見出し画像

【番組感想】ETV特集「7人の小さき探究者~変わりゆく世界の真ん中で~」

2月27日の夕方、会議中にスマホに流れ込んできたニュース速報を見て、目を疑った。

「安倍総理が全国の小中高校に臨時休校を要請」

共働き世帯は誰が子どもの面倒を見るのか?間近に迫った卒業式は?あまりにも唐突な政府の決定に、愕然としたのを覚えている。当時、私が住む香川県ではまだ新型コロナウイルスの感染者はゼロ。クルーズ船の集団感染や、北海道で感染者急増のニュースが連日報じられてはいたものの、あの要請がきっかけで一気に「新型コロナ」が自分ごと化したといってもいいと思う。

以来、報道記者として、この「新型コロナ禍」とどう向き合うかを日々考えている。いま、この時代を切り取るのがドキュメンタリーの使命の一つだと思っていて、「新型コロナ」をテーマにした番組を作らずしてドキュメンタリー制作者を名乗っていいのかとすら思う。

"いま作るべき”ドキュメンタリー

そんな中、4月18日放送(23日再放送)のETV特集「7人の小さき探求者~変わりゆく世界の真ん中で~」は、まさに、いま作るべきドキュメンタリー番組で、視聴者というよりは、同業者として脱帽する一作だった。

新型肺炎対策のため突然、休校となった気仙沼市の小泉小学校。全国に先駆けて、対話を通じてこどもが考える力を育む授業「p4c(ピーフォーシー)」を行ってきた。“philosophy for children(こども哲学)”の略称で、東日本大震災をきっかけに始まった。6年生7人は卒業直前の突然の休校に揺れる現状を、こども独自の視点で捉え、言葉にしてゆく。彼らは学校がなくなった日々に何を考えたのか。
(番組ホームページより)

この番組が白眉なのは、臨時休校という「大人たちの決定」を受け入れざるを得なかった子どもたちの表情、生の声を克明に記録している点。
私も臨時休校の影響などを取材していたが、取材相手の方から「報道機関は、一番大切な子どもたちの思いをちゃんとすくい取っていない」と苦言を呈されたことがある。子どもへのインタビューを全くしていないわけではないのだが、教師や親の同意を得なければ勝手に話を聞けないし、なかなか初対面で深いところまで突っ込んで本音を聞き出すことは難しい。

そこに、カメラはあった

この番組で最も印象的なシーンの一つは、2月28日、小泉小学校の「6年生を送る会」の最中、校長先生から「3月2日からの休校が確定し、きょうが最後になります」と告げられる場面。言葉を失い、涙を流す6年生たち…

「大人だけじゃなくて子どもも意見を言いたいです」
「大人の意見だけで決めてしまっていいんだろうか」

番組は、去年12月から「p4c(ピーフォーシー)」という、対話を通じてこどもが考える力を育む授業を密着取材。6年生7人が、自分たちで問いを立て、意見を言い合うという先進的な取り組みを番組化しようとしていたところに、この「新型コロナによる臨時休校」が飛び込んできた。
だからこそ、6年生を送る会にもカメラを出していたのだし、それまでに取材者と子どもたちの間に信頼関係が築けていたからこそ、あの場面、あのインタビューが取れたのだ。しかも、この臨時休校の決定を受けて、残されたわずかな時間で子どもたちは対話をする。
取材者としては、当初の番組企画では全く思ってもみなかった展開だったと思うが、「ドキュメンタリーの神」がいるのだとしたら、まさにこの取材クルーに、このシーンを撮らせたのではないかと思わずにいられない。そして、スタッフはそれに見事に応えた。

「あなたは今、何ですか?」

印象に残ったシーンは他にもたくさんあるが、「まる」さんという、7人の中でもひときわ深い発言をする女の子へのインタビュー。
「アトラクトライト」という歌を聞いていたまるさん。

大人になったら
あれに成りたいってみんな言うんだけれど
じゃあ何にもなれないんだろうか
今日の僕は

先生から「将来の夢」を聞かれて、「今の僕は何でもないのかな」と思ったという。そして、ディレクターから「今のまるちゃんは何者だと思う?」と聞かれると…

まるさん「じゃあタブチさんは今なんですか?プロデューサーですか?
カメラマンって答える?マイク?」
ディレクター「みんな肩書は、ディレクター、カメラマン、音声マン」
まるさん「自分は何ですか?って聞かれたときに仕事を言うの?
そしたらわしは小学生?…でも多分そういうことじゃない」

小学6年生からまっすぐな目で問いかけられる。これは見ている全ての大人たちへの問いかけ…。無言の間も含め、このインタビューはすごく刺さった。いまだ余韻から冷めやらぬ感じ。
2020年、"コロナ禍”をテーマにしたドキュメンタリーはこれからどんどん作られると思うが、このタイミングで、この良質な番組が流れたことは、やはりNHKという組織の底力だと思う。とはいえ、負けずに、もっといい番組を作らなければ…大いに刺激を与えてくれた。

※トップ画像は番組ホームページから引用させていただきました。


Twitterでも、ノンフィクション本の感想やコンテンツ論、プロ論をつぶやいています。よければフォローお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?