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総裁選:野田聖子評

もう終わってしまったし,今どきの政治家の文言など批評の対象にすると笑われるのだろうが,やってみた.

● 評価対象1名

候補者4名の内,野田とした.対象の文書は9月の出馬宣言後のオフィシャルサイトのもの.
http://www.noda-seiko.gr.jp/

その理由.

岸田は分かり切っているので,評するまでも無い.
河野は,異端者などと言われているが,世間の感覚からあっさり言えば発達障害風なので対象外(発達障害なるものは誰でもそういう側面を持つものだろうが,彼は目立ち過ぎる.そんなモノが政治家一国のリーダーなど考えたくもない.トランプの方がマシ).
高市は,戦略的にアピールする対象を絞っているので,その対象外の者にとってはこれまた評価の対象外になる.
それで残るは野田のみ.

低評価であるが,相対的に1番劣等という意味では無い.

● 評価と自戒

読み易く,ある意味良く書かれている.他の者が,短期的で或る意味無責任なスローガンでしかないのに比べると,中期的に重要な問題を取り上げている.しかし,実質内容無しかも.「子ども対策」を中心にしてはいるが,良くも悪くもか,テーマの違いを抜きにしても高市ほど絞っていないし,真剣味に欠ける.

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そして,自戒の念を覚えながら思い出すことがある.もし,中高生の頃社会の時間にレポートを書かせられたら,こういう種類のものを書いただろうと.恥ずかしい.よく見れば,スローガン・呪文の世界.

次いでに思うこと,日本の中高生に対する社会科教育のお粗末さ.この時代を思い出せば皆そう思うだろう.日本の政治家・被選挙者のお粗末さだけでなく選挙者の票数の不思議さの一因はここだろう.結局のところ誰に入れて良いか判らない.

私の場合は追加がある.高二の時の担任が社会科の先生でクラス皆んな仲良くさせてもらった.1つだけ具体的な社会常識のアドバイスを頂き,それを皆んな無視したことを思い出す.理解できなかったからだ.逆に言えば,それを理解できるような社会科教育ではなかったということ.思い出せば,中等教育で一番意味のない科目の一つは社会科.

さて,内容に入る.


□ 総論

オフィシャルサイト冒頭の部分(その後各論でパラダイムシフト1~6へと続く)

最初の標語

> だれもが「分かる」政治を
> 国民一人ひとりが安心できる持続可能な社会
> 「政治」の力で多様性社会というパラダイムシフトを加速

要するに,

【だれもが分かる,安心できる持続可能な多様性社会のために,パラダイムシフトを!】

ということ.
従って,

「だれもが分かる」
「安心できる持続可能」
「多様性社会」
「パラダイムシフト」

について

《言葉が誠実で,政策指針が妥当な分析に基づいた対応策に続くか否か》

で評価が決まる.


サブタイトルが3つ続く

> 「異なる正義」があることを互いに認める「多様性社会」を目指す
> パラダイムシフトは世代交代、誰にも止められない
> 不利益・不自由を被る人々を立法の力で救う

最初の2つで,多様性社会とパラダイムシフトの,かなり強引で軽い定義を行い,最後の項目でその実践は,

時代の変化に追いついていないルールや慣例によって、不自由な思いをする人や不利益を被る人が増えているので,
法律を時代にそぐうように改正し、新しく整備することで、社会の中で悩み、苦しんでいる人たちに手を差し伸べる。立法でパラダイムシフトを後押ししていく

とのこと.

● 印象と気になること

ここまでの印象.当たり前すぎる.しかも,「多様性」という流行語は気を引くために使っただけか.それと「パラダイムシフト」や「持続可能」という重い言葉を入れる必然性無し.今や政治家の言葉のレベルはこんなものか.

特に気になる事.

「異なる正義」があることを互いに認めることが「多様性社会」ではない.社会である以上,妥協・調整された共通の正義迄辿り着かないと意味が無い.政治家ならせめてその道筋の提案が必要.

「パラダイムシフトは世代交代」.乱暴.その線で行くと野田の年齢は当然交代されるべき世代だろう.既に賞味期限の切れてるかもしれない流行語をバズワードとしてしか使えないのではその頭は金属疲労の疑い.


