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ひさかたの天ゆく月を網にさしわが大君はきぬがさにせり 柿本人麻呂

空を行く月を網にさし、
君は傘にして広げてみせた。

万葉集

この歌にでてくる大君(おおきみ)とは、人麻呂が仕えた天武帝の皇子、長(ながの)皇子のこと。
というと、天皇の皇子の威光をたたえるような、この歌のひとつの側面があらわになってくるようだが、しかし、それはあくまで一つの側面でしかなく、もっとシンプルにこの歌一番の魅力は、と考えたら、やはり、月に網をさし、衣笠にしてしまう人麻呂の、自由自在な想像力だろう。
この表現はイマジネーションの壮大さと、現実とのギャップの大きさが(実際にはそんなに月は大きく見えないため)独特のユーモアを醸し出し、まるで彼氏が彼女を描写しているような、滑稽さと、夢見心地な気分が入り混じった、ひとつの世界を現出している。

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