カメラを止めるな2

「カメラを止めるな!」に見る三谷幸喜”愛”【ネタバレ】

映画「カメラを止めるな!」が私が住む香川でもようやく公開されたので観てきました。公開当初はたった2館での上映だったのが、SNSなどで絶賛の声がひろがり異例のヒット!私が最初にこの映画を知った時には、香川での公開予定はなかったのですが、いまや全国225館に。

SNSでは「ネタバレになるから内容は書けないが、とにかく見てほしい!」という熱い投稿が多く、なるべく事前に内容に接しないようこの日を迎えました。
Twitterなどのタイムラインでうっかりネタバレを目にする、ということがなかったのは、観た人たちが「この作品はできるだけ予備知識なく楽しんでほしい!」と思った現れだと思います。
まだ観ていない人は、この先は読まず、鑑賞後に読みにきてください!!

カメラを止めるな!=「幕を降ろすな」

とはいえ、私がこの映画を、純粋なゾンビ映画、ホラー映画と思って観に行ったかというとそうではありません。上田監督のインタビューで「三谷幸喜さんの作品の影響を受けた」というのを目にしてしまってました。
この「カメラを止めるな!」というタイトル、三谷ファンなら即座に東京サンシャインボーイズの代表作「ショウ・マスト・ゴー・オン~幕を降ろすな~」が思い浮かびます。

そして観終わった後は、まさしく三谷幸喜のシチュエーションコメディの作劇術の「基本」をきっちり押さえた作品だったと感じました。
かくいう私も学生時代に「ショウ・マスト・ゴー・オン」や「君となら」といった三谷作品にはまり、ビデオがすり減るくらい観てはその構成を分析、真似事のような脚本を書いたりしていました。
それだけに、この映画にあふれる「三谷愛」を強く感じ、久しぶりにその面白さを分析したくなり、この記事を書こうと思ったのです。

主人公には「動機」がある

「カメラを止めるな!」は、ゾンビドラマを、30分、生中継、ワンカットで撮影するという「無謀な企画」に取り組んだスタッフの奮闘劇です。
様々なトラブル、ハプニングを機転と偶然で乗り切っていく姿が観客の笑いと感動を誘うのですが、感情移入してもらうには、主人公(たち)が「カメラを止めない」動機をきちんと描いておく必要があります。

主人公・日暮隆之は冴えないテレビディレクター。映画監督、でないところが味噌。「早い、安い、質はそこそこ」がキャッチコピーで、バラエティの再現Vなどを手がける腰の低い姿。その前、37分間の「ONE CUT OF THE DEAD」(以下、第一幕と記載)で登場した、ちょっとクレイジーな映画監督とは似ても似つかない印象を植え付けます。

その対照として描かれているのが、映画監督(?)を志す・娘の真央。妥協を知らず現場で衝突を繰り返している姿を描いています。

そして、夜、アパートの部屋で、ビデオカメラを持った幼い娘を肩車している写真を見て日暮が号泣するシーン。
一義的には娘がもうすぐ家を出ていく寂しさによる涙、なのですが、この写真がラストの組み体操の「伏線」にもなりますし、父親に憧れて同じ道を志してくれた娘に恥ずかしい姿は見せられない、という日暮のこの作品中の「動機」にもつながってくるのです。

場をかき乱しつつ前に進める「部外者」の存在

三谷幸喜作品でも、きまって鍵を握るのが「部外者」の存在。
今作では、急遽代役として出演することになった日暮の妻で元女優の晴美と、娘の真央。
スタッフが、ワンカット生中継ドラマの成功という目標遂行に向けて動くのは、ある意味当然であって、そこに「たまたま見学に来ていた」2人が絶妙に絡んでくるのが作品のスパイスに。
晴美の機転でなんとか場がつながるところもあれば、暴走し始めてより混沌とするところも…。