□ 各論パラダイムシフト

ここの表題あるいはキーワードは,他の自民党総裁候補者と違い,現実の国民生活に沿った今必要な論点を含んでいる.例えば,

政治家の原点,有権者代表,有権者目線のプロ,お客様相談窓口
人口減少は有事,子ども庁,子どもへの投資は最強の成長戦略
ワーキングマザー,障害児,選択的夫婦別姓,明治の価値観≠日本古来の伝統,

確かにその通り.しかし,残念ながら,政治家本来としての誠実さ・真剣さに欠くのではないかという印象が文書の端々からも見えてくる.

● 1 「議員定数削減」!

これによって,政治家の原点,「有権者目線のプロ」「お客様相談窓口」になるべき.
議員定数削減つまり少数になることによって,

「働きぶり、政治とカネの問題、そして平時の言動もこれまで以上に厳しくチェックされて…、自ずと議員側もこれまで以上に自身の言動に気を付けるようになって、「自分は有権者の代表なのだ」と肝に銘じます」
政治家とは有権者が望んでいる社会を実現、不便に感じていることや苦しんでいることなどを解消するため、期間限定で選ばれた立場にすぎません。ですから、…有権者の感覚、生活臭、一般市民の苦しみや悩みを共に感じることができる「有権者目線のプロ」であるべきだと考えます。議員定数削減で、この「原点」に立ち戻ることができます。
政治家は「お客様相談窓口」であるべき

「政治家が「原点」にしっかりと立ち戻ることができるために,議員定数削減とのこと.

「議員定数削減」はもっともである.人口が減るのだからそれに応じて削減するのが当然.しかし,それを実現するために,国会決議の前にどうするのか? 総理になって圧力をかけるのか? 3権分離のはずだが.

なお,これによって,政治家の原点,「有権者目線のプロ」「お客様相談窓口」になるかどうかは別の問題.「自ずと議員側もこれまで以上に自身の言動に気を付けるようになって、「自分は有権者の代表なのだ」と肝に銘じます」はあり得ないだろう.野田聖子はそんなにナイーブだったのか.

また,議員立法が肝心なのも言うまでもない.以下の引用の「大仕事」まではその通り.しかし,それに必要なものは,一にも二にも三にも熱意と使命.しかし,議員定数削減とは関係あるまい.ましてや「熟練のテクニックや知見」はどの世界でもルーティンワークのレベル.それさえ知らないのだろうか.

政治家本来の仕事といえば、やはり「立法」です。情報を収集・整理して、議論 を重ねて法案をつくってそれを国会に通すというのは、実は非常に時間のかかる大仕事です。これをスムーズに進められるようになるには熟練のテクニックや知見が必要になってきます。議員定数削減で政治家がストイックになることで、これらのスキルにさらに磨きがかかることが期待されます。

「議員定数削減で政治家がストイックになる」とは多分誰も思っていないだろう.さらに「これらのスキルにさらに磨きがかかる」かどうか.最後に「期待されます」で逃げるのではタヌキか.

● 2「日本初の女性内閣総理大臣」で社会の意識を一気に変える

50歳の時に出産した子どもがまだ10歳なので、一般企業で働く30~40代のワーキングマザーと同じ日常を送っている

「一般企業で働く30~40代のワーキングマザーと同じ日常」を送っている….しかし,野田氏の場合と世間で言う「ワーキングマザー」とは【環境が違う】と誰でも思うのでは.

マイノリティと呼ばれる人たちの気持ちも「当事者」として理解できます。…体外受精で子どもを授かっています…また、息子は障害を抱えており、日常生活に医療機器を必要とする「医療的ケア児」です。障害を抱えている方やご家族の苦労やお悩みは、実体験として理解しているつもりです。今も自民党幹事長代行室から、息子の三者面談に行ったり、病院に呼び出されたりという忙しい日々を送っています。このように多種多様な人々の痛みや苦しみを理解できる私だからこそできる政治がある、と考えています。そして、だからこそ「日本初の女性総理」を目指しています。多様性社会へ向けたパラダイムシフトは、「多様性を象徴する政治家」である私に与えられた使命だと考えています。

「多様性を象徴する政治家」の使命?
「実体験として理解しているつもり」
「多種多様な人々の痛みや苦しみを理解できる」

「つもり」がどういう意味か次第で内容が変わる.

