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最良のさようなら

さようならを完璧に作り上げるためだけに、関係性を継続していた。
今の今までが、最良の、最善の関係性であったから、最後の最後まで、完璧なさようなら、にしなければならない。

彼は相変わらず、脳天気に笑っていて、時折隠しきれない頭の良さが会話の端々に出ていた。
此方への激情とも言えるような強い感情は、感じ取れなかったし、私自身も鼻からそれを持ち合わせていなかった。

それでも出会ってしまって、なんだかんだの月日が流れてしまったので、未だ彼の隣を陣取っている。
他に彼に激しく恋愛感情を向ける相手はいくらでもいるだろうことはわかっていた。しかし、彼がそれを望まないこともわかっていた。

鎖骨に埋まった赤い糸をそっとリッパーで解きながら、おそらく今は今で、今あるべき最良の形を構築しているんだろうと、ぼんやりと思う。

私が彼に、本心から望むのは、安定とか安心とかありもしない永遠とかそういう類のものだったが、それすらもはやどうでも良かった。

空気がぬるま湯に変わった瞬間から、私は、完璧な終わりが来るまで、彼の隣にいる事をやめないだろう。多分、きっと、おそらく、そう。

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