見出し画像

蝶形骨とナルシスの溺死


人間が蝶を愛するのは、人間の、その頭蓋に1匹の蝶々を飼っているからである。

無論、全ての人間が、蝶を愛するわけでは無い、が、その他の虫に類する生き物と比べ、蝶の寵愛のされ方は異様とも言える程である。

その理由として、人間の、頭骨のかくあるパーツを結合する、蝶形骨というものが全ての根源であり、蝶に美を感ずるのはある種のナルシシズムの変容でしかないのだ。

ナルシスが、水面に映った自己の造形を愛し、そうして醜い水死体に成り果てた後、ナルキッソスの花を咲かせた様に、人間は蝶形骨に取り憑かれ、そうして無意識の自己愛の成れの果てとして、死後鱗粉を撒き散らす、ひとひらの蝶になるのである。

蝶になった死者は、羽のような、花弁のような極彩色の腕をばたつかせ、毒性の鱗粉を撒き散らしながら、火葬場で焼かれた己の骨を、または、土葬で腐乱した悪臭漂う己の肉を、その習性として49日眺めて回る。

そうしてそれが過ぎると、そっと墓石をずらし己の遺骨を啄むか、そっと土を掘り起こし、己の肉体であった悪臭と緑色の変色を纏った、肉塊を啄む。

そうして、蝶形骨に取り憑かれた、変質的自己愛主義者は、水仙の花の代わりに、完全体の蝶に変容するのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?