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【番外編】カフェ・バッハ

ずっと来たかったバッハにようやく来ることができた、前回の反省を活かし、今日はちゃんと営業しているかネットのカレンダーで確認してから来た、しかし本来それが普通なのであって、反省を活かすまでもない、入るとすぐに声をかけられ、一人です、というと、カウンター席に案内される、荷物は席左下のカゴへ、椅子まで引いてくれた、機敏で、しっかりとした接客、オーダーが決まって顔を上げると、スタッフと目が合う、常に客の存在を意識し、要望があれば、というよりその要望が生まれた瞬間にすぐさま対応できるようにスタンバイしている、そんな印象だ、初めてなのでバッハブレンドと、お腹が空いていたのでトーストを頼んだ、カウンター席でバリスタの所作を見つめながらコーヒーを待つ、

来た、中深煎りのバッハブレンド、焙煎の度合いはメニューに書いてあったので確認済みだ、カップを口へ運ぶ、香りが揺らめき、鼻腔をくすぐる、飲む、甘味、酸味、苦味、三位一体の素晴らしいバランスを保ちつつ、その中でも酸味が際立って美味い、グアテマラか、味わいはスッキリとして濃厚さのない、気品あるコーヒー、懐の深さというか、なんとなく、余裕を感じる味だ、コーヒーを味わっているあいだに、常連客が訪れ、豆を買っていったりする、小耳に挟んだそんなやり取りからも、やはり良い店だな、と思う、昭和を感じる、だがそれは、良いと感じる理由ではない、昭和だろうが中世だろうが令和だろうが、良いものは良いのだ、そう気付いて初めて、昭和を感じることがただ純粋な事実として、真に胸に迫ってくる、善悪の彼岸で、星として輝きを放ち始める、不朽の名著のように、あるいはやはり、バッハの音楽のように。

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