見出し画像

未来ノート

夕方の人込みの中
すれ違いざまに
見知らぬ男から
いきなり紙袋を渡された。

とっさの事だったので
状況が飲み込めずにいると
片手をあげて
「グッドラック」
そう言って、男は立ち去った。

手には、紙袋が残っていた。
警察に届けようと一瞬思った。
しかし、好奇心に負けて
恐る恐る開けて見ると
中には一冊の黒いビニールカバー
の付いたノートがあった。
100均にでも売ってそうな
ありきたりの物だった。

それならきっとノートの中には
大事な事が書かれているに
違いない。
そう思って急ぎ開いてみた。
1ページ目に大きく
「未来ノート」と書いてあるだけで
後は何も書いていなかった。

渡された状況が
あまりに唐突であったので
貴重なもの、事件性があるも
何か特別なもののように思って
ドキドキしたが
少し拍子抜けした。
警察に届ける気も失せてしまった
そのまま家に持ち帰った。

自室で、
もう一度そのノートを開くと
今度は「未来ノート」の文字の下に
未来に付いての
質問や望みを書くようにとあった。

さっき見た時は、
何も書かれてなかったはずだ。
文字が増えている。
それとも、最初から書かれていたのを
ただ見落としていただけ・・・・。

そこで試しに
18歳の自分がいま最も気になっている
重大な問題について質問した。

「未来の俺は、親父みたいに
ハゲになるのか?」
そう書いて、しばらく眺めていたが
特に何も起こらなかった。
そうだよな。勘違いだったんだな。
俺は何を期待してるんだろう
そう思って、ノートを閉じた。

机の隅に置いたまま
しばらく忘れていた
ノートを見つけて
久しぶりに開いてみたら
自分が書いた質問の下に
「残念ながらそうなる。」
と書き加えられていた。

慌てて、ノートを閉じた。
将来ハゲること以上に
返事が来たことに衝撃を受けた。
まるで、未来とのLineだ。
すごいものを手にしている事になる。

もう一度ノートを開いてみると
質問は3回、残り後2回と文字が
付け足されていた。

未来を知る事が可能なら
上手く使えば、
大金持ちになれる事ぐらい
自分の様な若く、経験の少ないものでも
すぐにわかる。

あと2回をどのように使うか
ここは慎重に考えなければと思った。

そうだ、競馬の勝ち馬だ。
いやもっと大きなものを狙うべきだ。
アメリカのロト宝くじが良いかも。
当選数字が分かれば、楽勝で稼げる。
いやもっと、上手い方法は無いかな・・・
あれやこれやと考えを巡らせていた。

そのうちに、金じゃなくて、
未曽有の天災の日時を知っていれば
大勢の命を救えると考えるようにもなった。

しかし、自分のような若造の言葉など
後で正しかったとしても
誰にも信じてもらえないだろうな
それならあまり意味が無い・・・

次々と妄想が浮かんでは消えた。
ふと、自分の寿命も分かることに気付いた。
でも、知りたいけども怖くて聞けないと
思い直したりして
考えがフラフラしてまとまらない。

「まてよ、何故俺なんだ」
その時になって、
ようやくそこに考えが及んだ。

これ程の、大きな力を与えてくれるには
その見返りも要求されるに違いない。
しかし若い自分は、
見返り分など、何も持ち合わせていない。

本当にそうなのか?
本当に何もないのか?
自問が始まった。
もし、大切なものを失うとすれば
それは何か?
未来、家族、若さ、命
そうだ、それに違いない。
大きなものを望むほど
対価は大きいはずだ。

今なら、将来のハゲ程度で済む。

そう言えば、あの男は渡す時に
「グッドラック」と言った。
グッドラックとは、
「頑張れ、成功すると良いな」
の意味もあるが、
「せいぜい頑張りな」の
皮肉の意味もあるようだ。

何日、何日も悩んだ結果
ノートにはこう記した。
「あと2回の質問はありません。
将来ハゲないように
これから、髪の毛を大切に守ります。」

このノートが
もし見返りを求めないものならば
もったいない事をしていると
後ろ髪をひかれながら
なかなかノートを閉じれなかったが
やっと決心してノートを閉じた。
一呼吸おいて、
思い切ってもう一度ノートを開いてみた。
すると、返事が来ていた。

  「 GOOD CHOICE  !!

やはりそうだったのか
自分の結論は正しかったなどと
思いがぐるぐると廻った。
はっと、我に返った時
ノートは、いつのまにか消えていた。









この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?