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To make a prairie ——大草原をつくるには

To make a prairie it takes a clover and one bee,
One clover and a bee,
And revery.
The revery alone will do,
If bees are few.

大草原をつくるには、一本のクローバーと一匹の蜜蜂がいればいい。
クローバー一本と、蜜蜂一匹。
それと、夢。
夢、だけでもいい。
もしも蜜蜂が、見当たらないのなら。


まるで、大草原をつくったことのある神のような言い草。
あるいは自らキッチンに立ち、料理のレシピを人に教えているかのような臨場感も漂う、そんな調子のおもしろい詩を訳してみました。

一行目で、こうやって作りますよ、という説明をして、二行目は実際に、クローバー一本と蜜蜂一匹を手にとって見せている。端的な言葉選びと繰り返しの表現が、そんな場面を想起させます。たったこれだけでできちゃうの、すごいでしょう、そんな含みさえ感じさせる簡潔さ、ところが……。

実際は、それだけで大草原をつくることはできなかった。物質的にはクローバー一本と蜜蜂一匹だけで大草原をつくることができるとしても、それを信じて待つ根気、できるんだという、無邪気な待望、あるいは、夢。そういったものがなければ、大草原はつくれない。

実際に料理を教えるような状況でも、最初に説明した材料以外のものが、つくってる途中で必要だったことに気付くシーンってありますよね。
「もし〜(食材や調味料)がなければ、……でも構いません」みたいなフレーズも、お馴染みのものでしょう。

三行目に、「それ」が必要だったことに気付き、
四行目にはそれどころか、それが一番大事なものだったと思い出すことで、
別の次元へと、詩が展開していく。

ここの流れが、個人的には一番好きなポイントです。
流石に料理でこういうことは起こらないと思うし、これが料理動画じゃなくて詩だったことを、思い出させてくれるからです。


『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICKINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR

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