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紫陽花

 雨音はショパンの調べ、な、わけがないだろう。先ほどから降り出した雨はバラバラと乱暴な音を立てながらアスファルトぶつかっては跳ね返っている。今夜の雨はやたらと乱暴に降っている。

 私達はアスファルトを叩き壊そうしているのだ。

 とでも言い出しそうな荒々しい雨音が、絶えず鼓膜を震わせてくれるので、束の間微睡みから直ぐに現実に引き戻されてしまう。早く夜の夢のまことの世界に潜り込まねばならないのに、雨音がどうしてもそれを許してはくれない。しかし、うるさくあれど、不思議と腹の立たない稀有な音でもある。

 バラバラ聴こえる音の中に、鈴の音色のような、心地よい色を不意に見出す瞬間がある。とても美しいそれを見ると、現世も夜のまこともこの世の何もかもが、どうでも良くなってしまうのだ。

 美しい音の色と共に、夕刻、道端で出会った病気の紫陽花を不意に思い出した。葉には褐色の無数の斑点、透けるような花弁には幾つもの血豆ができ、美しい穴まであいていた。
 もうすぐ、朽ちるのが匂いでわかるほど、衰弱した優美な花であった。

 あの子の上にもこの乱暴な雨は降り注いでいるのだろうか、とぼんやり思う、梅雨の時節の花といえど、こうまで乱暴に降られたら衰弱した四肢は痛むだろうなと、少し悲しく思う。

 不意に雨音が、また鈴の音の色を作り出した、瞬間、微かに、彼女の淡い死臭が鼻腔を掠めた。その匂いは、形容し難い、例え難い、美しい紅色をしていた。


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