンスも町田と近い。そして、中盤のうち特に山口の可動域が広く、2トップの背中、WGの背中、SBの脇に向かって状況に応じて「ここだ!」と決めたら一気に潰しに出ていけるのが大きな強みですし、町田での柴戸に近いように思います。

なので、予習した感じでは「スタンスとしては町田と同じような感じだが、選手個々のレベルは町田よりも高いので少しできることの幅が広い」という印象を持ちました。


これまでの試合では基本的ダイレクト志向でしたし、この試合でもキックオフを6番の扇原が蹴って一気に大迫まで飛ばしてコーナーキックを獲得しましたが、それ以降は基本的には前へ飛ばすのではなく外切りで寄せてくる浦和のWGの頭上や脇からSBへ届けて前進の足掛かりにしていました。

神戸の先制点までの流れがまさにこの形からで、14'25~は手前に下りてきた井出が前田の脇を通して外側にいる初瀬へボールを届けて、そこから初瀬が40m近くドリブルで持ち上がって前進したところからでした。左から2回、右から1回のクロスの末にこぼれ球を井出が押し込んでいます。

さらに、17'58~は前川が前田の頭上を通して初瀬へ、19'15~は前川がソルバッケンの頭上を通して酒井へと渡しています。そして、初瀬に対しては井出が、酒井に対しては山口が近くでサポートに入っており、神戸がチームとして今日は簡単にはロングボールを入れないというスタンスでした。それでも前進するのは外側からが大半でゾーン2でそのまま外へ進むか、対角まで一気に飛ばして行くかという形でした。ゾーン2で中央付近を使うのは大迫がポストする時くらいだったかなと思います。

神戸のスタメンは前節から3人代わりましたが、この試合の「10番」が大迫を追い越して前に出て行くタイプである宮代ではなく井出だったのはこうしてIHがSBのサポートをするということが主眼にあったからなのかなと思いましたし、前からからボールを受けた時のボール扱いは本多よりも初瀬の方が上手いので特にこの2人についてはこの試合でやりたいことに合致した人選だったのかなと思います。

神戸としては早々にボールを放り込んでこぼれ球を拾えなかった場合、浦和のビルドアップがスタートする位置はゾーン2の手前くらいになるので、それよりも出来るだけ深い位置から浦和の保持を開始させたかったのかもしれません。単純に浦和の4-5-1の非保持は空いている場所は分かりやすいので、今日はそこをとにかく狙うことにして判断をショートカットした可能性もありますが。


浦和はスタメンは前節から継続で、アンカーが岩尾、IHに安居、左WGがソルバッケンという並びでした。町田戦は満点ではないものの、CBから直接、あるいはIHを経由して岩尾が前を向けるような形でボールを動かせていましたが、この試合の前半は神戸が大迫と井出で岩尾を消しながらCBへ寄せるスピードが速く、それによって岩尾がなかなか自分が上手くボールを受けられる場所が見つけられなかったのでボールサイドへどんどん動いていって窮屈になってしまったのかなと思います。

11'00~のビルドアップではショルツが自分に寄せてきた大迫の脇を通したいような素振りをした時に岩尾がボールサイドへ行けなかった分、ホイブラーテンの方から進もうとしたときにボールサイドへ寄っていて、それによって渡邊が中方向を向いたときに割って入って行けそうなスペースに岩尾がいる状態になってしまいました。

また、22'57~はオープンになったホイブラーテンが運んで持ち上がっていきますが、岩尾がホイブラーテンの進路に寄っていったことで岩尾と並走する井出がホイブラーテンとの間に立ち続けることが出来ていたため、ホイブラーテンが運んでもどんどん前が窮屈になってしまっています。


前半は保持でかなり窮屈な展開が続いた浦和はハーフタイムで岩尾と前田に代えてグスタフソンと中島を投入し、ソルバッケンを右サイドへ移動させたことで試合を一変させます。

まず、岩尾とグスタフソンのサポートの仕方の違いが分かりやすかった例として48'00~を切り取ってみます。ショルツから石原へボールが渡った時に石原は背中から佐々木にガッツリ寄せられていますが、グスタフソンは石原の視界ではなく、むしろ視界から外れていく方向へ動いていきます。石原は寄せられながらもこらえてホイブラーテンへパスを出していますが、グスタフソンが石原の逃げる方向へ寄らなかったことで、石原にはパスで逃げるだけでなく、自分で佐々木と大迫の間に割って入るドリブルで回避する可能性も残っていたと思います。

