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短編集

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短編集まとめ
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#詩

スイカズラ

走馬灯のような夜だった。 まるで、走馬灯のような夜だった。 背の高い建物は何もないのに、…

m.
2年前
4

シェルター

雨粒が、やけに酷く音を立てて 窓硝子を何度も叩くので 重い脳を無理矢理持ち上げ 完全遮光の…

m.
2年前
6

静寂

キンとした幻聴 無色の音 限りなく黒く 限りなく白い 午前四時半 朝刊配達のバイク いつもな…

m.
2年前
5

朝露の硝子

その朝、窓辺に神は不在だった 神の不在によって、愛の存在が証明された 愛の存在によって、死…

m.
2年前
7

蝶形骨とナルシスの溺死

人間が蝶を愛するのは、人間の、その頭蓋に1匹の蝶々を飼っているからである。 無論、全ての…

m.
3年前
9

幾千幾万の嘘が、時間という骨組みの中で膨張して「世の中」とかいうものが出来上がっているわ…

m.
5年前
12

逃避

確かに所有していた四肢が いつしか鉛にすり替わって 重く軋んで動かない。 脳から垂れた憂鬱の尾びれ、 目の覚めるようなどろどろの群青。 瞼の裏から呼気に逃げ込み きっと二度と出会えない。 昨夜芽吹いた眼球と、 一昨日羽化した心臓と、 ほんの少しの肉片を連れて、 コンクリートのヒビに隠れる。 ルージュと煙の乾いた匂いで 愛しい肺は干からびた。 時計の秒針歪んでいるから、 今以上を構築しても もうあの赤には会えないな。 #小説 #詩

オートマチック

真昼の空から砂漠の砂が 夜闇の木漏れ日抜けていく 空の一等端のあそこに 空いた無数のあの穴…

m.
5年前
7

足らない側

空になったコーヒーの缶に 捻じ込まれた吸い殻みたいなもんだよ。 ざらざらした匂い。 感情の…

m.
5年前
9

葬送

梅が咲くから祖母の声 梅が咲いたら身が落ちる 卓上に在ったはずの鉛筆 行方不明で何も書けな…

m.
5年前
11

No.1

何遍でも夢想する 幼少期、天井の木目を見過ぎたせいだ 樹木、花弁、猫、人間、虹彩 際限なく…

m.
5年前
7

回想

午前5:20、白くなった空と液晶の青い光が網膜を刺す。 途端、後頭部から背骨の途中までぱっく…

m.
5年前
8

轢死の林檎

夢の終わりの冒頭で、まぶたを朝日に刺されたせいで、空蝉に、夢の澱が流れ込む。 21mgのター…

m.
5年前
7

死臭

幼少の無邪気さを持って、道端の虫を捕まえる。 捕まえたのち、解体するバッタ、踏み潰す蟻、哀願するカマキリの目、既に死に絶えた蝶の羽を鱗粉ごと蹂躙し保有する。 優越、悦楽、背徳、小さな反抗。 鼻腔に仕舞い込む死臭。 来世は虫じゃないといいね、という、傲慢なる気の違った善意。 小さな命の羽音を生命体として認識できない分別のなさ。血肉の終わりも仕舞い込んだ死臭も、いずれ手前の腕に、足に、未熟な脳に、降りかかるものだと気付けない無知。無邪気さの罪悪。 己の首の締まる瞬間に認知す