見出し画像

天才達が織りなすジュブナイル的名作映画 浅草キッド


 とても良い作品だった―
そんな語彙力が地の底に着くのを通り越し、マリアナ海溝まで沈んでしまった表現が、私の最初の感想である。
名作を見終えた後のあの虚脱感と、得も言えぬ高揚感や感動が私の心を強く躍動させ、タップダンスの如くいつまでも強烈なリズムを刻んでいた。 
 この映画の感動を何とか形に残したいと思い、noteに想いを書き綴っている次第である。

 私は「お笑い」が好きだ。特に「漫才」や「コント」には目が無い。
好きな芸人のyoutubeチャンネルの動画は何回も見てしまうし、その数分の掛け合いは
まるで田舎の真冬の夜空の様に荘厳且つ煌びやかに私の網膜に焼き付くのだ。

 そんな数多いるお笑いレジェンド達の中で、私は北野武が特に好きなのである。
彼の才能は芸人という枠組みではとても収まらない。北野映画は世界中で評価されているし、その博識さ故文化人的としての評価もある。
天皇陛下に祝辞を送ったことを知っている方も多いのではないだろうか。
 その華やかな経歴にはもちろん影もあり、バイク事故で命を落としかけたこともあり、更にはフライデーを襲撃したりと犯罪上等な事件も過去起こしている。

映画監督なのか、破天荒なのか、文化人なのか、芸人なのかわからない彼の魅力を以下、大きく4つにまとめてみた。

魅力①:多方向でのIQの高さ
『平成教育委員会』や『たけしのコマ大数学科』等の数学に関係する番組をやっており、非常に数学に造詣がある。
彼の情が厚く、それでいてドラスティック且つ論理的な考え方はここに起因していると思っている

魅力②:数ある伝説番組の立役者
もはや説明不要とは思うが、「オレたちひょうきん族」「スーパージョッキー」「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」
等80年台のTVはたけしが相当支えていた事は疑いようがない。

魅力③:世界のキタノと呼ばれる程世界でも評価される芸術性
たけしの映画は皆さんご存じの通り、世界で大きく評価されており、カンヌ国際映画祭・ベネチア国際映画祭等で数多の賞を受賞している。
▼参考
https://eiga.com/person/26036/award/
圧倒的な「画」で見せるその映像美は必見だ。私は「その男、凶暴につき」と「HANA-BI」、「菊次郎の夏」の三作を強くお勧めする。まだ見ていない方は必見だ。
映画の随所に散見される「キタノブルー」は心象風景の究極系ともいうべきだろう。故に強く我々の印象に残っているのではないだろうか。

魅力④:不器用だが純粋な漢気
少し抽象的な話になってしまったが、こちらに関しては文章よりも実際に下記動画を見てもらうのが早いだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=QbR32nVWuvY 
上記はフライデー襲撃後の謝罪会見の映像で、たけしの魅力が十二分にわかる筈だ。

 合理性と不合理性を含む性格をアトランダムに鍋に入れて混ぜ合わせたら偶然出来上がったような、そんな人間性である。
そんな彼の序章ともいうべき始まりの物語がこの「浅草キッド」であり、その数奇な人生の原点は多くの人が興味を持つこと請け合いではないだろうか。


 ここから本編に関して語ろうと思うので、以下よりネタバレ要注意だ。


 まず、良い芸術作品とは引き算にて作られたものであると私は考えている。
私が愛してやまない音楽で例えると、King of Popことマイケルジャクソンの楽曲がそれに当たる。
 彼の曲は今聞いても当時のまま色褪せずに格好良い。彼の映画This is itでもあった通り一つの音にも拘っていたことが伺える。
 今の音楽を悪いとは言わないが、最近のj-popの潮流の真逆ともいえる程マイケルの曲(特にビート部分)は無駄な音が入っていない。
 シンプルかつ洗礼されたその音たちは地で「音楽」を体現している素晴らしい構成だ。
―話を戻そう。マイケルの楽曲同様にこの映画も演出やセリフの一つ一つが無駄のない「粋」な作りになっているのだ。

▼冒頭の凄さ

 一瞬本人か?と見紛う程似ている。(実際は俳優の柳楽優弥による特殊メイク)

 今のビートたけしの状況からそこに至るまでの過去話としての前振りとしてとても分かり易い構成だ。
無駄なモノローグなど一切入らず、いきなり過去に戻る事で視聴者にもなぜここに至ったのかが語られる事を伝えている実に見事なイントロダクションだ。

 華やかな現代から一転舞台は1974年に遡る。
キャバレーの営業に来た2人が事前の練習を行っているところから始まる。いざ本番が始まるも、客は嬢に夢中でたけし達をまともに見る者はいない。
たけしはその状況に腹が立ち声を荒げ客に舞台上に上がるように促してしまう。慌ててそれを止めようと何故かマジックをし出すきよし。
それも虚しく客と一悶着あり、たけしの「芸人だよバカヤロー!」と静かに唸り冒頭は終了。ここからビートたけしの浅草キッドが流れ出す。この曲は最初と最後で印象がかわるところも良い。
(ちなみに冒頭の話は本人も語っているので、是非下記動画も見て欲しい。)
https://youtu.be/XNIqeDf8mlM

 この冒頭の数分で当時たけしが漫才にかけていた情熱がわかるし、師匠の教えがしっかりと礎にあった事が2週目以降の方なら分かるはずだ。
本当に良くできた冒頭だと思う。劇団ひとりの監督しての才能に心底関心した次第である。
 この調子で全てを解説してたら何万文字あっても足りないので、要点を掻い摘んでいこうと思う。

▼音楽の使い方の巧みさ
この映画において音楽は芸事と密接にリンクしている。(タップダンスやストリップ等)
そして劇中BGMはあまり使われない。
そのおかげで、俳優達の演技のうまさがより際立っていた。

▼師匠の格好良さ
大泉洋演じる師匠こと深見千三郎が素晴らしい。
どちらかと言うと三枚目のイメージのある彼だが、今回は冒頭のタップのシーンから大人の色気漂う格好良さだ。
この映画そのものであるような粋な性格、人間性に心打たれた人も多いのではないか。
こういう渋い大人がぜひ世の中に増えて頂きたいものだ。(偏屈で頑固親父が増えるのは勘弁頂きたいが 笑)

※私の心に残った師匠の名言を備忘録的に記しておく。

「普段ボケない野郎が舞台でボケられるわけねぇだろうが」
「他のところはしらねぇ。でも俺のとこでやりてぇならな笑われんじゃねぇぞ。笑わせるんだよ。」

▼俳優達の圧倒的な演技力
柳楽優弥さんと大泉洋さんお二人の演技は凄まじい。
恥ずかしながら柳楽優弥さんの事は存じ上げなかったのだが、彼の演技をもっと見てみたいと思う程素晴らしい役者だ。
柳楽優弥さんは憑依型な感じがした。若い頃のたけしのイメージ通り過ぎて驚いた。役作りにあたり、相当研究したらしくその完成度の高さからも伺えるだろう。(完全に余談だが、夜凪景を思い出した。アクタージュ…願わくばいつか続きが読めることを願っている。)

ストーリー、演出、役者、邦画の中でも相当上の方に入る部類の完成度であった。
また時間をおいて三回、四回と見る作品だと思う。

劇団ひとり監督の次回作期待してます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?