そして、この後には中島が自陣からドリブルで持ち上がったり、相手の中へ割って入ることで神戸陣内へ押し込めるようになり、左からは中島、右からはソルバッケンが内側にカットインするようにドリブルをして常に中を匂わせつつ、相手がそちらに意識を向いたら逆を突くことが出来ていました。後半の冒頭から押し込む展開を作った中で60'15~に神戸のゴールキックから始まった浦和の同点ゴールまでの流れは後半に流れを変えたグスタフソン、ソルバッケン、中島の3人が絡んだ見事な流れでした。

こぼれ球の拾い合いの中で渡邊がボールを持った時にグスタフソンは近づかずに武藤ー大迫のゲート奥で待ち構えています。渡邊は前にいた中島へのパスを選択してこれが山口に引っ掛かりますが、内側にいたグスタフソンのもとへボールがこぼれてきます。グスタフソンの元にこぼれてきたというだけでなく、仮に山口がボールをコントロールしていても山口とゴールの間に立ちはだかることが出来るのでそこで時間を稼げた可能性も大いにあったと思います。

グスタフソンがボールを拾うとすぐさまターンして広い方にいる敦樹へボールを展開し一気にスピードアップします。逆サイドの大外にいたソルバッケンまでボールが渡ると、ソルバッケンがゴール方向へドリブルをしていきます。利き足が相手から遠い方になったことに加えて、初瀬と近ければ自陣方向へ膨らんで距離を取り、初瀬が離れれば相手ゴール方向へ向き直すことで常にボールが隠れずに相手ゴールへ向かう可能性を突き付け続けています。

尚且つ60%くらいのスピード感でドリブルしていることで自分のプレーを安定させながらなので、神戸の選手たちからすれば迂闊に飛び込めないし、だからと言ってそのまま放置すればゴールを脅かされるという状態になっていたと思います。そして、扇原がソルバッケンに食いついた瞬間に中島が扇原から離れるように脇のスペースへ動き直し、ソルバッケンもその瞬間に中島へ丁寧にパスを出して見事な同点ゴールになりました。


同点になった後には神戸のプレッシングが少し変化が出たのかなと思います。それまでは2トップが2CB+アンカーを見るという形でしたが、63'15~の浦和のビルドアップでは大迫が佐々木に対して「ショルツまで出ろ!」というような素振りをしており、西川からホイブラーテンへパスが出たところには武藤が縦スライドして寄せています。68'10~のビルドアップでは佐々木に代わって入った広瀬がショルツを覗いているのでチームとしてやり方を変更したのだろうと思います。

これによって神戸が形勢を取り戻し、さらに69'25~は前半と同様に前川が中島の頭上を通して酒井までボールを渡して前進しており、神戸に試合の流れが戻るかと思いましたが、71'00にクロスを西川がキャッチするとショルツがグイグイとボールを運んで陣地を回復しコーナーキックを獲得するところまで行ったことでそれを引き留めています。

さらに、75'40~はクロスを西川がキャッチすると、外開いたショルツへボールを渡し、ショルツに出てきた広瀬の背中でグスタフソンがボールと合流し、そこへ出てきた扇原の背中で敦樹がボールと合流し、という縦パス2本で神戸陣内へ侵入すると、そこからサイドチェンジで中島へボールが渡ると、中島が酒井に向かって突っ掛けて、酒井の身体が完全に内向きになった瞬間にその背中を通して抜け出したチアゴに渡してシュートシーンを作りました。

後半の勢いはグスタフソン、中島の投入とソルバッケンが右サイドに回ったことが大きかったと思いますが、その効果が出る前に、キックオフ直後のプレーでチアゴへのロングボールを拾った敦樹がミドルシュートを打ち、その際にマテウス・トゥーレルがアフターチャージによるファウルがあったことでペナルティエリアのすぐ近くでFKを獲得したことが「後半は行くぞ!」というテンションに火をつけたような気がします。

そして、それに呼応するようなスタジアムの雰囲気がとても良かっただけに、同点に追いつき、神戸が少し変化を入れてきた中でも後半は浦和が優勢な展開が続いた中でもう一押ししきれずに引き分けで終わってしまったのは残念でした。


スタジアムの雰囲気で言うと、試合前やハーフタイムに指定席へゴール裏のサポーターグループの青年たちが、俺たちで勝たせたいんだ、そういう姿勢を選手たちに示したいんだ、という想いを手分けして伝えに回っていて、特に前節の町田戦からは前半も後半も入ってくる選手を立ち上がって迎えようという流れになっていました。