息子が体外受精児で障害有りで病院生活.しかし,現実に世話・介護をしているわけではないだろうし,時々の呼び出しや三者面談程度と伺える.それすら縁の無い代議士よりは現実に近い立場にいると言えるとしても….その体験で「多様性」とはバズワード使いもいいところだろう.なお,国会議員を「マイノリティ」とは言わないし,「当事者」として理解できるとは,少なくとも厚かましい言い方であろう.

で,「使命」とは何か?

障害を抱える体外受精児を持つ現実のワーキングマザーに,「時々の呼び出しや三者面談程度」で済む程度の者の使命とは何か? 要するにその程度の背後に隠れた労働の値としての費用の額の補助金を一律出す政策を立案・実行する覚悟があるのか? 言い換えれば,野田氏と一般の該当ワーキングマザーの収入格差×人数分の計算をして予算・立案したことがあるのか? そこをすっ飛ばして「日本初の女性総理」を目指すのか? 女性とは何か,当事者として理解とは何か….

● 3「明治の価値観」を立法の力でアップデートしていく

現在の日本の法律はほとんど、明治時代の法律の「上書き」で…明治の価値観に基づいてつくられていますので、令和の日本で運用し続けていくと、必ず矛盾や盲点が生じてしまいます。…法を変えていくことで、不利益や不自由を被る人に手を差し伸べるのです。

具体的には
「明治の価値観=日本古来の伝統」ではない
「夫婦同姓」は明治にできたルール時代が変わったのだから「別姓」も認めるべき
との主張.

それはそれとしても,「明治の価値観=日本古来の伝統」とまで範囲を広げるならば,随分前から家族が崩壊している,この現実に対して「夫婦別姓」だけしかビジョンが無いのだろうか?

● 4「痛み」は我慢してはいけない時代へ

2,300万人を法の力で救いたい「慢性の痛み対策議員連盟」が目指すもの
「痛みの我慢」で経済損失2兆円「慢性疼痛」対策は生産性向上にも貢献

これらの人々が適切な治療を受けるための法的な後押しや、総合的に相談できる「痛みセンター」の設置拡大などを目指しています。
「慢性疼痛」は当事者だけではなく、社会全体にも大きなマイナスをもたらします。成人の2 割が痛みに苦しみ、ストレスを抱えているので、仕事や家事などの効率が悪くなり、生産性も下がります。実際、「慢性疼痛」に関わる医療費と生産性でみた場合の疾病コストを試算した ところ、経済損失が1兆 9,530 億円にものぼるという報告もあるほどなのです。「痛み」の 法整備は、生産性向上にも大きく貢献するのです。

法的,箱モノだけでなく,いわゆる「働き方改革」の中でも具体的に労働環境(精神的なものも含めて)の改善・正常化に向けて具体的な議論が必要.

● 5 人口減少は女性活躍ではなく「安全保障」の問題として捉える

悪文の見本.キーワード「人口減少」「女性活躍」「安全保障」等を並べているだけ.繋ぎが乱暴だけでなく,個別の対策の緒くらい示すべき.

人口減少は国家有事、毎年、鳥取県と同じ人口が消えていく国民にのしかかる「三重苦」,減少する安全保障,マンパワー自衛隊員は 30 年で1割減少「定員割れ」も常態化

その通り.だが,「人口減少」と「国家有事」を並べたのが目立つだけ.

日本は人口減少が大きな問題…そこで、これまでさまざまな少子化対策…若い男女の結婚や出産をサポートする取り組みや、男性の育児参加を促し、女性が働きながら出産や育児ができるような環境を整えようとしています。
人口減少というのを「実感」する…「毎年、鳥取県の人口が消える」…日本では2020年の1年間で約54万の人口が減っており、これはほぼ鳥取県の人口と同じ。これが進行していくと、労働人口が減るので、企業の競争力が低下…また、消費者も減るので日本経済を支える内需が冷え込み、そして税収も減り…行政サービスの縮小や、社会保障の負担増…この「三重苦」だけでも国家有事
さらに深刻なダメージを受けるのが安全保障…人口が減少していくということは、自衛隊、海上保安庁、警察、消防という国民の生命・ 財産を守り、国の安全保障を担っている組織のマンパワーも減少していく…自衛隊員は 1990 年に 24.6 万人いましたが、2020 年には22.7万人まで減少…今後も「定員割れ」は続く…全国の消防団も、2002 年には 93.7 万人でしたが、2020 年には 81.8 万人まで減っています。

その通り.で,どうするのか? 政策は? と思えば,

内閣府の世論調査で人口減少について質問をしたところ「増加するように努力すべき」との回答は33.1%にとどまり、残り6割は半ばこの状況を受け入れつつある…安全保障が脅かされている時に「あきらめる」という選択はありません。「現実」にしっかりと向き合って、できるかぎりの対策をとるのが当然です。人口減少も同じように捉えるべきだと私は考えています。

総裁候補が「安全保障が脅かされている時に「あきらめる」という選択はありません。…人口減少も同じように捉えるべきだと私は考えています」では,お仕事は何をしているの? で,終わり.従来の政策の問題点を洗い出し,実効性のある具体的な政策を考えるのが仕事でしょう.