そして、真央は音声マンの予期せぬ離脱後、台本を飛ばして進行することを提案したり、ラストシーンでも大活躍。頭の回転は早いけど空気を読まない「回し役」がいてこそのシチュエーションコメディ。(往年の三谷作品で言うことろの宮地雅子のような存在)
真央がいつの間にかモニター前に陣取って「後半戦、みんな集中していこう!」「…何者?(あれ誰?)」という下りはまさに三谷幸喜!って感じがして大好きなシーンです。

伏線回収「そうだったのか!」と「やっぱり!」

晴美の「ポン!」など、セリフやシーンそのもので笑わせてくれるところもありますが、シチュエーションコメディの醍醐味というと、やはり前半に撒いておいた「伏線」を後半で回収したところで生まれる笑いです。

その回収方法には、いくつかのパターンがあり、代表的なところでは「そうだったのか!」と「やっぱり!」。

「そうだったのか!」でいうと、第一幕で「怪我はない?」と繰り返し聞きあう、妙な間があるシーンが、実は時間かせぎだったのか!とか、小屋の中で怯える逢花の前に、誰か近づいたけどその後何も起きなかったシーンは「斧を拾って」というカンペを見せただけだったのか!(笑)とか。第一幕でちょっとした違和感をおぼえさせ、その種明かしをするというパターン。

そしてもうひとつの「やっぱり!」パターンは、観客に「きっとこの後こうなるんだろうな」と想像させておいて、そこにバシッとはまらせるというもの。これが鮮やかだと笑いの量が大きくなります。
今回でいうと、腰痛持ちのカメラマン・谷口と、カメラ回したがっているカメラ助手の早紀の撮影前のやり取り。

谷口「腰痛持ちに手持ちノンストップはさすがにこたえるわ」
早紀「私、手持ち得意ですよ」
谷口「だからやらさないって。この撮影はお前にはまだ無理」
早紀「動線も全部頭に入ってます」

ここで多くの観客は「そういえば、第一幕でカメラが横倒しになったまましばらく動かない場面があったな…」と気づいたのでは?
そして、案の定、動けなくなった谷口に変わってカメラを持った早紀が「グワーン、グワーンズーム」をするときの恍惚の表情!ここで一気に劇場が笑いに包まれました。ここも大好きなシーンです。

ラストはみんなひとつに

シチュエーションコメディの王道は、出演者に悪役はおらず、みんな「憎めない奴ら」。
今作でも、クライマックスの組み体操に、作品に文句ばっかり言っていたイケメン俳優も、なんとなくいい加減なプロデューサーも、泥酔してたカメラマン役の俳優も、みんな土台になって必死で支えています。クライマックスシーンに組み体操という超アナログなものを持ってくるあたりも、まさに三谷幸喜!
撮影終了後のみんなのすがすがしい表情、そして、そこに日暮と真央親子の昔の写真がオーバーラップし、うるっときてしまいます。

カメラを止めず、ワンカットで作品を最後まで通す、ということが一応成功していることは第一幕を観た観客は分かっているわけで、その裏でこんなドタバタが繰り広げられていたんですよという「種明かし」、そこに日暮の職業人としてのプライドと親子の絆、というもう一つの軸が加わる。実によくできた作品だったなぁとしみじみと感じました。

「盗作」騒動について…

最後に、蛇足ですが、私が観に行くちょっと前に巻き起こった「盗作騒動」について、少しだけ言及しておきます。
「原案」とされている、劇団PEACEの舞台「GHOST IN THE BOX!」を観ていないので、軽々しくは言えませんが、ここまで書いてきたとおり、「カメラを止めるな!」は三谷幸喜さんが得意とするシチュエーションコメディの作劇術の「基本」に忠実な作りであり、全体の構成自体も、それほど突飛なものではないと感じました。

「『カメラを止めるな!』はパクリだ!原作者が怒りの告発」という煽り見出しをつけた週刊誌報道のあり方にも問題がありそう…

※画像は「カメラを止めるな!」公式サイトからの引用です。

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