勿論、彼らが声を掛けて回った時には席にいなかった人もいましたが、周りが立ち上がって拍手を送れば自然とそれが全体へ伝播していっていました。昨年のACL決勝で感じたようなスタジアム総ゴール裏みたいな、とびっきりの熱量のある空間が、なかなかチームの結果が出ていないリーグ戦の段階で創生されていくのはその場にいて滾るものがあります。

それは多分、結果とは別に、オープンなら前に運ぶというプレーがビルドアップ隊にも増えて来ていることが好意的に捉えられていることもあるのかなと想像します。元々ドリブラーをとても好んできたし、そういう選手がチームの核にいたクラブだったからなのか、どこかが空くのを待つようにパスだけを行うのではなく、空けるためにパスだけでなくドリブルも入れるという選択が「それぞれが闘っている」という見え方になっているのかもしれないし、それが今季はほぼ毎試合ゴールを取れているという結果に現れているのが大きいのかもしれません。

ドリブルは仕掛けるためだけのものではないですが、ドリブルという行為そのものを好む傾向にあるスタンドの雰囲気は今のチームがやりたいことにマッチしていけるかもしれないと感じますし、ゴールは取れているという事実が自信となって、たとえ失点してもファイティングポーズを取り続ける力になっているのかもしれません。かつて大槻さんが堀さんの解任後に指揮を取った際に選手たちに話した言葉が正に今の埼スタに現れようとしている気がしています。

仙台戦の前にも選手たちに言いました。
勝っていても負けていても同点でも、どんなに苦しい状態でも戦いなさい、走りなさい。そうすれば、この埼玉スタジアムは絶対に我々の味方になってくれる。そういう姿勢を見せずして、応援してもらおうと思うのは間違っている。ファン・サポーターのみなさんは、選手たちが戦うところを見に来ているし、浦和レッズのために何かをやってくれるところを見に来ている。埼スタが熱く応援してくれているのは、我々が戦っている証だ、それだけは絶対に忘れてはいけない、と。

2018年のMDPより抜粋


結果が出ないのはもどかしいしめちゃくちゃ悔しいです。その上でこれを言うのは今の時点では負け惜しみみたいに聞こえると思いますが、間違いなく選手たちはこの半年で成長しているし、もっと勝てるチームになって来ていると思います。だから「ブレずに」続けていけるプレーに対するサポートをスタジアム全体がこれからもしていけたら良いですし、こうして埼玉スタジアムが味方になってくれている間にきちんと結果もつけていって、多くの人が心からチームを信じられる状態になると良いなと思います。

前半と後半の比較で岩尾とグスタフソンを取り上げましたが、岩尾も昨季までと比べて簡単に下りないことや、相手の背中でボールと合流するといったチームとして求められているプレーが出来るようになってきています。ただ、彼のこれまでのインタビュー等での発言を見る限りは要領良くすぐに飲み込めるというタイプではなく、むしろどちらかと言えば不器用な人なのだろうと思います。ただ、自分に足りないことを認め、自分に矢印を向けている人だからこそ、多くの人が望むスピードでは無いかもしれませんが着実に成長していると思っています。

グスタフソンという明確な上位互換を補強されてキャンプでBチームになりましたが、Bチームになった選手の中で最初に試合に絡めるようになったのは岩尾でした。

指導者がどんな声掛けをしても試合に出られない選手は自分の状況に不満を持つでしょうし、それをトレーニングへの情熱へ昇華させるのか、違う方向で発散されてしまうのかは選手自身のセルフマネジメントによる部分が大きいと思います。

そうした時に歯止めになるのは同じ境遇の人がどれだけ頑張っているかなのかなと。人は良くも悪くも周りに影響を受けます。周りがだらけている中でも自分を律していられる人は少数派だと思っています。今季は積極的に実力者を補強しており、そもそも浦和は選手を育てるよりも実績のある選手を連れてくる比率の方が高いクラブです。そういった選手が試合に出られない時にどれだけ強く振舞うことが出来るのかは未知数です。

大抵の人は自分と違う立場の人よりも同じような立場の人のことを気にすると思うので、サブ組になってしまう選手の中で出来るだけ落伍者を出さないように、サブ組の選手の中にも成長する意欲、学ぶ姿勢を貫ける選手が必要です。

【雑感】2024シーズン開幕に向けて

開幕前に書いた文章の中で以下のように書きましたが、正に今のチームでそれを体現していることが外からも見えるのは岩尾だと思います。僕が彼を好きだから贔屓目になっているだけかもしれませんが、ここからもまた彼は成長してチームの大事なピースを担える試合があると思いますし、他の選手たちにも好影響を与えてくれると思います。

ここから代表ウィークで2週間空きますが、ここでさらにチームのスキルも個々のスキルも積み上げて巻き返していけることを期待したいと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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