● 6「子ども対策」は福祉から「最強の成長戦略」へ

「子ども庁」を設立「子どもへの投資」をする国は出生率が上がり,「子どもの教育」への投資は100%リターンのある「最強の成長戦略」との主張.それが必要な状況を示すデータとして,日本では約280万人の子どもが貧困状態,「生活満足度」も38カ国中37位,「子どもの貧困」を放置すると42兆円の損失の数字を提示.

人口減少を解決していくため、私は「子ども対策」に力を入れていくべきだと考えています。 OECDのデータでは、子どもに対して社会がどれだけお金を出しているのかという「家族関係社会支出」の割合が高い国であればあるほど、子どもの貧困率がさがり、出生率も上がって いく傾向があります。国が積極的に「子ども」に対して投資をして、「子どもが幸せな社会」 を実現すると、人口減少は解決できるのです.そこで、まずは「子ども庁」を設立して、子どもを生み育てやすい環境整備をワンストップで進めていきます。財源は「子ども債」を発行し、「子ども=社会共通の資源」という理解を広 めていきます。

良い作文です.先ずは,「子どもを生み育てやすい環境整備をワンストップで進め」る具体的な計画次第.総裁選に出る前に,その程度は,例えば2万字程度のアジェンダを出すべき.それで初めて評価の第一段階.スローガンしか無いと,要するにパラダイムシフトのための最初の小さな聖火・松明にすらない.

では、日本の「現状」はどうかというと、かなり厳しい。OECDによれば、日本の子どもの貧困率は14%。7人に1人、およそ280万人相当が貧困状態にあり、虐待 や十分な医療を受けていない恐れ。また、ユニセフが38カ国の子どもの「生活満 足度」を調査したところ、先進国が概ね70%以上のところ、日本は62%で37番目。
「子どもが幸せな社会」を実現していくことは人口減少の解決だけではなく、日本経済の成長にも繋がる…貧困が解消されて、しっかりとした教育を受けることができれば、立派に成長した子どもたちが日本経済を回してくれます。逆に、貧困のままだと教育機会が奪われ、経済にも悪影響を及ぼす…あるシンクタンクによると、日本社会が子どもの貧困を放置したところ、成長した子どもの生涯所得が42.9兆円も減少をするという試算も。
私が「子どもへの投資」に力を入れるべきと主張するのは、これが100%社会にリターンのある投資だ…。公共事業やデジタル分野などへの投資は、時に「効果が思ったほど大きくない」…しかし、子どもへの投資はそのような空振りがありません。子どもは必ず成長して社会の中核をなす世代になってくれるから。「子ども対策」と聞くと、「福祉」のイメージを抱くでしょうが、実は…成長戦略における根幹をなす極めて重要な政策。

その通り.しかし,他でも記したが,具体策のカケラくらいはほしい.

新しい日本のパラダイムシフトは、まずは私たちの「子ども」に対する意識を変えていくことから 始まるのです。

誰に対して言っているのだろうか? 明治頭にアメリカン・コラコーラ注ぎの爺さんに対して,意識改革お願いをしているのだろうか? ワーキングマザーのかなり多数を占めるであろうコロナ禍の中の困窮家庭は対象外なのだろうか? 短期的には関係無い人たちの意識ではなく,関係する「子ども」と「ワーキングマザー」に対するお金の問題.

□ 最終評価

最初の総論に対して,
「言葉が誠実で,政策指針が妥当な分析に基づいた対応策に続くか否か
で評価が決まる」と書いた.結論は.

指針はもっともなものもあるが,残念だが,言葉がバズワードの類い,対応策はスローガンの類い.安倍のミックスは3本目の矢が存在しなかったが,野田指針は1本目しかないのだろうか.

以上.

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